無形資産を持つ中小企業オーナーのM&A戦略について

若かりし頃に一旗揚げて、日本の高度経済発展の一端を担った企業経営オーナーの「出口」を考える記事です。時代が移り変わるなかで何をきっかけにして、いつ引退を検討するべきなのでしょうか。忙しい毎日のなかで、そういえば時間をとってしっかり考えないといけないなというオーナーも多いと思います。

時代も技術も変わり、日本の誇っていたGDP世界2位の事実も変わりましたが、責任は変わらず。走り抜いた分、少しゆっくりしたいと考えるオーナーも増えています。ここ数年、そのための出口戦略としてM&Aという言葉をよく耳にしますが、どのように考えるべきなのでしょうか。そもそもM&A仲介会社の営業トークは、本当に信じていいものか?という不安も強いけれど、という声もよく耳にします。

目次

M&Aにおける中小企業オーナーの無形資産は価値があるもの?

今日の日本にとってM&Aは一大市場になりました。金融機関から中小企業のコンサルタント、またはM&A仲介会社の営業マンに至るまで、会社を売らないかという営業に余念がありません。

あまりにM&Aを勧められると、明日にも自分が死ぬ準備をして欲しいといわれているようで、不愉快にもなります。

実際に2010年代までは、中小企業オーナーを営業先に持つビジネスにおいても、M&Aは提案のタイミングを熟慮する、センシティブなものでした。風向きが変わったのは2010年代後半、インターネットを使ったM&Aマッチングサービスが登場してきたあたりからです。これは時代の流れといえるでしょう。いまや90日で会社をM&Aできます、3カ月で売却しましたというニュースも目にします。これまでM&Aを考えずに突っ走ってきたけれど、後継者にも目途が立っていない状況です。

自分に何かがあったとき、会社が廃業していままで培ったものが無くなってしまうくらいなら、いっそどこかに売却して更に成長して欲しいと願う方も増えてきました。M&A市場の拡大と、オーナーの価値観の変化は、とても関係が深いことが伺えます。

M&Aの相談相手は金融機関だから良い、M&A仲介会社だから悪いというものではなく、担当者との相性がとても大きいです。自社事業の理解から買い手の探究力、熱量やそもそもの相性など、信頼できる存在を探していきましょう。

無形資産の獲得を目指すM&A

ニュースで報じられるM&Aは、何百人以上の社員を抱えた事業会社がより大きなシナジーの獲得を掲げ、大々的に事業合併する性格を持ちます。そうではなく、自分と数人から数十人の仲間が懸命に続けてきた事業は、どのようにM&Aを目指せばいいのでしょうか。

M&Aの売却時、買い手は売り手にまとまったお金を支払います。一般的には、時価の純資産+2-5年分の営業利益で算出します。ただケースバイケースの性格が強いのもM&Aにおける交渉の特徴です。

M&Aにおいて大切なのは、自社の事業に興味を持つ買い手です。どのような事例が考えられるのでしょうか。また、買い手ごとにどのような目的があるのでしょうか。

M&Aで買い手が評価するポイント:自社とのシナジー

売り手・買い手の規模に関わらず、M&Aで買い手が評価する最大のポイントは自社とのシナジーです。サービス製造工程の一端を担っている場合や、同様の製造技術を買い手が有していない場合に、M&Aの手法は頻繁に活用されます。

懸念されるのは自分が外れたときに、ここまで力を合わせて進んできた仲間たちと上手くやっていけるのかという点です。M&Aにおける会社風土が仮にコミットしなかった場合、買い手にとっては損切りに近い感覚でも、仲間たちが路頭に迷うのは現オーナーとして何より避けたいものです。ここはしっかりと話し合って、都合の良い下請けにならない関係づくりがオーナーの最後の仕事といえます。

M&Aで買い手が評価するポイント:新規での取組はコスト過剰となる場合

ふたつめのポイントがタイトルにもある、売り手となる企業が無形資産を持つケースです。資産には二種類があり、現預金はもちろん設備は土地・建物などの有形資産があります。M&Aにおいては決算書に記載している相応の評価を受ける項目です。

注目したいのはもう片方の無形資産です。ITサービスのソフトウェアや特許、独創的な技術などが該当します。税理士によっては貸借対象用(B/S)に計上している場合もありますが、M&AのDD(デューデリジェンス)において数字の正確性が検討されます。売り手の価値判断と買い手の価値判断において、もっとも差異の現れる部分でもあります。

無形資産の獲得において、買い手はそれを自分たちでつくったらどれくらいの費用と時間がかかるかを計算します。その結果、新規での取組はコスト過剰となると判断した場合に、該当の技術やサービスを持つ売り手のM&Aが検討されます。順序として先に自社開発を検討してM&Aの舵を切るか、売り手(もしくは仲介会社)からのコンタクトがあって、はじめてM&Aが第一の手法なのか検討する場合です。

両者はM&A交渉に必要な時間が変わります。売り手からファーストコンタクトをした案件の検討に時間がかかる場合は、後者のプロセスを経過していると考えましょう。

M&Aがまとまると後は引退するだけなのか

縁あってM&Aを締結した場合、あとは引退するだけなのでしょうか。もちろん良い区切りと引退を選ぶオーナーもいますが、多くの方を見ると、M&A前にも増して事業に熱量を向けているケースが目立ちます。

M&A契約にロックアップの規定がある場合

M&A時の契約により、M&A後も関与が継続するケースがロックアップです。買い手にとってM&Aは引き取ったから終わりというものではなく、むしろオーナーが築いてきたノウハウや関係性、人脈や技術を承継する時間が必要です。そこで強制的にトップを変えるよりは、オーナーにM&A後の子会社を継承してもらい、陣頭指揮を執ってもらう方が確実性が高いものです。ロックアップはM&A後の〇年、など期限で決めるケースが大半ですが、推進プロダクトの終了や売上目標の達成を条件とするケースもあります。

M&A契約にロックアップの規定が無い場合

ロックアップの規定が無い場合、M&A後のオーナーの扱いをどうするかはM&A事業の進捗で決めていく場合が多いです。売り手のオーナーとしてはM&Aの方針を決めたものの、買収した会社が強い営業力や事業展開力を有していた場合、それまでどう足掻いても獲得できなかった売上や市場が近づくことがあります。もともと事業欲の強いオーナーはそれを期に熱量が増し、M&A後の会社において稀有な存在感を示していくこともあります。いわゆるM&Aによってシナジー以上の効果が得られる事例といえるでしょう。

まとめ

M&Aは誰と進めるかが重要なポイント

無形資産の評価は譲れないもの。買い手との交渉にも時間かける

M&A後のオーナーの身の振り方をどうするか。M&A時の契約にて定義する場合もある

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この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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