空売りの恐ろしさと、それを凌駕する魅力と

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最初に。「空売り」とは、極めて恐ろしいものです。

あらかじめこれだけは、念押しさせてください。「買いは家まで、売りは命まで」という、空売りの恐ろしさ。「空売り」は極めて怖いものです。「そんなの知ってるわい!」という方でも、ぜひもう一度振り返りの意味で、書かせてください。買いの場合、たとえば「元本100万円で、信用取引をフルに使って300万円。その会社が倒産した」場合でも、マイナスは300万円。純粋な損失は200万円なので「借金200万円」のみで逃げ切れます。

しかし、空売りの場合は天井がありません。連続ストップ高で逃げれなかったら、損失は無限大に拡大してしまいます。「売りは命まで」と言われるゆえんです。

たとえば、バリュークリック・ジャパンという会社は連続15日ストップ高を演じ、2200円から1万8220円と8.2倍に暴騰。先ほどの例をあげると300万円×8.2倍で2460万円の損が確定になり、元本の100万円を引いても見事「借金2360万円」となります。

ちなみに、この会社は後に、ホリエモンこと堀江貴文氏で有名になったライブドアの傘下になります。諸行無常です。

なお、「下がっても儲かるの意味が不明」と思う方に向けて「空売り」の仕組みをフリマアプリにたとえて説明します。とあるフリマアプリで「品物が無い状態で10万円で売り」を出しておきます。売れたら、別のルートで「5万円で品物を購入して、購入者に送る」とその差額が利益になります。フリマアプリでの空売りは禁じられていますので、あくまでたとえばの話です。

命を削るレベルなのに、「空売り」に惹きつけられる魅力とは。

「命までなのに、なぜ?」と思われた方もおられるかも知れませんが、それ以上に引力があるのが「空売り」の魅力です。1929年の大恐慌では、リバモアが今の価値に換算すると6700億円という利益を空売りで出しています。

最近ではマイケル・バーリ氏が有名でしょう。2008年のリーマンショックの際に、住宅ローンが弾けるのを見越したポジションを保有し、巨万の富を得ることに成功しました。この辺りは『マネー・ショート 華麗なる大逆転』という映画で描かれており、観ると空売りしたくなるかも知れません(笑)。

リバモアが『嘘を見破る方法』を著したように、空売りの面白さは市場の虚偽を見抜くことで、巨額の利益を“短期間”で得られるところです。買いポジションを「ロング」で、売りポジションを「ショート」といいますが、「ゆっくりと利益が積み上がるからロング。一瞬で儲かるからショート」という俗説ができるくらい、短期間で利益を乗せることが可能です。

もっとも、「空売り」には貸株料などの経費がかかるので、短期間で成果をあげなければ損が膨らむという面もありますが。

なお、一般投資家は「ほぼ絶対下がる」といった銘柄を空売りすることはできませんが、機関投資家は可能です。言ってもしょうがないことですが…。

私の事例。スルガ銀行空売り物語。

2018年。スルガ銀行がハジけました。私が新聞記者だった時代、大きな出来事が起こったとき「ハジける」と周りの記者たちが表現していた記憶があります。実はこのとき以前から、私はスルガ銀行を大きめに空売りしていました。かなり自信のあるポジションだったので、信用している知人や友人に公言しており、当時のことを、日記をもとに振り返りたいと思います。

ちなみに、日記を書くことはとても重要です。「なぜそのポジションをもったのか?」「結果どうなったのか」を勝っても負けても記すことで、自分の財産になります。投資の日記は単なる記録ではなく、「未来の自分に向けての手紙」です。重要な道しるべにもなるので、絶対書いてください。

「暴騰しているが、揺るぐな!」とは、当時の日記からの抜粋です。その文言を読むと、今でも鮮明に記憶が蘇りますが、1700円~1500円で空売りのポジションを持ち始めたとき、上記にも書いた「ストップ高」レベルの暴騰を喰らったのです。ポジションは一気にマイナスになり、追証が発生。追証とは、信用取引をしている際に「あんた、お金少ないからお金振り込まないとこっちで勝手に決済しちゃうよ」という証券会社からの恐ろしい通知のことです。証拠金に対して維持率30%を割るとやってきます。基本的に私は追証が発生したら「負け」と捉えて素直に成り行きで損切りするのですが、このときは違いました。「いける」と踏み、さらに大きめの金額を投入したのです。

そのときの日記には恐怖の言葉とともに、自分を鼓舞するような言葉が目立ちます。その後、大体700円~500円くらいで買い戻して利益を確定しています。経緯としては「新聞が少し騒ぎ出した頃仕込み」「第三者委員会で、無茶苦茶な経営だったことが判明前後で利確」です。

振り返るとその間、3ヶ月と少しくらいですが、永遠かと思うほど長く感じるのがわかっていたため、その間、北海道に釣りに行くなどして自分の中の時計を速めることに努めました。

事件か事故か?企業の嘘を暴く。

そもそも私がスルガ銀行の空売りを始めたきっかけは、業界専門紙の小さな記事からでした。そこに「事件」の匂いを嗅ぎ取ったのです。よく、株式投資の世界では「事故は買い、事件は売り」と言われます。事故は一時的なものなので株価はすぐに回復するが、事件は闇が深いのでどこまで株価が下がるかわからないからです。

この判断は難しく、表向きは事故であっても、事件が表層化しただけでの場合もあります。真相の追求が大切です。スルガ銀行の場合、直接書かれているわけではありませんでしたが、「審査部が正常に機能していない」であろうことが小さな記事から推理することができ、その後、一般紙でもスルガ銀行のことが取り上げられるようになり、私の中で「事件である」ことが確信へと変わりました。

銀行における「審査部」は心臓のようなもので、「貸す・貸さない」をジャッジする上で極めて重要な組織です。そのあたりは、有名になった本やドラマの「半沢直樹」でも描かれている通りなのですが、「そもそも」の部分が壊れているということは、相当企業として傷んでいる状態です。

そこで、空売りのポジションを持つことにしたのです。

もっとも、銀行は特殊な企業なので、一般企業なら倒産するレベルの不祥事でもなかなかしぶとく市場に居座り続けます。その特殊性もあり、私も含め「空売り勢」が増えてくると、それを焼きに来るであろう「買い」が入ることがあります。「空売り」がどの程度あるかなどは、「信用残高」や「賃借倍率」などで日々公表されているので、買い方はどんどんと買い進めることで、追証を発生させたり、空売り勢の恐怖を煽ることで買い戻しを誘発し、その買いがさらに買いを呼んで株価は上昇します。これを「踏み上げ」といって、空売り勢はこれに巻き込まれると「死の恐怖」を覚える事象です。

スルガ銀行でも「踏み上げ」の局面があり、私は上がったところでさらに売りを仕掛けています。今は普通に書いていますが、当時は確信があっても怖いものは怖いので、恐怖と戦っていましたが。そのあたりも克明に日記に書かれており、昔の自分に「よう頑張った!」と褒め言葉を送りたくなります。

スルガ銀行がヤバかった理由。私が空売りした理由。

ここは、専門的な話になります。「スルガ銀行の審査部が機能していない」ことは、専門紙はもちろんのこと、一般紙の記者も薄々とは気付いていたはずです。衰えたとは言え、新聞はオールドメディアで重要な一角を占めており、そこで働く記者たちの頭脳も決して低くはありません。

しかし、彼らは「書けない」という状況があるのです。よく「日本の報道の世界は記者クラブのせいで、正常ではない」と言われますが、まったくその通りで、「知っているけど書けない」ことだらけに囲まれています。

記者クラブ内では公然と語られている重要なことが、紙面に出ないのです。田中角栄の事件のとき「みんな知っていたけど、書かなかった」と言われていましたが、その頃から何も変わっていないどころか、むしろその状況は悪化しています。一応、彼らの肩を持つと「証拠が無いから」にはなるのですが、そこは本来彼らの本業なはずで、結局は「権力への忖度」でしかありません。

実際のところ「自分たちで書けないから週刊誌の記者にリークし、事件化させてから後追い取材」は、日常茶飯事です。幸か不幸か、私は若いときに「日本のジャーナリズムが機能してない」ことに、専門紙の記者をやっていることで気づくことができました。ジャーナリズムがお金にならないのは、情報が利益をもたらすわけではないので仕方ありませんが、日本の場合「名誉」すら与えられません。それどころか、権力に歯向かうとわかりやすい反発があり、社会から阻害されます。

そんな社会でジャーナリズムを気取るのは「デメリットしか無い」と私は感じたのです。ただ、せっかく得たスキルや知見、ノウハウ、そしてどうやら自分には「取材力と推理力」については多少の才能があると気づかされたとき、それを「空売り」では活かすことができるとわかったことは、重畳でした。

話を戻します。事の本質をわからずに報道している記者もいたでしょうが「スルガ銀行がヤバいことを把握しているが、それを紙面には出せない状況」を、私は経験上嗅ぎ取ることができたのです。

バブルが弾けると、空売り時代がやってくる。

「人間の良いところを見つけるのが得意」というあなた。本当に素晴らしい資質です。太陽が照っているど真ん中の王道を、堂々と歩んでください。逆に「人間のアラ捜しが得意」なら、残念ながらこちら側の人間です(笑)。

今回、2023年1月初頭に空売りの記事を書いた理由は「バブルが弾けてからがスタートで、儲けるチャンスだから」です。別稿でも書いている通り、私は2020年~2022年の相場を「有り得ないレベルに膨張したバブル」だと見ています。基本的に株価が上昇する「ブル相場」のときは、基本的に株価は上昇するので「下がったら機械的に買う」という逆張り戦法が有利です。しかし、下落する「ベア相場」のときは、損が増えていく一方になります。そこで、「空売り」の出番。これまでとは逆に「ピョコンと上がった」ときに売り玉を仕込んでおくと、基本的に下りますので、そこで利確。上げるときより、下がるほうが速いので比較的短期決戦で利益を確定することができます。

ただ、最後に。

先述した空売りのキング、リバモアはその所業から「グレートベア」と呼ばれていましたが、最後は自殺して亡くなっています。ゆめゆめ「空売りは色々な意味で、怖い」ことだけは、肝に銘じておきましょう。

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この記事を書いた人

ディレクター&ライター(経済・HR等)×空売り投資家

新聞記者を経験後、広告代理店でのディレクター&コピーライターを経てフリーへ。企業や人物が持つ「素の魅力」を引き出し、カスタマーにわかりやすく届けるのが得意領域です。経済やHR領域の媒体での執筆及び、オウンドメディアや企業記事・広告・広報の企画、制作などを担当しています。

株式投資歴は長く、小学生の時からスタート。
スモールロットでの投資・投機を推奨中。2019年より、個別株の空売りがメイン。

京都在住。コロナ禍前は、八重山諸島や北海道など多拠点生活していました。

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