AIサービスに相続申告書作成を頼んだ話(ポジティブ編)

紙と手書きが大好き、従来のやり方を踏襲することが大好きの相続領域もついにAIのアドバイスをもとに進めることが「当たり前」になっていくのでしょうか。

今回はある相続経験者が縁あって、相続申告書の作成をAIサービスで作成する機会があった方のエピソードです。相続の手続きにAIを活用することはメリットとデメリットがあるため、稿を分けて両者を分析していきたいと考えています。

目次

顧客属性

〇昨年相続申告書の作成機会があったAさん

〇AIの相続サービスに興味があった。不安の残るなかで、もしタイミングが合えば

 活用したいと考えていた。

相続×AIのメリットは何よりも「速さ」

前提としてAさんの相続はきわめて一般的なもので、いわゆる「争族」の可能性が認められる可能性は低いです。相続人のあいだでもしっかり話し合いは済んでおり、相続税申告書という手続きを完了するのみの段階です。

AIを使ってAさんが作成した(父親の)相続税申告書は、ものの1時間で終わりました。1時間を必要としたのは相続税申告書は人生に何度も作らないもので、不慣れであるためです。何度も作る機会があるなら必要書類や記入内容などを反復できるため、もう20-30分は短縮できるのではとAさんは振り返っていました。

相続×AIにより約20万円が無料に

AIが登場したことで最も変革したのは、相続税申告書の作成にかかる費用です。シンプルな相続税申告書を作成する場合の費用目安は約20万円前後です。加えて不動産の処理や権利移転の登記代、戸籍謄本の取得などの費用が必要となります。なおAIで取り掛かる場合も、このあたりの登記代や当局への手続き費用は変わりません。今後法務省とインターネット(API連携など)で繋がれば登記周辺の費用も変動する可能性はありますが、現状を見るに当面先の話といえます。

さて、相続×AIが登場したことで、相続税の相談でこれまでよく違和感を指摘されていたのが、被相続人が死亡時に所有し、承継対象となる資産額が多ければ多いほど、相続税申告書作成時の依頼額は高額になることです。

あるAIによる相続税申告サービスの開発・提供会社によると、資産額の増大に応じて相続税申告書を作成する際の士業側の負担がそう変わることはないということ。つまり作業量は変わらないのに、「お金持ちの相続はお金がかかりますよ」とサービス側が印象を植え付けていることになります。

Aさんは相続×AIの利用により、滞りなく一連の相続申告書の作成を完了することができました。なぜいままで、このサービスが発展してこなかったのかというスピード感でした。Aさんは相続×AIの生まれた背景に強い関心を持ちます。

相続×AIはどのように生まれてきたのか

2010年代中盤から日本ではFintechという言葉が流行しました。Fintechは金融×ITで、直訳すると金融のアップデートとされています。日本において金融とはとても広範的な言葉で、銀行関連という本来の金融以外に保険や不動産といった領域も、Fintechとして一緒くたにされてきました。2020年前後から保険はInsurtech、不動産はProptechという形で細分化が開始されたものの、銀行業務として取扱いが多い相続に関しては、いまいち大きな流れになっていない印象を受けます。

相続関連のなかでも相続税申告書作成など、行政と関わる部分は行政側の受け入れ態勢が整ってからではないとサービスが広がらないため、実体はほとんど進んでいません。一方で2023年5月には日本経済新聞にデジタル遺言制度への着手が報じられるなど、少しずつ時代の進んでいる印象もあります。

このようにAI×相続がここ数年で進んできたのは時代に遅れているのか、ついに属人性の高い相続という本丸までAI化の波が押し寄せてきたのか、意見の分かれる部分ではあります。

相続AIサービスの現状

相続AIサービスの現状は、相続税申告書をAIのアドバイスで作成することができます。運営社によって違いはありますが、概ね出来ることは以下の2点です。

税務署に提出可能な申告書の作成と出力

資産配分、相続人の登録、相続税の資産から課税額まで、新法令や新帳簿にアップデートされた相続税申告書を作成することができます。作成した申告書はそのまま税務署に提出可能です。

複雑な相続資産は入力した内容をもとに税務相談

特別な計算をする必要がある土地や建物の路線価計算、サービスの計算式に反映できていない改正直後の特別控除などは税理士への直接相談に繋ぎます。そのため、AI相続のサービスは税理士や司法書士など士業ビジネスを展開する士業法人や事務所が主体となり、展開しているケースが多いです。

2023年になりChatGPTが登場し、社会インフラの再整備の起爆剤になるかと注目されています。相続×AIにおいては、属人的な相談部分を自動化し、AIによる申告書作成と連携していく可能性が考えられるでしょう。

相続×AIを活用する際のデメリットは何か

本記事では相続×AIを活用する際のメリットについてお伝えしました。現状としてAIで相続申告書を作成依頼する風潮は、新しいものに興味・関心を持つ「アーリーアダプター」以外にはあまり広がっていない印象です。その背景には何があるのでしょうか。次回は相続×AIを利用する際のデメリットを、やはりAさんが利用して感じた要点からお伝えします。

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この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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