【FP相談実例】相続は四十九日を超えてから!の圧力と法制度

相続が発生したら時間との勝負です。故人の思い出話はそこそこに、遺された家族の生活に悪影響を及ぼさないように、相続の手続きは粛々と進められます。相続放棄は相続発生から3カ月、相続税申告書は被相続人が死亡したことを知ってから10カ月です。とはいえ相続の手続きが発生した時点で準備万端のスタート姿勢を取れている方は少なく、バタバタとしたなかで終始円滑に済ませるための準備を開始します。そのときに最大の壁となるのは、相続は四十九日を超えてから取り組むべき!という、根拠の不明瞭な考えと無意識な抑制力です。今回は実家において相続を経験したときに、無意識なこうすべき!に悩まされたある女性の話です。

目次

相談までの流れ

四国の最大都市から大学卒業と同時に東京に出てきていた30代の女性Aさん。東京で家族を持ち、実家にも数年帰っていなかったなかで、親が危篤という一方が急に届きます。先週元気に電話していたのに、人の別れというのは突然です。

直行便のあった神戸空港から列車を乗り継ぎ葬儀場へ帰ると、3歳下の兄が葬儀を取り仕切っている最中でした。大阪で就職した兄はこういう対応に不安がなく、遺された母と兄弟は一丸となって物事を進めることができます。

とりあえず相続なので、資産を洗い出しをしなきゃなと翌日自宅で資産ポートフォリオを確認していると、お悔みに訪れた町内会長が自分たちの動きを窘めるかのように、「いやいや何をやっているんだ。仏さんが安心するまでは相続のことなど進めたらバチがあたるよ」と玄関前で大きな声をだします。

仏とは亡くなった父のはず。その父の遺した資産を円滑に承継するために家族で話し合うどの部分にバチが当たるか考えもつきませんが、いったん会話を止めます。帰り際に町内会長は、いかにも自然であるかのように、「せめて四十九日までは相続のことを進めるのはダメだ」と言います。席を外して兄に町内会長の話は尊重しなければいけないか尋ねると、もちろん従う義務はないとしたうえで、自分の価値観を主張するのは初めてではないとのこと。嘆息する姿に、悪気がない価値観強要は厄介極まりないことを実感します。

顧客属性

〇30代後半女性Aさん

〇実家は四国最大の都市から車で1時間半。人口流動の少ない自治体

〇地元の専門家に相談できないことで生じる不便さ

解説・提案

東京に帰ったAさんがまず相談したのは、当社の代表と仲の良い税理士でした。税理士は最初話を聞いて、相続準備は四十九日を待つ必要はないという話をします。Aさんはもちろん十分に理解しています。税理士は正論ばかりを伝えても仕方が無いと、執筆で実績のあった当社に「どうやって説得すればいいか」と相談します。まず当社が疑問に思ったのは、地元の有力者を外して相続手続きはできないのか?ということでした。

数日後のオンライン面談で当事者のAさんとはじめての面談の日。Aさんに言葉を選びながら聞くと、Aさんはあっけらかんと「そうしたいですよね!でも難しいんですよ」と返します。そこで教えられたのは、見えない糸で繋がる地方特有の、ネットワークでした。

各家庭の自由と法律を超える「守るべき」もの

たとえば相続全体を扱う税理士選びにしても、自宅のある場所の近くで展開している事務所に依頼するのは難しいケースもあるようです。当然ながら、税理士などの専門家には守秘義務があります。相談内容が町内会長をはじめ第三者に漏れることは100%ありません。ただ、税理士事務所の駐車場に車を止めているのを目撃されたらどうしよう、所有している土地が上物に測量を入れているところを目撃したらどうしようという懸念がある以上、積極的に動くことは憚られる。これがAさんの心配ごとでした。かつ町内会長の価値観に反した動きは、今後コミュニティで生活するうえで半永久的に続く恐れがある。Aさんのお兄さんは地元の方を相手にした仕事をしているため、仕事への影響も見通せません。

「ですが、町内会長は今回の相続において当事者ではないんですよね」という質問に対し、Aさんは面談のなかで最も強くうなづいたうえで続けます。

なんというか、ひとつの家庭のなかでの決めごとを凌駕するような、見えないルールがあるんです。町内会長さんも決して悪気はなく、「四十九日ルール」を守ることで街の治安が守られるといいますか。なのでゴリ押しすれば決して貫き通せないわけではないのですが、その後のことを考えると気まずさというか、今後の懸念感は残ります。特に地元で仕事をする兄と、一緒に暮らす奥さんに迷惑はかけたくないです。

決して誰も悪くないような話です。分析するならば、各家庭の自由と法律を超える「守るべきもの」があるのでしょうか。

専門家は土地勘のなさを如何にしてカバーするか

当社で提案したのは、オンライン面談などを駆使しながら、東京の専門家ですべてを対応してしまうことでした。マクロの方向性として決めて、実現など細かな部分を決めていく段取りです。Aさんのお兄さんには了解を頂いたうえで、Aさんの決定を尊重して貰うように体制を整えます。Aさんが話したときのお兄さんの様子を聞くと、仕事への影響に四苦八苦しているなかで当該負担が無くなるだけでも相当楽になるとのこと。「東京行った組は楽だったなあ」とAさんが独り言を呟いた姿が印象的でした。

さて、実際は現地調査をまったくしない訳にはいきませんが、士業はこのようなセンシティブな場面もまたお手のものです。地元の方々に感づかれないような調査も得意とします。特に最近は、各種オンラインの資料請求などで、とてもやり易くなったと士業各位は口を揃えます。

ひとつ弊害になるのは、土地勘の無さです。相続税評価など全国的に計算方法が同一なのは問題ないですが、買い手の検索などは地元の味方を上手く確保しておいた方がいいでしょう。また、今回はAさんが東京の専門家を信頼しているものの、兄(および兄の配偶者)がAさんが声をかけた専門家にどのような印象を抱くかもわかりません。

また危惧すべきはAさんが「対町内会長・対地元」で主導したことに対し、家族が事前に同意をしていないことです。相続は感情のねじれが事態を悪化させます。相続は当事者が多いです。Aさんのお兄さんの同意は取っていても、ほかの家族の考えがあるところが相続大尉策の難しいところです。対町内会長でまとまっていた家族の視野が、家族それぞれの利益を追求するようになっては本末転倒です。「仮想敵」がいるからこそ一枚岩にまとまっていたなど、どこかの国の革命前後でよく聞く話です。

今後は心配なくなる可能性が高い

その地方の習慣を評論するつもりは無いですが、このようなセンシティブな情報への侵害行為は、今後無くなっていくことでしょう。あまりに気遣いが無さ過ぎます。ゴリゴリと介入してくるのではなく、一歩離れたところから価値観を押し付ける加減がとても厄介なのですが。今後はより法律と向き合いながら、自分たちの家庭にとってベストな選択をしていきたいものです。町内会長を担う世代が若返りすることにより、そのような動きが迷惑だと疑ってきた世代が任に着いていきます。

我々専門家は時に無神経な介入にも警笛を鳴らしながら、依頼を受けた相続が問題なく完了するようプロフェッショナルに徹していきたいところです。ともすればハラスメントに敏感な環境のなかで仕事と生活をしてきた我々にとって、他人介入とは何かをとても考えさせられた事案でした。

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この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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