今回取材させていただいたのは、未来経営オフィスを主宰されている 善木誠(ぜんき・まこと)氏。

20年ほど前から、ITを軸にフリーランス仲間と企業組合を立ち上げ、その後、NPO法人で創業支援に携わるなど、さまざまな場面で創業や組織運営に関わってこられました。
本記事では、善木氏が起業を選んだ理由、最も苦労した出来事、その学び、そしてこれから独立を志す人や新サービスを立ち上げたい人へのメッセージを、インタビューをもとに紹介します。
起業された理由
起業のきっかけは、約20年前にさかのぼります。
当時、善木氏はフリーランス仲間とともに「企業組合をつくって一緒に活動しないか」という商工団体よりオファーを受けました。この話を受けて色々と支援を頂けるならと甘い考えで企業組合を設立しました、実際の支援とは経済団体の広報誌掲載や交流会出席等の支援であり、 自分達の事業ですから「独立独歩せざるを得ない」という現実に気づいた状況からのスタートでした。
当初は、組合として共同運営していくことを目指していましたが、組織としての性質や文化が善木氏自身の感覚と合わない部分が多く、運営は順調とは言えませんでした。
「収益を分配する組織形態ゆえ、安定的な給料という形をつくりにくい」「メンバーそれぞれ独立志向が強く、一体感をつくるのが難しい」など、組織運営のリアルな課題が次々に表面化しました。
その後、善木氏は起業家やベンチャー等を育成支援する、産業支援型NPO法人のマネージャーとして創業支援に関わる道を歩まれます。自身が抱えてきた失敗や葛藤を活かしながら、これから起業を志す方を支援する立場としての視点を養ってこられたのです。
一番大変だったエピソード
善木氏が最も苦労したのは、フリーランスの特性ゆえに“組織との協働”が難しい場面が多かったことでした。
能力や実務スキルを持つメンバーでも、外部からの仕事を優先してしまう傾向がありました。本来は組合活動を通じて共同で進めていくはずの仕事が、メンバーそれぞれの都合でバラバラになってしまう。
「一緒にやろう」という口約束はあっても、実際には組織としての一体感を持てない場面が頻発しました。
さらに、組合という形態の宿命とも言えるのが、定期的な給与を出しづらい構造。
収益をその都度分配する形式ゆえ、長期的に組織にコミットしづらく、結束力を維持することが非常に難しかったと言います。
このような背景が重なり、善木氏は“組織運営”そのものの難しさを痛感されたとのことです。
そこから得た学び
善木氏は、もしあのとき別のアプローチを取れていたら――という反省から、今の活動の中核となる学びを得ています。それが、「教育」と「理念」の重要性です。
多くのフリーランスは、会社勤め経験が少ない方が多く、組織のしくみや内部での働き方を知らない方もいらっしゃいます。
善木氏自身は、製造業のIT部門で社内ユーザー等とやり取りしながら働いた経験があり、「組織とはどういうものか」「役割をどう果たすか」をある程度理解していました。その経験がなければ、組織観のギャップを埋めるのはさらに難しかっただろうと振り返ります。
「ただ技術を提供する」だけではなく、「その裏にある目的・意味を考える」教育を行える体制を最初から整えておくべきだった――こう語ります。
たとえば、IT分野だけでなく、整体など別分野のスモールビジネスにも通じる考え方です。技術や専門性は強みですが、それを “何のために” 活かすかを意識してもらうことが、組織としての統一感や協業力を高める鍵になるというのが、善木氏の学びです。
独立を目指す人へのメッセージ
ここで善木氏がぜひ伝えたいと話してくださったのが、ドラッカーがよく引用した 「三人のレンガ積み職人の話」 です。
旅人が教会建設の現場で「何をしているんですか?」と問いかけると、
- 一人目の職人は「レンガを積んでいる」と答え、
- 二人目の職人は「大きな壁をつくっている」と答え、
- 三人目の職人は「人々が祈る場所をつくっている」と答えました。
同じ作業でも、意識や目的の持ち方でその価値は変わります。「ただの作業」と捉えるか、「組織の一部」と捉えるか、あるいは「人々のための意義あるもの」と捉えるか。
善木氏は、マネジメントの本質は、従業員やメンバーに「ただの作業者」ではなく「社会的意義を感じられる存在」と感じてもらうことにあると語ります。
起業や新規事業に挑むとき、技術やアイディアを持っているだけでは十分とは言えません。「なぜそれをやるのか」「誰のためにやるのか」という問いを自らに問い続け、理念を持って取り組むことが、事業をただのビジネスから“価値ある事業”へと昇華させる力になるのです。
現在の取り組みと募集している仲間
近年、善木氏は、副業的な起業家の支援やネットワークづくりに力を入れています。
日本経営士会という全国組織であるコンサルタント団体に加入して活動している傍ら、岡山県の女性起業家が集まるコミュニティ「フェムライズ」でも活動をしておられます。こういった活動の背景には、「ご主人がなかなか稼げず、経済的な自立を目指したい」「手に技術を持っているけれど、それをビジネスに昇華したい」といった思いがあると伺っています。
善木氏が特に関わりたいのは、次のような方々です
- ある程度の会社勤務経験があり、経営企画や組織運営に興味・理解がある方
- 自分の得意分野(技術・サービス・専門性等)を持っていて、それを形にしたい方
- 小さな事業を立ち上げたい、すでに始めているが壁にぶつかっている方
これらの方々とご一緒に学び、事業を磨き合っていきたいという思いを、善木氏は強く持っていらっしゃいます。
まとめ
善木誠氏が20年にわたり歩んできた道のりには、成功だけでなく挫折や葛藤があります。しかし、その経験から得た「教育の重要性」「理念の力」「人を巻き込む体制づくり」の教えは、まさにこれから起業を考える方、新サービスを立ち上げようとする方のための大切なヒントです。
特に印象的だったのは、「同じレンガを積む行為でも、その目的意識によって価値が変わる」という話。技術やノウハウ以上に、「何のためにやるのか」を持つことが、事業を人に響かせ、持続可能なものにする鍵だという信念が、善木氏の言葉の至るところに宿っていました。
もしあなたが今、独立を考えているなら、まずは自分の“理念”に立ち返ってみてください。そして、その理念を共有できる仲間を探し、少しずつでも行動を積み重ねていけば、必ず道は開けていくはずです。
