日本は成功者に厳しいといわれています。最たるものが税金です。2022年からは所得が高いほど高くなる(累進課税)の対象である税金に医療費も上昇する?というニュースが流れています。健康保険証を持っていれば医療費は均一のはずなのですが、どういうことでしょうか。
公的年金制度も含めたこのあたりの制度設計はとても複雑です。1つずつ噛み砕いて説明していきます。
高額療養費は不足の医療費拠出をカバーする制度
投資家のなかにも会社勤めの方がいます。会社勤めの方は組合・協会健康保険制度、自営業の方は国民健康制度に加入しています。この制度に加入していることにより、病院に通った際に現役世代では3割が自己負担上限額となります。
この健康保険制度のなかで、自己負担額が設定されているのは他にもあります。それが高額療養費制度といわれるものです。
高額療養費制度とは?
高額療養費は1カ月の医療費が一定基準を超えたときに、自己負担限度額を超えた金額を公的健康保険が支払ってくれる制度です。普段の生活でまとまった医療費を払っても大丈夫、という預貯金は準備できていない世帯に対する救済策の意味合いがあります。
高額療養費を利用するには、まず先に健康保険制度での自己負担上限額を支払い、のちに高額療養費分が還付されます。なおあらかじめ高額療養費の限度額適用認定証を医療機関に提出していると、療養費分を引かれた医療費のみの支払で完了します。
なお高額療養費は1カ月をまたいだ時に月ごとの清算になってしまう点と、複数の医療機関を受診したときにまたいで適用されないという点に留意しましょう。そういう意味では少し使い勝手の悪い制度と認識されていますが、過剰な生命保険加入を避けるために上手に活用できる仕組みでもあります。
投資で成功した人は医療費があがるのか(配当所得について)
投資をして得た利益には税金がかかります。配当所得という所得税の一種です。会社員として得た給与にも所得税がかかりますが(給与所得)、税金の計算方法は異なります。
(国税庁のホームページより)
配当所得とは、株主や出資者が法人から受ける剰余金や利益の配当、剰余金の分配、基金利息、投資法人からの金銭の分配または投資信託(公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託以外のもの)および特定受益証券発行信託の収益の分配などに係る所得をいいます。
給与所得 | 収入金額 - 給与所得控除額 |
配当所得 | 課税対象金額 - 配当控除額(ない場合もある) |
高額療養費は標準報酬月額のため「配当所得」は対象外
高額療養費の対象になるのは標準報酬月額です。標準報酬月額は給与または自営業者の報酬が対象となるため、通常の配当所得は含まれません。同様に対象外になるものに不動産所得や一時所得があります。一時所得とは競馬・競輪の払戻金や生命保険の満期金などです。
(高額療養費と算出計算式※一部抜粋)
所得区分 | 1か月の自己負担額 | 多数該当 |
ア 標準報酬月額83万以上 (報酬月額81万円以上―)[阿部1] [株式会社FP-MY2] | 25万2600円+(総医療費-84万2千円)×1% | 14万100円 |
イ 標準報酬月額53万~79万 (報酬月額51万5千円以上81万円未満) | 16万7400円+(総医療費-55万8千円)×1% | 9万3000円 |
ウ 標準報酬月額28万~50万 (報酬月額27万円以上51万5千円未満) | 8万100円+(総医療費-26万7千円)×1% | 4万4400円 |
参考:全国健康保険協会(協会けんぽ)ホームページ
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3030
ここまでの結論では、投資で成功した方に対する高額療養費制度は変わらないと導くことができます。
投資の利益を「給与」として受け取っている場合は高額療養費に注意
個人で投資の利益を受け取っている場合は問題ないですが、資産管理会社や不動産会社として法人で運用している場合は高額療養費の計算式の対象になります。これらの会社は法人のため、給与または役員報酬を受け取るためです。
投資の利益を法人受け取りとすることで節税となる部分もあるため、資産管理会社とすることでの恩恵は確実に存在します。高額療養費にすることで自己負担が上昇する部分と比較しながら判断していくことが大切です。このあたりは専門分野とする税理士と随時相談して自分(自社)にとっての最適解を進めていきましょう。
高年齢の投資家には令和4年の法改正が関係する
ニュースを見ていると、令和4年の医療費の見直しが報じられています。ちらっと見ただけではまるで全世代の医療費が上がるような報じ方をしているメディアが多いのですが、あくまで75歳以上の後期高齢者医療制度の自己負担割合(現役並み所得者)が上がるという話です。
高額療養費制度は関係ありませんが、どこからのミスリードか、令和4年に高額療養費制度も変わる!と誤解しているところも目立ちます。繰り返しますが、令和4年に改正されるのは後期高齢者医療制度です。なぜこのような誤解がうまれるのでしょうか。
テレビを見ているとさも自分も関係ある負担増加と思ってしまいますが、いわゆる段階の世代が75歳になるタイミングでの制度改正です。また背景として、テレビを見ている方が圧倒的に高齢者が多く、「自分ごと」になっているという背景もあります。
投資で成功した方は海外に拠点を移すのも有効な手立てですが、このあたりの制度改正のうち、自分にはどのように活用することができるのか、そして自分にとってのリスクヘッジはどうすればいいのかを考えるのも大切なプロセスです。いまの自分にとって何が必要な情報なのか、何が対象外の情報なのかを取捨選択することが、投資で利益を生むことができた方にとっての次のステップといえます。
