二次相続が大切なのはわかっていても、目の前の相続だけを考えたリスクのお話

週刊誌にて相続新時代と特集されていても、実際に家族に対し相続対策を進める話を切り出すときはタイミングに困ります。筆者は長くスタートアップとして相続課題と向き合っていますが、どれだけ専門家領域が盛り上がろうと「相続なんて考えたら早死にする!」がまだ主流なのかと思い知ることも多いです。

環境次第というのでしょうか。もし我々が多額の相続税を課せられる富裕層で、それくらいなら子世代への資金を、となれば話し合う家族との視座も一致しそうなのですが、なかなか上手くはいきません。ましてや次の次の相続である二次相続のことも一緒に考えるとなると、より難しくなります。二次相続が大切だとわかっていても、目の前の相続だけを考えた家族の話です。

目次

二次相続とは?

二次相続とは、次の相続が終了したあと、一定の期間をおいて発生する相続のことです。たとえば子どもから見て父親の相続を終え、数年後に母親の相続が発生することを二次相続と称します。まず理想を述べると、二次相続による課税リスクや家族間で意見が相違することをあらかじめ抑えることによって、相続がトラブルになる確率は何倍も低くなります。

二次相続の最大の問題点は相続税が二度発生することです。もちろん二重課税という意味ではありません。二次相続の課税の問題を理解するには、以下の図式で説明するとわかりやすいと思います。便宜上、相続人を母と子ども2人の3人とし、1回の相続を父親の死亡、2回目の相続を母親の死亡とします。

「二次相続は相続税が二度発生する」の意味

二次相続は相続が二度発生する。永年言い伝わる格言のようですが、どのような意味でしょうか。

(1回目の相続まで)
父親の死亡→遺産分割協議→相続税の支払(母・2人の子ども)

(2回目の相続)
母親の死亡→遺産分割協議→相続税の支払(2人の子ども)

この図式からわかるのは、1回目に父の遺産を受け取った母親は相続税を支払うも、2回目のそれらの資産も再度子どもに分配され、相続税が発生していることです。母親の長生きだから当然と思われるのですが、父親の死亡時に子どもたちに直接資産がわたる方法もあるなかで、敢えて2度相続税を支払ったと表現することができます。

2023年現在日本の相続・贈与制度では生前贈与制度が整備されています。相続に限った話ではないのですが、国や当局からこれらの制度を教えて貰うことはできません。生前贈与を反映しない相続対策を進めて「あ、ここは〇〇の生前贈与制度を使った方がいいですよ」とはならないもの。国に過失があるというよりも、国の制度とはそういうものです(相続に限らず所得税や年金制度なども原則、申請性です)。くだけた言い方をすれば、知らない人はどうぞご勝手に、です。今日はそんな知る由も無かった方からの相談です。

顧客属性

〇今回父親が亡くなり、はじめての相続手続きを控えるAさん

〇これまで税理士など士業とは無縁で、生前贈与制度などまったく知らなかった。

〇名古屋近郊の都市在住

「早めの相続が大切」は、使える制度の可視化でもある

なんで税金も社会保険料も納めているのに、相応の情報をくれないんですかね!一通メール送れば済む話でしょ!フィンテック?の世の中ではないんですかね!名古屋に住むAさんからスピード感のある連絡があったのは、お父様が亡くなり、慣れない相続をスポットで依頼した税理士と進めていた時のこと。税理士とは別に、吐き出せない場所が必要だったようです。もちろん、腹を立てている内容は我々にも十分に理解できるものです。

いま相続の処理をしているなかで、父親が所有していた資産や不動産の運用など、リアルタイムに相続のタイミングを迎えては「できないこと」が数多くあります。そしてそれは遡及適用ができません。つまり相続は、相続が実際に発生したタイミングでどれだけ知識武装をしていようと、またそのタイミングでどれだけ頼もしい専門家を味方に引き入れようと、「時すでに遅し」なのです。

もし10年前に「Aさんはあと10年で相続が必要だよ」と言われたら、国がどれだけ説明をしてくれなくても自発的に情報を集め、備えたことでしょう。その時点で積極的に専門家のドアを叩いたかもしれません。ただ繰り返しですが、人はいつ亡くなるかわかりません。

日本において相続が争族になるのは、早めの相続が大切といわれても多くの人が動ききれないことです。現役世代の毎日が忙しい。早く相続のことを考えると不吉なことが起こる気がする。何より被相続人となる当事者の父親が嫌がる。日本はこのような導きからの危惧をとても大切にします。

一方で相続でトラブルになった人たちの話を聞くと、とても深刻です。それまで仲の良かった家族と疎遠になってしまうことも少なくありません。そのときに全体をデザインできる生前贈与などの制度を十分に検討できていれば、話は変わったかもしれません。早めの相続が大切なのは、相続まわりで使える制度の可視化でもあります。

今からできる二次相続の準備を

Aさんがまだ幸運だったところは、これから二次相続の準備が間に合うという点です。二次相続という言葉はあいまいで、一時相続の資産承継を配偶者にせず、直接子や孫が承継することで、相続税の支払をステップする意味が狭義です。もう1つは生前贈与などを活用して、何年も前から準備を進める。そのときにリスクがあれば家族信託や生前贈与を活用する、こちらが広義の意味です。

Aさんは既に生前贈与の遡及適用は望めません。だからこそ今からできることを意識して、税理士に相談しながら今後に向けての相続対策を組み立てていきました。難しいのは相続は委託者の立場になるのはもちろん、受託者の立場になることも一生で複数回あるかどうかということ。また違う街ではAさんと同じように、「もう少し早く相続のことを知っていたら」という不満が発生します。

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この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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