「デザインとは“翻訳”である」──16年の起業人生が教えてくれた、クライアントの“想い”を形にする力

A HIRAGADESIGN(ア ヒラガデザイン)代表 マサキ・ヒラガ氏

「デザインは見た目を作ることではなく、“伝わる構造”をつくること。」
そう語るのは、A HIRAGADESIGN代表のマサキ・ヒラガ氏。


デンソーでの製造現場から、営業、ベンチャー、そしてデザイン・ブランディングの世界へ──多様なキャリアを経てたどり着いたのは、“人の想いを翻訳する”という仕事の本質でした。

本稿では、16年にわたる起業ストーリーとともに、デザイン経営の視点から、これからの起業家に向けた実践的なヒントを伺いました。

目次

製造からデザインへ──現場で学んだ「見える化」と「構造」

ヒラガ氏が社会に出たのは高校卒業後。
「タイミングがよくて、デンソーに入社できたんです。当時は“見える化”なんて言葉もまだ一般的ではなかった頃ですが、この現場ではすでに“工程の見える化”や“カイゼンの仕組み化”が徹底していました。」

製造の世界で培った「構造を整える」「プロセスを見えるようにする」という考え方は、のちのデザイン業にも大きく生きることになります。
その後、営業職などを経て、勢いのあるベンチャー企業に転職。グリーンシート(店頭公開市場)での上場を経験し、また別のベンチャーでも、役員と営業部長として新規事業の立ち上げも任されました。

「部下を持ち、教育にも携わりました。制作・システム開発・営業と幅広く関わり、根本的なビジョン設計と具体性の大切さを痛感しました。」

このころの経験が、現在の事業でも生かされているといいます。

クライアントの“言葉にならない想い”を聞く難しさ

起業後に最も苦労したのは、デザイン制作そのものよりもクライアントワークの難しさでした。

「経営者の方でも、意外と“自分が本当に何を求めているか”を言葉にできない方は多いです。『Aですか?Bですか?Cですか?』と質問しても、明確な答えが返ってこない。つまり、相手の中にまだ“構想”が整理されていないんですね。」

デザインという仕事は、単なる“形づくり”ではなく、“思考の整理”を支援するプロセスでもあります。
「こちらが一緒に考えながら、“なぜそれを作るのか”“何を伝えたいのか”を掘り下げていく。その過程こそが本質です。」

経験から生まれた“提案と掘り下げの極意”

多様な案件をこなす中で、ヒラガ氏が行き着いたのは「提案の型を持つこと」でした。ただし、サービス自体をパッケージにするのではなく、過去のお客様への提案と提供できた価値を基に、こうすれば求めているものを見つけるお手伝いができる、という考えのもと、事業を行っておられます。

「人によって課題も目的も違うので、最初のヒアリングの精度を上げることが大事です。たとえばウェブサイトを作りたいと言われても、“なぜウェブなのか?”という根本を掘らないと意味がない。単に『サイトを作る』のではなく、『事業の世界観を作る』という視点が必要なんです。」

単なる制作代行ではなく、ブランディングや理念整理を含めた総合的なデザインコンサルティング・本来の意味での「コンサルティング営業」をデザイン作成を通して提供されておられます。

AI時代のデザイン──企画も、創造も、翻訳も

AIの活用について尋ねると、「ほぼ毎日使っています」と即答。
「ChatGPTは企画の壁打ちやアイデア出しに使いますし、アドビのAI機能でデザイン効率を上げることも多いです。あくまで参考程度ではありますが。AIは人の代わりではなく、“翻訳精度を上げるツール”だと思っています。」

AIを使うことで、より迅速にコンセプトを可視化できる一方で、「人の想いを読み取る」部分は決して機械には任せられない。


「結局、“誰のために、何を伝えるか”という問いに戻ります。AIはそれを支える強力な補助輪ですが、走るのはあくまで自分自身です。」

便利なツールなので使うべきところは使う。だが、自分自身の職務は「AIで対応できない、オリジナリティな制作物と提案を提供するところに価値がある」。経営者として最新のテクノロジーに向き合いつつ、でも頼り切りにはしないというスタンスで、時代に適応して変化していく経営を続けられてます。

起業家へのメッセージ──“志”だけでは足りない

「これから起業したい方には、ぜひ“最善と最悪の両方”を想定してほしいですね。」
ヒラガ氏は、志を高く持つことの大切さを認めつつも、現実を見据える視点の重要性を強調します。

「スタートアップや副業でうまくいく人もいますが、ビジョンだけで突っ走ると、現実とのギャップに心が折れてしまうこともあります。
“理想を描く力”と“現実を捉える冷静さ”──この両輪がある人ほど、結果的に長く続く印象です。」

日本の起業家の倒産率は3年で62%。10年以上続く所となると8%と、それだけで上位に入ります。そんな時世の中で16年、事業を続けておられるヒラガ氏の言葉には経験に裏打ちされた確かな重みがあります。

「デザイン」は人をつなぐ“翻訳装置”

A HIRAGADESIGNでは、ブランディングからCI・VI、ロゴ、HP・LP制作まで一貫してサポートされておられます。
「デザインとは、企業や個人の“世界観”をどう社会に翻訳するか、という仕事です。」

現在は新たな取り組みとして、「人事専用デザイン」の開発にも着手。
九星気学などをもとに、生年月日や生まれた年代から人の傾向をデータ化し、チームのマッチングや面接の質を高める翻訳ツールを企画しています。

「九星気学というスピリチュアルな話だけではなく、例えば「ゆとり世代」など、生年月日(=その世代)の傾向や特徴というのは、100%個人に合致するわけではないが確かにある。採用や組織づくりは、“人と人の化学反応”です。もし相性や傾向を事前に把握できれば、面接の質問の仕方も変わりますし、チームの生産性も上がります。」

人の個性や価値観を「見える化」するこの試みは、まさにヒラガ氏がデンソー時代から培ってきた“構造化”の思想と通じています。

おわりに──“デザイン”とは、理念を社会に届けること

16年にわたる起業の歩みを通して、ヒラガ氏が語るのはシンプルな真理です。
「デザインは見た目ではなく、“理念の翻訳”です。」

クライアントの言葉にならない想いを聞き取り、形にして届ける。
その積み重ねの先にこそ、信頼と成果が生まれる。

これから起業を考える方、事業を広げたい方にとっても、「何を伝えたいのか」「誰に伝えたいのか」という原点を持つことが、ビジネス成功の第一歩となるはずです。

そんな漠然とした悩みをお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひともお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

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