起業という言葉は華やかに聞こえる一方で、その裏側には「折れない心」と「信じ抜く力」が必要です。
今回お話を伺ったのは、日本にはまったく存在しなかった“ある製品”を武器に、ゼロから市場を創ってきた起業家の方です。
華々しいキャリアを歩んでいましたが勤めていた会社のM&Aにて状況が変わり、そこから全く新しい業界へ飛び込み市場開拓に挑んだ。その過程には、起業家や事業家にとって大切なヒントが数多く詰まっています。

起業のきっかけ——華々しいキャリアからの“白紙”と再出発
お話は2011年の日本。
フランス本社を持つ子会社が日本に法人を設立し、翌2012年7月、実質的な営業活動がスタートしました。
そこに中途として飛び込んだのが、今回インタビューさせていただいた荻野雄仁さんです。
当時はINAX(現LIXIL)で10年で海外部署含む転勤7回のキャリアを積んでいたものの、会社の買収によってそのキャリアプランに変更が余儀なくされたといいます。
「詳細はお伝え出来ませんが、約束されていたキャリアパスが会社の買収で全部なくなってしまったんです。」
順風満帆に見えていた未来が急に閉ざされる——。
その経験が、結果的に「自分で進む道を拓く」という強い動機に変わったと語ります。
フランス企業の日本市場開拓に挑むという未知のフィールド。
そこには当然、誰も歩いたことがない道が広がっていました。
“市場が存在しない”という絶望——孤独な挑戦の中で見えたもの
起業・・・というより事業責任者として最初にぶつかった壁は、「市場そのものがない」という事実でした。
扱っていた商品は日本市場にこれまで存在せず、前例も成功者もいない。言い換えれば、売れる理由も売れない理由も誰も知らない状態だったのです。
「今まで日本市場にまったくなかったので、うまくいった人も存在しなかったんです。市場が安直に存在しないという状況は、本当に心が折れそうになりました。」
営業として話しても、話しても、伝わらない。
必要性は論理で説明できるのに、相手の“実感”に届かない。
市場がないというのは、「理解してもらえる相手がいない」ということでもあります。
孤独な挑戦は、精神的にも追い込まれた時期があったといいます。
それでも続けた理由——「旗を降ろさない」ことの意
そんな厳しい状況の中で支えになったのは、「あきらめずに伝え続ける」というシンプルな姿勢でした。
「自分で旗を降ろしたら終わりだと思ったんです。全員に売るなんて無理。でも、熱意を持って続けていると、少しずつ仲間が増えていきました。」
“市場がない”という壁を突破できた理由は、技術でも戦略でもなく、愚直に語り続けた姿勢。
熱量は徐々に相手の心を動かし、理解者や協力者が生まれ、気づけば小さな点が線になっていきました。
ビジネスとは、戦略やツール以上に、「旗を降ろさない」という覚悟が相手を巻き込む。
この言葉は、起業を考える人にとって非常に大きなメッセージと言えます。
AI時代でも揺るがない“人間の価値”
最近はAIがビジネスの効率化を大きく変えています。
しかし、本人はこう言い切ります。
「効率化を目的にAIを使うのは良いですが、うまくいった理由はAIではないんです。お客様が“人として”信じてくれたから売り上げが上がったんです。」
忙しい人ほど、無駄な時間を嫌います。
相手の姿勢や心構えは、言葉以上に行動に表れ、その誠実さが信頼となって返ってくる。
そして、価格競争に陥りがちな市場でも、あえて警鐘を鳴らします。
「値段で受注すると、結局値段でひっくり返されるんです。タイパ・コスパではなく、“この人に任せたいか”がすべてです。」
AIや効率化が進んでも、人間の本質的な価値が消えるわけではない——。
むしろ、そこにこそ起業家としての存在意義が宿るのかもしれません。
これから起業する人へ——「サラリーマンを辞めた後に残るもの」
最後に、これから事業を立ち上げる読者にアドバイスを伺いました。
「有形のプロダクトを作るのは本当に難しいです。知り合いでも取り組んだ人はいますが、みんな『もうやらない』と言います。」
一方、日本市場の特徴として“インフラ化”の重要性を指摘します。
「日本の場合、インフラとして機能すれば根強く発注してもらえます。世の中を変えられるものだと信じて、信念を貫くことが大事です。」
サラリーマン時代の価値観ではなく、“自分が世の中に何を残すか”という発想が起業では求められます。
視点が個人から社会に変わる瞬間、事業は本当の意味で価値を持ち始めます。
現在の事業と「こんな方と出会いたい
現在は、日本で唯一提供している小型排水圧送ポンプユニットを中心に事業を展開されています。
これは、水回りがない場所でも大がかりな工事をせずに水回り設備を設置できるという画期的な商品です。
店舗、オフィス、工事現場など、水回りの制約がネックとなる場面で高い需要があります。
特に、
- 水回り工事業者
- 店舗の設備工事を担当する法人
- 改装・リノベーション事業者
こうした事業者の方に対しては、今後さらに認知を広げていきたいと語ります。
まとめ——市場がなくても、“人間”が突破口になる
今回のインタビューを通して感じたのは、「市場がないから売れない」のではなく、「信じて伝え続ける人がいないから市場が生まれていないだけ」ということです。
AIの時代でも、人が誰かを信じ、応援し、仲間になっていくプロセスは変わりません。
起業とは“孤独な挑戦”の積み重ねですが、その孤独を超えた先に、誰も見たことのない景色が広がっています。
不動産賃貸業を横付けして事業を伸ばす方にも、これから起業する方にも、
「旗を降ろさない」というシンプルな姿勢が、最も強力な武器になる——。
そんな深い気づきを得られるお話でした。
SFA Japan株式会社 公式ページ
https://sfa-japan.jp/


