株式市場を見る上で、どのような銘柄が物色されているのかを知るには、様々な株価指数を見る必要があります。JPX日本取引所グループは、多くの株価指数を日々公表しています。最近の業種別株価指数を見ると、近年最高値を更新した業種である輸送用機器や卸売業が堅調に推移しています。今回は、最高値が視野に入っている(2023年11月23日執筆時点)東証業種別株価指数・小売業について考えて見ました。今後最高値をつけると、一段の上昇が期待できそうです。
最近の業種別指数の動き(一部)
ここでは、9月に最高値を更新した業種別株価指数として食料品株と、最高値を前に足踏みをしている小売業株の動きを取り上げています。これらの業種の強気材料としては、値上げが行われている中でも収益が落ちにくい(節約の対象となりづらい)ことが挙げられます。そこで、値上げをすると収益が落ちてしまいがちな業種として、サービス業株、陸運業株、空運業の推移と共に示してみました。節約の対象になりにくい2業種の好調さが見られています。
業種別株価指数・小売業とは
業種別株価指数について検索してみますと、以下のホームページで詳しく説明されています。(https://tbladvisory.com/online/2023/04/04/stock-industry-jp/)
小売業は、商品を直接消費者に販売する業種。デパート、スーパーマーケット、ドラッグストア、コンビニエンスストアなどが含まれます。消費者の消費パターンや景気に影響を受けやすく、景気が好調な場合、小売業の売上高が増加し、株価は上昇する傾向があります。オンライン販売の急速な普及や、消費者のニーズや嗜好の変化など、市場環境が急速に変化するのも特徴の一つです。
業績面で小売業はすでに最高益を更新
以下は日本経済新聞10月18日18面の記事から一部を抽出しました。業績面ではすでに最高益を更新したものの、実質賃金がマイナスになっていることなど懸念材料も示されています。
- 本業のもうけを示す営業利益は2023年6-8月期に前年同期から3割伸び、四半期ベースで過去最高でした。円安を追い風にインバウンド(訪日客)消費が活発です。国内富裕層による高額品消費や値上げによるコスト転嫁も進んでいます。
- ただし、厚生労働省が発表した実質賃金は8月まで17カ月連続でマイナスが続いています。原油高になれば消費の冷え込みが予想されます。
(厚生労働相のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/new-info)を見ると、9月も実質賃金はマイナスが続き、18カ月連続のマイナスとなりました)
- JPモルガン証券の村田太郎氏は「春季労使交渉で中小企業を含めた賃上げの動きが進めば24年中には実質賃金はプラスに転換し、消費者心理の改善につながるのではないか」と述べています。
今後発表される2023年9-11月期決算内容が良好であれば、最高値を更新する可能性は高いと思われます。
収益性の高いPB(プライベート・ブランド)商品の比率を高めている
(日本経済新聞11月15日1面、3面より)
小売り大手は、食品など生活必需品で割安なプライベート・ブランド(PB)を拡充しようとしています。イオンは食品PBの半分を刷新し、セブン&アイHDは低価格帯PBを倍増させます。スーパーの食品販売額に占めるPB比率は10月に過去最高の約17%に高まっており、店頭価格の上昇は鈍化しています。
- PB(プライベートブランド)とは
小売業・卸売業が企画・開発し、自社で販売する独自ブランドの商品を指します。メーカーが作る「ナショナルブランド(NB)」商品の同等品と比べて割安なのが特徴です。メーカーに生産委託し、小売りの配送網活用や宣伝費をかけないなどのコスト抑制策でNBよりも利益率が高くなります。
最高値更新が視野に入っている小売業株
下図は、東証業種別株価指数・小売業の動きとその36カ月移動平均乖離率の推移を示したものです。
業種別株価指数・小売業は、日経平均株価が高値・安値をつけた時期と近い時期に高値・安値をつけており、日経平均に連動しやすいと言えます。日経平均株価が年末に向けて上昇傾向になるなら、業種別株価指数・小売業も堅調な展開になることが期待できそうです。
足元は、1989年の高値に近づいています。この水準を上抜ければ勢いが付く可能性があると考えます。勢いが付くようだと、36カ月移動平均とのかい離率も上昇する可能性がありそうです。過去には60%水準まで上昇しました。
株価が高値・安値を切り上げたか切り下げたかと同様に、移動平均乖離率も水準を切り上げたかどうかは重要なポイントであると考えます。近年は、マイナス10%~プラス20%の範囲で動いており、今後は上方に乖離するか、下方に乖離するかは重要だと思います。今後は、動いた方向に大きく動く可能性がありそうです。
「東証業種別株価指数・小売業」を対象にした75日移動平均乖離率の推移
下図は、最近の東証業種別株価指数・小売業とその75日移動平均乖離率の推移を示したものです。
アベノミクス以降は3年弱おきに高値をつけています。2021年に高値をつけていますので、サイクル通りに動けば2024年に高値をつけることになります。
日経平均の25日移動平均との乖離率は、一般的に、プラス5%を超えると上昇ピッチが速いとされ、マイナス5%を下回ると下落ピッチが速いと言われますが、近年の東証業種別株価指数・小売業の75日移動平均乖離率を見ますと、プラス15%前後で上昇が止まりやすく、マイナス15%前後で下落が止まりやすい傾向があります。
75日移動平均乖離率のここ1,2年の推移を見ると、プラス10%弱~マイナス10%強の範囲で動いており、今後は上方に乖離するか、下方に乖離するかに注目すべきだと考えます。動いた方向に勢いよく動く可能性がありそうです。
今後の戦略は
今回は、東証業種別株価指数・小売業で、業績面、サイクル的傾向、2つの移動平均との関係などを取り上げました。業績面やサイクル的傾向を参考にすると、現在は悪くないと言えそうです。今後、当業種別株価指数が最高値を更新し、移動平均かい離率で高い水準をつけるようだと、さらに上昇しやすくなる可能性があると考えます。
参考資料としてご活用いただければ幸いです。