「大きな会社に入れば、一生安泰」。
そう信じていた20代の内海正人さん(社会保険労務士法人 日本中央社会保険労務士事務所 代表)は、思いもよらない現実に直面しました。バブル崩壊の余波で、勤めていた金融機関が倒産したのです。
「会社って、こんなに簡単に崩れるんだ」。
そのとき、胸の奥で静かに芽生えたのは「自分の身は自分で守るしかない」という強い実感でした。
そこから約20年。
内海さんは、労務の専門家として、そして中小企業の相談相手として、多くの経営者を支えてきました。本記事では、起業の背景、乗り越えた困難、そしてこれから独立しようとする人へ向けたメッセージを伺いました。

倒産を経験して気づいた「自分の人生の舵は自分で取る」必要性
起業の始まりは、今から約20年前。
最初の12年は個人事務所として、その後は法人化して約10年。長い時間をかけて事業を育ててきました。
きっかけは、勤めていた金融機関の倒産です。
新卒で入り、将来をそこに預けるつもりだった会社が消えた。
「大企業だから安心」と思っていた常識は、あっけなく崩れ去りました。
「30代のときでした。自分の人生を会社に預けることの危険性に気付かされました。」
そこで選んだのが「社労士」という資格。
税理士や司法書士、弁護士などとの比較もしたうえで、
- 働きながら取得できる
- 経営者と関わり続けられる
- 人と組織の課題に向き合える
という点が決め手となりました。
さらに、金融機関時代に担当していた中小企業の経営者から、社内の悩みや人に関する深刻な課題を数多く聞かされてきました。
「誰に相談すればいいかわからずに、一人で抱え込む経営者が本当に多いんです。そこに自分の役割があると感じました。」
「顧客ゼロ」でスタート。半年間の地獄と、それでも退かなかった理由
起業初期で最もつらかったのは「見込み客ゼロで始めたこと」だと言います。
「本当にゼロです。知り合いからの紹介もなく、スタート地点は真っ白。」
そこから半年間、無料セミナーを開催したり、交流会に参加したり、とにかく動き続けました。しかし結果は思うように出ず、精神的に追い詰められる日々。
「正直、しんどかったです。でも“戻る場所がない”と決めていたので、覚悟を固められたのだと思います。」
環境が人を強くする——そう実感した瞬間でした。
10年間スタッフが定着しなかった本当の理由
事業が少しずつ軌道に乗る一方、内海さんを10年間悩ませ続けたものがありました。それは「スタッフが定着しない」こと。
求人を出しても、採用しても、すぐ辞めてしまう。
外に向けて積極的に採用活動をしても、上手くいかない。
「途中で気づいたんです。外に原因を探しても意味がないと。」
そこで初めて「社内」を見つめました。
- スタッフのキャリア形成はどうか
- 性別比率はどうか
- 業務負荷は適正か
- マネジメントの状態はどうか
一つひとつ、丁寧に向き合って分析したところ、スタッフが辞める要因が複数見えてきました。
「外で“狩猟的”に採用するより、内部の状態を整えることのほうが大事だと痛感しました。」
結果として、組織は安定し、サービス品質も向上。
「内部を整える」という教訓は、今では多くのクライアント企業に伝えている大切なメッセージの一つです。
AIで事務作業が減った。だからこそ“人の仕事”が残った
社労士業界は「AIで置き換えられる業務の代表例」と言われるほど、ルーティン業務が多い領域です。
しかし内海さんはそこに悲観的ではありません。
「AI有料版を導入して、スタッフにどんどん使わせています。事務作業は効率化できますが、その分“人でしかできない仕事”が増えています。」
事実、手が空いた時間はコンサルティングへ振り分けられ、クライアント企業への価値提供が高まったと言えます。
AIが仕事を奪うのではなく、人の可能性を広げる方向に使えばいい——そんな前向きな姿勢で捉えているのが印象的でした。
起業家へ「楽しみながら、本気で、覚悟をもって」
内海さんが、これから起業したい人へ伝えたいことは明確です。
「楽しみながら本気で、覚悟を持ってやってほしい。」
軽い気持ちで起業することを否定はしません。ただし、「自分の力でお金を稼ぐ」という現実を甘く見るべきではない、と強く訴えます。
本気でやるならやりきる。
副業レベルでやりたいなら、無理に背伸びする必要はない。
大事なのは、自分にとって“何が本気か”を見極めること。
さらに、最近は高校で社会人基礎や労働法を教える機会も増えていると言います。若い世代へ伝えているのは、自分の人生は自分で選択できるということ。まさに内海さん自身の原体験が、教育の現場にも生かされているのです。
「うちに相談してほしいのは、悩みを抱えている中小企業経営者です」
最後に、読者へ向けてどんな人に声をかけてほしいかを伺いました。
- 中小企業で労務・人事の悩みがある方
- 労働保険・社会保険・給与計算をプロに任せたい方
- 組織づくりや人材マネジメントの相談がしたい方
- 事業承継やM&Aの労務デューデリジェンスが必要な方
「私たちは、悩みを誰にも言えずにいる経営者の方に寄り添う存在でありたいと思っています。」
社労士という専門性を軸にしつつ、経営者の孤独にも向き合う。
その姿勢は20年経った今でも変わりません。
おわりに
起業とは、「覚悟」が試される行為です。
そして覚悟とは、特別な才能ではなく、目の前の現実を受け止めて一歩踏み出す「決意」のこと。
倒産を経験し、顧客ゼロからスタートし、組織の課題に長年向き合い続けてきた内海正人さんの言葉には、深い説得力があります。
これから起業する人も、不動産賃貸業に新たな事業を横付けしたい人も——
内海さんのストーリーから得られる教訓は、きっと背中を押してくれるはずです。
社会保険労務士法人 日本中央社会保険労務士事務所 公式ページ
https://sr-jca.com/


