【FP相談実例】相続時精算課税制度が暦年贈与との対象化になる法改正を受けて

配偶者もしくは次世代に資産を残す折、贈与型にするか、それとも相続型にするかは大きな分岐点です。税理士などの専門家から一式説明を受け。「ではどうしますか?」と聞かれても半分理解の状態でポジションを取るのは不安という場面も多いでしょう。それでも一度承継した資産は既に被相続人(贈与の段階では亡くなっていませんが)のものではないため、行使した施策を戻すことはできません。

そんななか、相続時精算課税制度という仕組みが注目されています。贈与型ですが贈与時には課税義務が生じず、相続時にまとめて課税される仕組みです。この相続時精算課税制度が令和5年にマイナーチェンジされ、利用者はどのように活用していけばいいのかを熟考していきます。

顧客属性

〇埼玉県東部に居住する60代のAさん

〇2年前に相続時精算課税制度を使って1000万円を長男に贈与。特にトラブルなし。

目次

Aさんの活用する相続時精算課税制度とは?

相続時精算課税制度とは、贈与財産の累計が2500万円まで贈与税が課税されなくなる制度です。年間110万円までの資産は暦年課税制度として非課税になります。

2500万円を超えた贈与資産は一律20%の贈与税が課税されます。精算課税制度を使って贈与税を支払った場合、相続時には既に支払った贈与税を清算して、差額の相続税を納付します。

相続時精算課税制度の適用対象者は60歳への父母・祖父母から18歳以上への子や孫への贈与が発生した場合です。精算課税制度を利用する場合、最初に贈与を受けた翌年3月15日(贈与税の申告期限)までに所定の届出書を税務署へ提出する義務があります。

なお相続時精算課税制度を選択した場合、暦年贈与の利用はできなくなります。このルールが変更されたのが今回のメインテーマです。

2023年(令和5年税制改正)により、相続時精算課税制度とは別に暦年贈与も利用可能に

2024年1月以降の贈与は、相続時清算課税制度を届出していた場合も、暦年贈与を利用することができるように変更されました。実際に何が変わるのか。暦年贈与が利用可になったことをまだ知らないAさんに再登場して貰いましょう。

相続時精算課税と暦年贈与が併用可になり変わること

Aさんは孫に対し1000万円の相続時精算課税制度を利用し贈与しました。贈与時、2500万円に及ばないため贈与税は課税されていません。

令和5年前はAさんにとって残り1500万円(上限額2500万円-現状1000万円)、令和5年税制改正後は1500万円+年次110万円上限の非課税枠が生じます。つまり、相続時精算課税制度を利用するのが早ければ早いほど、非課税メリットは大きいということがいえます。

Aさんにこの変更点を伝えたところ、とても喜んでいました。最終的に次世代に承継させる資産は、相続時精算課税制度の利用時点ですべてではありません。

相続時清算課税制度の利用が早ければ早いほどメリットが大きい

令和5年税制改正によるメリットは、相続時精算課税制度の利用が早ければ早いほど、被相続人になる方において大きくなります。清算課税の上限額2500万円に到達しそうでも、毎年そこに110万円が「追加」される計算式です。

人生100年の世の中、一昔前なら定年を迎え、以降資産は目減りする一方だったライフプランにおいても、生涯現役で収入がある方も増加しています。生涯収入があるということは、常に相続税対象となる資産も比例して増えているということです。

Aさんもまだ相当分の資産を有するため、まずは2023年度中にもう少し資産を承継することにしました。その後は新しく生じる2024年分からの暦年課税110万円を利用します。

Aさんは暦年清算課税残額の順番

Aさんがこの順番にする理由は2つです。2024年からは暦年を優先に使うことで、110万円を超えたまとまった贈与の際に清算課税制度を使えるようにしておきます。不動産の譲渡や退職金、Aさんが受け取る生命保険金などが該当します。その場合に選択できる手段が暦年贈与しか残っていない場合、当然ながら贈与税がかかります。また、一律20%である清算課税制度適用利率ではなく、資産額に応じた累進課税額になります。これは大きな違いです。

また、前稿(https://bfp-investmentlabo.com/2023/06/07/kiso0056/)にてお伝えしたように、清算課税制度以外の暦年資産が相続組入れになる期間は現行の3年から7年に拡大しています。その視点から考えても、暦年贈与の使用は早い方がいいという結論に到達します。亡くなったとき7年が経過していないと、相続税が課税されてしまうためです。

専門家が適切にアドバイスしていることもあり、Aさんは税制改正においても動じることなく適切に、これからの対策をスケジューリングすることができました。今回スムーズに対策が完了した要因は、Aさんによる情報取得意識と、専門家が近かったことの効能といえます。

相続時精算課税制度と暦年課税の両立が注目されるのは、制度が本格稼働した2024年以降といえるでしょう。相続の専門家としては、個別相談を通じて適切に制度の使い方をお伝えするとともに、今後同様に打ち出されるであろう相続周辺に注目していきたいものです。

URLをコピーする
URLをコピーしました!

この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

目次
閉じる