利上げ・利下げで金価格はどうなる?過去の事例と日米相場

金など貴金属の価格は金利の影響を強く受けます。この場合の金利は各国の中央銀行が決める政策金利です。特に世界最大の経済大国であるアメリカが展開する金利政策は、貴金属の含まれる現物資産に大きな影響力を持ちます。個人投資家の方々は、2024年はアメリカと日本において、金利の利上げ・利下げという言葉を聞く機会がとても増えたと実感されているのではないでしょうか。

目次

FF(フェデラル・ファンド)金利とは

FF金利とは、アメリカの民間銀行同士が資金を貸し借りする市場において、適用される金利のことです。貸し借りは1営業日(オーバーナイト)かつ無担保で行われます。

この際の金利を定めているのは、アメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)です。FRBを中心としたアメリカの経済政策を決める最高意思決定機関を連邦公開市場委員会(FOMC)といい、年8回の会合のなかでFF金利の誘導目標を定めています。なお、日本では同様の仕組みが無担保コール翌日物(オーバーナイト)と呼ばれています。

金利が上がると金価格が上昇

以下のチャートが1970年代から2020年代のアメリカの政策金利です。2000年は低金利が続き、時に限りなくゼロに近くなっているものの、2022年頃から利上げが続いていることがわかります。それでも1980年代の金利と比べれば、著しい低金利が続いています。

引用:Reuters https://fingfx.thomsonreuters.com/gfx/rngs/USA-FEDFUNDS-LJA/01005028054/index.html

2000年以降、アメリカでは3度の利上げがありました。アメリカの利上げが終了し、債券金利と米ドルの上昇期待が落ち着くと、金への期待感が上がります。その後の利下げ終了までの上昇は続くというのが定説です。

一方で逆説的に政策金利の低下がインフレ抑制に繋がり、金価格が下落する可能性もあります。2000年以前は戦争リスクやオイルショックなどの経済不安で金が既に高騰しており、利上げの終わりによって金価格が調整されることもありました。

2020年以降のFF金利と金の価格推移

2022年に入り、アメリカでは積極的な利上げが行われてきました。この施策によりインフレ率がピークアウトし、低下傾向にある一方、景気後退懸念が高まりつつあります。

2020年以降の金価格

政策金利の推移を受けて、金の価格はどのように動いているのでしょうか。

(金のインゴット1gの価格チャート)

引用:なんぼや https://nanboya.com/gold-kaitori/souba/

2020年以前から金は堅調です。インゴットのチャートを見る限り、特段アメリカの政策金利によって大きな影響は受けていないことがわかります。政策金利はあくまで金価格を動かす複数の要素のひとつであり、その影響した割合も予測の域を出ないものです。なお、この長期チャートを見る限り、世間で騒がれるような「金は高騰!右肩上がり」との評価は決して間違ってはいません。「金を10年20年後を視野に入れた長期投資で持つ」という考え方は、リスクも抑えれた投資方法です。

2024年春の高騰は戦争リスク?

とりわけ最近の金のチャートを見ると、2024年の春先から高騰していることがわかります。この時期はロシアとウクライナの戦争が長期化していることに加え、イスラエルのガザ侵攻、そしてイスラエルとイランの緊張状態が高まっていた時期です。メディアではこの緊張が始点となり、第三次世界大戦が起こるのではという意見さえ見られました。確かに20世紀の大きな大戦は、対立する2カ国の武力衝突が契機となっています。これから戦争が起こるのではという不安感は、世界中の投資家を金に向かわせました

一方で反発要素もあります。2024年4月22日にイスラエルは米欧や中東諸国からの自制要請を無視し、イラン空軍基地などを狙って報復攻撃を行いました。これを受けて金相場価格は大きく上昇します。その後イラン側が報復攻撃を行わないと宣言したことで沈静化し、金は大幅に売られました。

緊張と緩和を合わせて考えると、2024年の春の高騰は戦争リスクに寄るものであり、政策金利の影響はそれほど大きくないのでは?という仮説が成り立ちます。そうすると今後利下げが発生したとしても、戦争リスクの推移によって金は動くため、チャートの読み切れないなかでホールドする可能性があります。投資家として、それは避けたい展開です。

今回の利上げはインフレ防止

原則論としては、2022年からの利上げはインフレ防止を目的とした利上げであり、物価が安定し下がることで金価格は下がる可能性が予測されます。実際に2024年の1年間を拡大した以下のチャートは、利上げの影響とは決して断定できないような金の動きを見せています。

引用:なんぼや https://nanboya.com/gold-kaitori/souba/

これだけ見ると、価格変動性(ボラティリティ)の少ない安定の金資産という評価に、疑問符がつくことがわかります。

2024年に入ってから、金は上下に大きく振れる場面も多く、決して株式の逃避先となる安定資産とはいえない評価の日も増えてきました。短期で金をホールドする方は、必ず「今日の金の動き」を認識してから売買に動くようにしましょう。

日本の利上げは金価格にどのように影響するか

続いて日本の政策金利と金価格との関係性です。日本の中央銀行である日本銀行(日銀)は、2024年7月31日まで開いた金融政策決定会合で、政策金利を0.25%程度引き上げる追加の利上げを決めました。2024年3月、日本は約8年間続いたマイナス金利に終止符を打ち、ゼロ金利とします。そのうえで7月に上記の利上げを実施しました。

日本の利上げは株式相場と、ドル円の為替相場には大きな影響があります。実際に7月の引き上げは株式相場の不安感と重なり、「令和のブラックマンデー」とも称される大暴落を呼び込みました。大暴落は翌日には反発したものの、痛手を負った投資家も多いようです(余談になりますが、こういう時の狼狽売りは厳禁です)。当初日銀は2024年に数回の利上げを予定していたようですが、市場への大きな影響を受けて見送ったのではという報道もあります。

日本の利上げによって影響を受けた為替レートが、結果的に金の価格に影響する可能性はあります。ただ、それはあくまで「為替レートによる金への影響」であり、日本の利上げによる直接的な因果関係を証明することはできません。

いま金をメイン投資とすべきではない

上記の特徴を踏まえると、金の右肩上がりを信じてメインの投資先とするのは危険です。これはインゴットに限らず、金周辺で構築された投資信託やETF(上場投資信託)も同様です。ポートフォリオの10%から20%の範囲で、積立をメインで検討していきましょう。それ以上所有しているならば、利益確定を進めることを推奨します。

金は相対的には安定資産ですが、インデックスのように右肩上がりで伸びていく塩漬け可能資産ではありません!繰り返しになりますが、ホールドするなら最近のチャートを確認しましょう。

貴金属まわりの個別株はどう考えるか

現物投資や投信ではなく、個別株はどのように考えるべきでしょうか。たとえば金に限定しても、周囲の産業としては主に以下のようなものが考えられます。

買取業者や貴金属店

金や貴金属を売買する企業です。10年ほど前から現物資産の取扱いが盛り上がると、ターミナル駅の周辺やスーパーのなかにおいて店舗が著しく増加しました。これらの事業において、金価格の高騰は上昇要因にも、下落要因にもなります。

金が高騰しており、今後さらに上昇すると考える人が多いと、「金を買う」人が増えます。金はインフレヘッジ効果があり、利息もつかないためです。貴金属店などでは、金を購入することも、売却することもできます。

一方の買取業者は、基本的に「金を売る」だけのビジネスモデルです。利用者から購入した金(ネックレスや指輪などを含む)をどうするかは開示していない買取業者が多いですが、再加工や外国への売却、インゴットなどにする場合が多いようです。

そうすると、買取業者が売上を伸ばすのは「貴金属の下落時」ということが言えます。下落すると手持ちの金を売却し、加速化する動きが活発化するためです。それも揉み合いのなかでの売却ではなく、ある程度長期的にチャートが動いたあとの「底と考えられる局面」で買取業者は忙しくなるようです。とはいえ各種リスクが短期間で下がった場合の「狼狽売り」も少なからず発生します。

産金株

産金株はとてもわかりやすく、金の下落が企業の業績悪化に繋がります。実際に金価格の悪化が生じていなくても、戦争リスクやカントリーリスクの緩和など、金の価格が下がると見込まれたタイミングで、織り込まれて下落することがあります。金の個別株のなかでは、最も高騰・下落による影響がわかりやすい銘柄です。

金の先物取引

個別銘柄の分析とは離れますが、先物取引についても抑えておきましょう。

先物取引とは、先のタイミングで「金を売買する約束」をします。たとえば半年後に金を買う約束をして価格を定めます。半年後に約束価格よりも高い価格で決済をすれば、利益が得られます。反対に売る約束をして、約束した価格より安い価格で決済をすれば、利益を得ることができます。なお、実際の先物取引の利用では取引手数料を考慮する必要があります。

つまり金などの素材が影響する個別株が、将来どのような変動要素があるかを分析し、勝負を仕掛けます. ます。まとまった利益を得ることも可能ですが、反面リスクは高いものなので、注意したうえで仕掛けるようにしましょう。

では、金以外の貴金属の分析に繋げていきます。

プラチナの動き(金との比較)

金を中心にして展開していますが、貴金属は金ばかりではありません. す. す。ほかの貴金属についても、チャートと特徴を確認しておきましょう。

プラチナ(白金)

プラチナも現物資産として人気があります。金と同じ動きをすることが多いですが、以下の2つの点において金とは異なる動きをします。一般的に、金よりもボラティリティ(価格変動)が大きい特徴があります。プラチナの価格推移を見ていきましょう。上記の金と同じ期間のチャートです。

引用:なんぼや プラチナ https://nanboya.com/gold-kaitori/platinum/platinum-souba/

プラチナの特徴は金よりも産業(半導体)の動きに反応しやすい

プラチナも金と同様、経済指標や為替の影響を受けます。一方で金よりも産業の動きに反応する傾向があります。プラチナは製造業などで使われることが多く、消費者物価指数(CPI)や雇用統計などに反応します。

プラチナの傾向をよく示しているのが半導体です。半導体はパソコンやスマートフォン(スマホ)などに使われますが、2024年現在「次世代の半導体」にプラチナが使われると認識されています。そのため半導体を活用するハイテク株が伸びるとプラチナの価格がプラス、同領域の決算が悪いニュースなどには失望売りが広がります。

2020年初頭から、アメリカ発で世界を席巻する企業の頭文字を取って「GAFA」と呼ばれる企業群があります。Google、Amazon、Facebook(現META)、Amazonです。更に2024年になるとここにMicrosoft、tesla、NVIDIAを追加し、マグニフィセント7(マグ7)という企業群をまとめて呼称することも多くなりました。

マグ7をめぐるポジティブなニュースがあればプラチナは高騰する一方、逆の展開も考えられます。なお2024年にイスラエルとイランの関係が緊張状態となったあたりから、プラチナは金と異なる動きをすることも多くなりました。

プラチナを使って生成AIが世界を変える?

次世代のプラチナを分析するときに、欠かせないのが生成AIの存在です。2024年春にOpenAI社が発表した最新の生成AIである「ChatGPT4o」は、インターネット黎明期のように今後の社会においての主役になるのではという期待感を持たせるものでした。

また、10年以内には自動車の大半から運転手が不要となる「自動運転」が社会インフラとして認められると考えられています。このバックボーンとなるのもやはり生成AIです。生成AIが社会的に必要になればなるほど、プラチナへの期待感も高まっていきます。

プラチナの持つ生産国リスク

一方で現状を見たときには、不安定感のある素材でもあります。世界におけるプラチナの三大生産国は南アフリカ、ロシア、オーストラリアです。特に生産量の7割は南アフリカに集中しているといわれています。

南アフリカ単体でも不安定な経済情勢や、社会情勢によってプラチナの価格は変動します。BRICS(最近聞かなくなりましたが)として経済発展性が認められている国ですが、治安や内政の不透明感は否定できません。この生産リスクは、明らかにプラチナのボラティリティの大きさに繋がっています。

ただ2024年、それ以上に懸念したいのがロシアです。ウクライナへの侵攻を続けることによって、主要国から経済制裁を受けています。プラチナの輸出が全面的に停止しているわけではないですが、今後の戦争リスクによってはプラチナの価格にも影響することでしょう。

銀(シルバー)

続いて銀(シルバー)を見ていきましょう。銀も金やプラチナと同様、指標や為替の影響を受けます。またプラチナと同じく実産業でも活用されている素材のため、チャート推移の特徴としては金とプラチナの中間的存在といえるでしょう。

引用:なんぼや https://nanboya.com/gold-kaitori/souba/

銀の特徴は上記チャートでもわかるとおり、安価性です。インゴット1gで金の100分の1と、売買のしやすい安価であることが特徴的です。そのため銀は短期での売買に適しており、一部の投資家に根強い人気があります。一方で買取業者など一般向けの現物投資ではあまり前面で扱われることのない素材です。

水銀から金をつくる「原子炉錬金術」について

ところで、貴金属は「不変」でしょうか。たとえばNISAのように20年後を見据えて金を購入したとして、ほかの素材から金が作られるようになると、そもそも金の特徴である「稀少性」が変わります。これは何も夢物語ではありません。

https://academist-cf.com/projects/72?lang=ja

まだまだ発展中の技術ですが、東京都市大学大学院共同原子力専攻主任教授が「金を作る」錬金術を研究中です。

投資は現実になったら社会を変える、最先端への取組みへの資金援助の意味合いを持ちます。2010年前後からブームになったベンチャー投資、スタートアップ投資などは、まさに顕著なものです。

プラチナの項でお伝えしたGoogleやFacebookも、当初はとびきり天才で、かつ尖りに尖った青年の取り組みを投資家が支援し、紆余曲折のうえに社会インフラとなったことから、いまのITの世の中が生まれました。

本記事をご覧になって、金を含む現物資産に興味を持たれた方は、資産ポートフォリオの一環として支援を検討するのも如何でしょうか。研究・展開のために資金を集める、クラウドファンディングを実施しています。

金の理想的な配分

最後にまとめると、本記事でも示した

ポートフォリオにおける貴金属=資産の10%から20%の範囲を積立保有

これを軸とします。これ以上の比率を持っている場合は、価格が高騰したタイミングにおいて、ほかの資産への差し替えを検討します。

本稿でお伝えしたプラチナや銀にするのもひとつの方法です。それぞれの素材に特徴があり、分散投資を実現することでしょう。金は現物買いし、プラチナは投資信託やETFにするというのも一工夫ある資産ポートフォリオといえます。

ただ、株式相場や為替の影響で、「貴金属が同じように上下する」ということも多いです。金銀を所有していればオリンピックのメダリストのようですが(その場合はプラチナではなく銅ですね)、貴金属自体を過度に信用することなく、是々非々の姿勢で臨みましょう。「今から本気買いはやめとけ!」という表現が適切なところです。

個別面談をご活用ください

2024年9月には、オンラインセミナーの形式で現物資産について徹底分析します。この3記事に書ききれなかった内容も多いので、ぜひお気軽にご参加ください。

また、2024年9月にはFOMCにてアメリカの利下げが進むのでは、という予測もあります。2024年8月現在(記事執筆時)では0.50%の利下げになるか、それとも0.25%の利下げに留まるかでせめぎ合っているようです。

このあたりの「タイムリーな話」もリアルタイムで解説しますので、ぜひ読者の皆様のご参加をお待ちしております。

セミナー前の個別相談は、XのDMまでお気軽に!

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この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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