日本円で見ると、足元はガソリン価格など物価高が続いています。しかし、これは円安によるところも大きいため、ドルで見た原油などの商品価格はどのように推移しているのかなどは、冷静に見ていく必要があるでしょう。今回は、原油相場を見ていく重要性、投資資産としての原油相場について述べた後、WTI原油先物(ドルベース)での推移を振り返り、今後の見通しについて考えてみました。また、日本の石油関連株などもついても考えて見ました。いずれも、短期的には反発が期待できそうです。
主な原油市場とその動きを見る重要性
世界の原油市場は、北米、欧州、アジア市場に大別されますが、なかでも原油価格の国際的な指標となっているのが、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で取引されるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)の先物相場です。WTIとは米国テキサス州周辺で産出される軽質で硫黄分が少なく、多くのガソリンを抽出できる高品質の原油です。価格決定の透明性の高さや市場参加者の多様さから、WTIの先物市場は取引高、参加者数ともに世界規模を誇っています。
WTIと同様に国際的なのは、欧州のICEフューチャーズ・ヨーロッパで取引されるBrent(ブレント)です。ブレント市場も取引量が大きく市場参加者も多岐にわたりますが、その産出量は減少傾向にあります。
アジア市場では東京商品取引所(TOCOM)で取引されるドバイ原油とオマーン原油(ともに中重質油)の加重平均が価格指標となっています。
原油価格の決定要因としては、需給、地政学的な問題、在庫、投資資金の流出入などが挙げられます。原油市場は株式、為替市場などと比較して規模が小さいため、価格が大きく変動しています。近年はとくに投資資金の流出入により、原油価格が粗く変動する傾向が強くなっています。
生活に欠かせない原油の価格は世界経済に大きな影響を与えますので、世界経済の今後を占う上で見逃せない指標の1つといえます。特に、日本ではエネルギー資源の多くを海外からの輸入に頼っていますので、その価格の変動は日本経済・日本の株式市場により大きな影響をもたらします。
投資資産としての原油
原油などの商品先物取引を売買するには、商品先物取引業者を通じて行う必要があります。商品取引所で扱われている工業原材料や農産物などの商品を現時点で定められた価格で、将来のあらかじめ定められた時点で売買することを約束する取引です。
リスク管理が重要
商品先物取引は、ハイリスク・ハイリターンに分類される運用手法です。このことが、ある投資家には魅力的である一方で、別の投資家にとってはデメリットにもなります。したがって、大きなリスクがあることを理解したうえで、自分の投資方針に合っているかを考え、行動をする必要があります。
基本的にはリスクを避け、高いリターンを狙いたいところです。しかし、高い安全性と高い収益性を兼ねた金融商品などはまず存在しません。
情報収集が重要である
商品価格の変動には、様々な要因が影響しています。原油における主な価格変動要因を説明しました。
1.需要と供給
需要面では、世界景気の動向がカギを握ります。一般的に景気が上向けば需要増加から原油価格は上昇し、後退すれば需要減少から原油価格は下落します。供給面では産油国、特にOPECで生産枠を削減すれば価格は上昇し、生産枠を拡大すれば価格は下落します。
2.地政学的リスク
世界有数の産油国が中東地域に集まっていますが、この地域は世界の火薬庫とも呼ばれ、潜在的に政情不安やテロなどのリスクがあります。
3.為替レートの影響
原油はドル建てで輸出入されるため、日本での原油の輸入価格は為替の変動の影響を大きく受けます。円高になれば原油の円換算価格が下がり、円安になれば原油の円換算価格が上がりますので、日本で商品先物取引をする場合には、米ドルと円の換算レートの動きも大きく影響します。
足元の市場を見ますと、3の「中長期的に円安が進んでいること」、1の「(生産国による)供給が絞られていること」に加えて、今後は1の「(コロナ禍による制限撤廃などにより)需要が増えること」が強気材料になりそうです。
実際のWTI原油先物相場の推移と今後の見通し
ここでは、WTI原油先物相場がどのように動いてきたかを表しました。原油相場が高値、安値をつけてきたのは、NYダウが高値、安値をつけた後になるケースが目立っています。2007年にNYダウが高値をつけた後、2008年に原油相場は高値をつけました。2020年3月にNYダウが安値をつけた後、原油相場は2020年5月に安値をつけました。2022年1月にNYダウが高値をつけた後、2022年6月に原油相場は高値をつけました。
NYダウが2022年10月に安値をつけた後に、堅調に推移していることを考えますと、原油相場も今後は堅調に推移する可能性があると見られます。過去の推移を見ますと、36カ月移動平均線の前後で反発してきたことも多くありました。足元は、36カ月移動平均線の近くの水準にあり、反発しやすい水準であると考えられます。
ここまで原油先物相場が軟調であった背景として、中国経済の減速、欧米経済の減速、米国をはじめ世界的な金融引き締め政策による景気悪化懸念などがありました。しかし、米国では金融引き締めの出口が見え始めています。ロシアによる生産回復が見込こめないなかで、コロナ禍による制限撤廃などが見られていることなどから、今後は底堅く推移することが期待されます。
日本の石油関連株の見通し
ここでは、日本の石油関連株の動きとして、業種別株価指数の「石油・石炭製品」と「鉱業」の動きを10年間分、示しました。WTI原油先物相場によく連動してきましたが、近年は「ESG(環境・社会・企業統治)投資を重要視する欧州の機関投資家などが資金を引き揚げてきた」 との指摘がなされるように、TOPIXに劣って推移してきました。ESG投資の考え方に変化が見られている今、投資家の石油関連株への見方が変わる可能性がありそうです。