自分のプロダクトに恋するな──StartupScaleup.jp富岡功氏が語る、真の事業開発論

「決して、自分のプロダクトに恋しないでください。」

この一言は、数多くの企業の新規事業を成功と失敗の両面から見てきた経営者の言葉です。
株式会社StartupScaleup.jp代表・富岡功さん。2022年に創業し、製造業の新規事業開発に特化したコンサルティングを行う同社を率いています。
彼はこれまで、8つの事業立ち上げを6社で経験してきた生粋の事業開発家です。

デロイトトーマツコンサルティングでの大企業向け新規事業プロジェクトを経て、独立。
現在は、研究開発型企業の技術を市場につなげる「架け橋」として活躍されています。

今回は、富岡さんのキャリアと哲学を通して、起業や事業開発の“本質”を探ります。

株式会社StartupScaleup.jp 代表 富岡功氏
目次

「大企業の良さと限界」──デロイトで学んだ構造的な壁

富岡さんがデロイトトーマツコンサルティングに在籍していた頃、担当していたのはアセットマネジメント領域。
当時は、自分で一から生み出した年間売上2.5億円規模のアセットも抱えており、まさにコンサルタントとして順風満帆なキャリアを歩んでいました。

「有名企業の良いところは、社会的信用が圧倒的に高いことです。デロイトの名刺を出せば、会えない人はいませんでした」

一方で、同時に感じたのは「新規事業を動かす難しさ」でした。
監査法人という立場上、コンプライアンス意識が強く、スピードや柔軟性が必要な場面で“動けない壁”があったと語ります。

「新しいことをやるために必要なのは、小さな試行と修正の繰り返しです。でも、監査法人をビジネスとして抱えた有名企業では、“失敗を前提とした挑戦”が難しい。小回りが利かない構造なんです。デロイトから独立して動き、デロイトと協業した方が、かえってデロイトの役に立つのではないか、と考えました」

---自らの手で“変化を生む場”をつくるために。

そのもどかしさが、富岡さんを起業へと駆り立てました。

「営業するな」──新規事業開発における最大の誤解

富岡さんが最初に直面したのは、「営業の罠」でした。
多くの企業が、新しいプロダクトを作ると同時に「営業で売っていこう」と考えます。賛否がある議論ではありますが、富岡さんはこう持論を展開します。

「新規事業において、“営業が必要なサービス”は魅力がないんです」

一見、矛盾しているようにも聞こえるが、彼の論理は明快です。

「たとえばZoomには営業部隊がいません。にもかかわらず、世界中で使われている。なぜか? “なくては困る”プロダクトだからです。つまり、“強い営業が必要な時点で、少なくてもその時点では、市場に強く望まれていない”ということなんです」

この視点は、多くの起業家や新規事業担当者が見落としがちなポイント。
「営業が頑張れば売れる」「営業はどんなものでも売るのが仕事」は幻想なのです。本当に必要な製品は“自然に売れていく力”を持っています。

「営業力で売るのではなく、顧客の、夜も眠れない苦痛(ペイン)を解決すること。これを見誤ると、事業は長続きしません」

「営業を外注するな」──がん細胞のように広がる誤解

富岡さんは自身の経験からも、営業を外注したことを「典型的な失敗」と語ります。

「一時期、営業を外に出したことがあります。でも結果的に、『売りやすい弾がない』『この製品がピタッとハマる案件が少ない』というような、“数”の話しか出てこなかった。問題はそこではないし、なによりこのお客様に対する表現方法が引っかかりました」

彼が繰り返し強調するのは、“営業とはソリューション提案であるべき”という考え方です。
つまり、顧客の課題を理解し、その課題に“どんな解決策を当てるか”が本質であり、単なる販売活動ではないのです。

「プロダクトが売れないとき、『営業が頑張っていない』と言う経営者は多いですが、それは“がん細胞の思考”です。プロダクトに問題があるのに、営業に“爆弾処理”をさせてはいけない」

この冷静な分析には、実践の裏付けがあります。
彼はこれまで、事業開発者として、通算で1,300回以上、顧客インタビューを実施し、徹底して「市場の声」を集める活動をしてきました。

直近では、この顧客インタビューの手法を誰でも再現可能なメソッドへと昇華し、生成AIが聞き込み調査を行う製品の特許を出願するほどになったそうです。

製造業の技術を“市場”につなぐ──StartupScaleup.jp の挑戦

富岡さんの現在の事業テーマは、「製造業のための新規事業開発支援」。
いわゆるITスタートアップとは異なり、彼が注目しているのは“長年の技術資産を持つ企業”です。

「製造業って、研究開発には何年もかけるんです。でも、いざ完成したときに『誰も欲しがらなかった』ということが多い。これは研究者のせいではなく、構造の問題です」

富岡さんのお兄さんは、失卒で入社した大手化成メーカーのキャリアを、その研究室長として終えるほどの、研究一筋の職歴を持っていながら、その研究成果がなかなか製品として世の中に出ない状態でした。
お兄さんから聞かされ、また、インタビューした製造業のR&D部門も同様に語る、「社内で埋もれる、卓越した技術の現実」が、今の事業の原点になっています。

「研究者の情熱から生まれた技術に、きちんと日の目に当てたいんです。私たちは“技術資産ありき”で、新しいマーケットを発見していく。これまでに大手化学繊維メーカーの技術を活かし、39のライセンスを市場に送り出しました」

StartupScaleup.jpが行うのは、単なる市場調査や事業アイデア出しではなく、研究開発の裏にある「想い」を拾い上げ、“技術が生きる場所”を見つける支援なのです。


「自分のプロダクトに恋するな」──起業家へのメッセージ

富岡さんが若手起業家や新規事業担当者に最も伝えたいのは、冒頭にも書かせていただいたこの言葉です。さらにもう一歩踏み込むと、「執着を手放すこと」と語ります。

「世界最強のシードファンド、Yコンビネーターの金言に、“決して自分のプロダクト(自社商品)に恋するな”という言葉があります。私自身、この失敗を繰り返してきて、これは本当に真理だと思います」

プロダクトが売れないとき、「市場が悪い」「お客が理解していない」と考える人は多いが、富岡さんの考えは逆です。

「『お客さんがバカでわかってもらえない』ではなく、必ず、『プロダクトのコンセプトや戦略がそもそもバカ』なんです。狙う相手が間違っているか、そもそも渇望されるような価値を製品が持っていないか。原因は常に自社側にある」

その冷静な視点は、プロダクトと市場の関係を見誤らないための重要な教訓です。
PMF(Product/Market Fit=市場適合、「爆売れ状態」)を達成しないままIPOを目指す企業が増える中で、富岡さんは警鐘を鳴らします。

「ビジネスプランは必ず“絵に描いた餅”です。現場の声を無視した計画ほど危険なものはありません。間違ったビジネスプランに基づいて製品を作り、プラン上の目標を達成しようとすると、九割九部、最終的に“プランを切るか、人員を切るか”の選択を迫られます。多くの会社が、間違って“人を切る”、日本だと『あの営業部長は無能だ』とレッテルを貼る。こうならないためには、あらかじめプランのまま顧客にぶつけ、ダメなプランの方を切っておけば良いわけです。描きかけのブランを捨てるのに、コストなど発生しないのですから」

“熱”ではなく“構造”で勝つ

富岡さんのビジネスは情熱的でありながら、極めて論理的です。
彼が何度も繰り返すのは、「構造で勝つ」という言葉。

「新規事業は、熱意や気合いでは続きません。再現性を持つ構造を作ること。弊社で言うなら、リードに波のあるコンサル案件をその場その場でゲットする労働集約的なやり方をするのではなく、フロントエンドの生成AIソリューションをまずはお使いいただいて、そこから、バックエンドの伴走支援に繋げてゆく。それがスケールにつながる唯一の方法だと思っています」

StartupScaleup.jpの取り組みは、まさにその実践です。
製造業という巨大な業界の中で、“技術”と“市場”の構造をつなぎ直しながら、着実に成果を積み上げているのです。

「行動が、すべてを変える」

最後に、これから起業を志す方へメッセージをいただきました。

「成功か失敗かは二の次です。一歩踏み出して行動することが、すべてを変えます。
プランを練ることも大事ですが、実際にお客様と対話し、反応を得て初めて“本当の答え”が見えてきます。」

富岡氏の言葉には、数多くの新規事業を見てきた人ならではの重みがあります。
プロダクトよりも顧客、計画よりも行動。
StartupScaleup.jpの挑戦は、これから起業を目指す人々に、確かな示唆を与えてくれます。

「もし、技術者の開発をそこがゴールとなってしまって活用しきれていないという方がいらっしゃれば、お気軽にご相談してください。一緒にできることを考えましょう」

これから起業・ブロダクト作成を行う方だけでなく、日の目を見ることができずもどかしい思いを抱える技術者の方にとっても、非常に心強いお言葉を頂戴しました。

株式会社startupscaleup.jp 公式ページ

https://startupscaleup.jp/
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この記事を書いた人

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