株式相場に調整が入っている現在、「金や銀」といった貴金属に投資をする是非と分析について、実際に貴金属を扱うことが多い相続特化FPが寄稿します。
本記事執筆現在、株式相場にとって「騒がしい」時期が続いています。2024年8月5日から6日にかけて、日経平均が終値で前日比4451円となり過去最大の下げ幅を記録しました。1987年10月19日にニューヨーク市場で発生した大暴落の値下がり値を超えたことから、「令和のブラックマンデー」とのネーミングも広がっています。現段階ではアメリカの相場冷え込みに加え、日銀が政策金利を上昇させたことが主な要因と分析されています。
なお翌日の8月6日、日経平均は前日比3217.04円の反発を記録します。このように不安定な株式相場において、「資産の逃げ処」として重宝されるのが貴金属相場です。「有事の金」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
貴金属相場とは?
貴金属相場とは、金やプラチナ(白金)、銀などの素材を市場で売買する運用方法です。現物での売買、投資信託やETF(上場投資信託)での売買、先物での売買など、複数の売買方法があります。貴金属への投資を検討する際は、どの手法・マーケットで勝負をするかが大切です。
一般的に貴金属相場全体は価格変動性(ボラティリティ)のある株式投資に比べて安定した値動きをするものと認識されています。前項でお伝えした有事の金という言葉は、さまざまな要因で株価が変動しても、金をはじめとした貴金属は安定性が高いという前提を称したものです。
現物か投資信託か
まず代表的な方法が「現物」での売買です。指輪やネックレス、地金などを買取業者と呼ばれる方々に持ち込み、買取業者側に譲渡することによって売買益を受け取ります。代表的な買取業者のひとつである、「なんぼや」の買取レートを見てみましょう。
(某日の金の買取価格)
(某日のプラチナの買取価格)
アルファベット+数字は何を意味するか
上記表を見ると、KやPtというアルファベットのあとに数字がついていることに気づきます。これは何を意味するのでしょうか。
金のKはカラットを意味します。金は24分率で表わされるため、24カラットは純金99.9%以上を意味します。加工時にどうしても金以外の要素が0.1%は入ってしまうため、100%という表記は使いません。K18の場合は18/24で75%です。
一方のプラチナの場合、Pt1000が純プラチナに該当します。こちらも純度は100ではなく、100に限りなく近い純度とされています。Pt950やPt900は、相対的に1000と比較して純度の低いものです。
インゴットとは?
純度とは別に、金やプラチナで「インゴット(地金)」という言葉を聞くことがあります。貴金属界隈で「今日の金はいくらですか?」と聞かれたとき、一般的には「今日の金1gのインゴットはいくらですか」という意味です。
日本語でインゴットは金塊(金の場合)と称される場合もあれば、「地金」と呼ばれるケースもあります。K24やPt1000といった純度の高い貴金属を、定型のケースに流し込み、保存しやすくしたものです。印象としては若い世代や専門業者はインゴット、一定の年齢以上の方々は地金という言葉を使う印象が強いです。
なぜ金のインゴットが世界中で求められるのか
これまでの歴史のなかで、金のインゴットは権力者や経済力のある方に好まれてきました。なぜ金は評価されているのでしょうか。
①「有事の金」買い
株式相場の暴落時や戦争・災害時など、それまで安定していた資産運用相場が一気に崩れ、乱高下する局面があります。最近は様々な投資対象があることによって、金の存在価値も薄れつつありますが、価値自体は下がってはいません。むしろ国によって優劣がみられる為替や株式と異なり、世界で共通して資産の価値がある鉱物です。金の知名度は高いですが、プラチナや銀も基本的には同じ傾向があります(それぞれの違いについては別稿にて解説します)。
②いつでも換金できる
金の大きな特徴は、「どんな時でも一定の価値があり、いつでも換金できる」点です。
株式は会社の倒産、暗号資産は体制の変更などが発生すると、とたんに紙切れや価値の無いものになります。一方の金は「現物」であるため、社会情勢がどういった状況でも価値があり、いつでもお金に換金することができるものです。一昔前は、インゴットを厳重な金庫に保管しておくことも多くありました。外国の映画などでよく目にする光景ですね。
③節税対策ができる
インゴットを売却すると、買取店から税務署に売買記録が共有されます。これに基づいて所得税が課税されるためです。インゴットは価格変動が低く、資産運用として重宝されますが、課税のチェック体制もまた確立されているものです。
そのため金を売ろうとしたときに、一定量を超えてしまうと所得税がかかり、税金が必要となります。しかし金のインゴットとして分割して売却すれば、税金がかからずに節税をすることが可能です。詳しく見てみましょう。
インゴットを売却するといくら所得税がかかるのか
インゴットを売却したときの所得は原則、譲渡所得として、給与所得などほかの所得と合わせて総合課税の対象となります。
(譲渡所得の計算式)収入金額 ー (取得費+譲渡費用) ー 特別控除額 = 課税譲渡所得金額 |
取得費がわからない場合
両親や祖父母から相続した金を売ったときなど、購入当時の金額がわからない場合もあります。その場合は、「売却した金額の5%」を購入時の金額として計算します。たとえば自宅にあった金のインゴットを200万円で売却した場合は、以下の通りです。
200万円 ー 10万円(200万円の5%) = 190万円 |
特別控除のうえで総合課税となる
インゴットの売却は、年間の「特別控除50万円」を適用したうえで、総合譲渡所得に対し課税が適用されます。つまり結論から言うと、「金の譲渡売却益+ほかの譲渡所得等」が年間50万円以下であれば非課税ということです。
総合課税とは、貴金属の譲渡所得単独で税率をかけるのではなく、給与所得などほかの所得と合わせて所得税を課税するものです。
ほかの所得税課税の課税状況によって所得税は5%から45%までの税負担となります(以下速算表を参照)
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から89,990,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
なお令和19年までの確定申告においては、所得税と復興特別所得税(原則として基準所得税額の2.1%)を併せて申告納付します。
相続税対策としてのインゴットの活用
現行の法律では、金地金に限らず1年間において、110万円までの生前贈与には贈与税がかかりません。この仕組みを活用して、生前に子どもや孫へ贈与をすることで、税金の支払いをできるだけ少なくすることができます。
貴金属は相続資産になる
貴金属は相続の際、相続税の対象となる相続資産に含まれます。相続税評価額は、所有者である被相続人が亡くなった日の業者買取価格を基に計算して割り出します。1gあたりの金額は各社のホームページなどで公表されているため、所有する重量(g)をかけたものが相続税の評価額となります。
貴金属の「価格安定」は本当か
ここまでの資産性や税率を踏まえたうえで、金および貴金属が「資産運用として有効なのか」について考えていきたいと思います。
貴金属は上昇の一途をたどっている
まずインゴットで金のチャートを見てみましょう。
2024年の年明けからの金は3月下旬まで小規模の上昇基調だったものの、4月以降上がり幅を広げ、一時期インゴット14,000円に迫っています。年明けから比較して約1.4倍の上昇率です。その背景として、金の価格を左右する複数のポイントがあります。
①戦争リスク
「有事の金」という言葉通り、戦争リスクは金の価格構成に大きく関わります。ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、イスラエルとイランの緊張も金の購入を大きく後押ししました。
興味深いのは「戦争リスクが高いから金を買っておく」ではなく、緊張が緩和すれば売却行動も高まる点です。
2024年4月22日にイスラエルは米欧や中東諸国からの自制要請を無視し、イラン空軍基地などを狙って報告攻撃を行ったことが伝えられました。ところがイスラエルが攻撃した事実を認めなかったことで、安全資産へ資金逃避させる流れが強まり、金相場価格は大きく上昇します。
しかし翌日の4月23日、イランはイスラエルに報復攻撃を行わない方針を示し明日。これにより中東情勢への過度な緊張が緩和される見通しを受け、金は大幅に売られました。
ここから読み取れることは、株式投資でいうところの長期ホールドではなく、デイトレに近い概念で金の価格は動くということです。戦争リスクが高まれば買い、落ち着けば売りという動きです。そのうえで上記チャートのように右肩上がりにあるのは、上げ下げをマクロの視点で見ると、高騰要因の方が強い、ということがいえます。これは戦争リスクのほかに、金融政策においても分析することができます。
②アメリカなど各国の利上げ・利下げ
金は各国の政策金利にも大きく左右されます。特にFRB(連邦準備制度理事会)が利下げを示唆すると金は売られます。反対に利上げが示唆されると、金利のつかない資産である金は株からの逃避資産として再評価され、大きく買われます。
このFRBが金利政策を決めるのが消費者物価指数(CPI)などの経済統計です。また統計を受けたFRBの幹部・要人の発言にも大きく左右されます。特に2024年現在FRBを率いるパウエル議長の発言は、金の価格が決まるうえで要チェックの対象といえるでしょう。
アメリカのほかにも欧州中央銀行(ECB)による金利政策も金価格に影響します。2024年6月にECBの理事会は、2019年9月以来4年9カ月振りとなる0.25%の利下げを決定しました。ユーロ圏のインフレ率低下を受けての方針です。ECBが利下げを進めるとFRBの戦略にも大きく影響するため、「ECB(EU)を受けてFRB(アメリカ)はどうなるのか?」という期待値も金の価格を動かします。
では日本はどうでしょうか。ここ10年以上にわたって、日本はゼロ金利政策、またはマイナス金利政策を展開してきました。2024年8月1日、日銀(日本銀行)は政策金融決定会合で政策金利の0.25%引き上げを決定します。これを受けてアメリカ・日本間の金利差が縮小し、ドルが売られることで金相場は上昇します。日銀の施策はアメリカほど金に影響するものではないものの、長年継続してきた「異次元の金融緩和」が修正されるなかで、金の価格に影響力を持つ場面も増えていくでしょう。またこの場面のように、利下げ・利上げによる為替の変動も金の価格決定要因になります。
本記事では貴金属の代表的な存在である金に特化して、価格の変動要素をお伝えしました。ではこれから金はどうなるのか。また金と同じコモディティであるプラチナや銀はどのような特性を持っているのかは、別記事にてお伝えします。
また上記の価格決定は、あくまでインゴットなどの現物買いによるものです。投信やETFで所有する場合は」、現物買いとは異なるスタンスが理想とされる部分がありますので、その際に詳しく解説します。
数年単位で見たときの金価格
2024年単位で金の価格を見たときに気になるのは、「2024年だから特別な動きをしているのではないのか」という疑問です。確かに複数地域で戦争リスクが表面化しているタイミングであるうえ、ここ数年のなかで最も「利上げ・利下げ」という言葉を耳にすると思います。2024年に偶然金が上がっただけだとすれば、貴金属の資産性を分析したとしても不十分です。そこで先ほどのチャートを、2022年から2024年の3年間に拡大して見てみましょう。
先ほどの2024年のチャートでは10,500円前後の開始でしたが、2022年1月に遡ると7,000円から8,000円まで下落していることがわかります。
つまり、2022年から2023年のあいだに7,000円前後から10,500円と、3,000円前後上昇しています。上昇率にして150%です。これだけ上がる資産運用は金以外は数えられるほどしか無いうえ、どうしてもハイリスクのものになってしまうでしょう。金という歴史のある資産性商品がこれだけ上がっているところを見ると、メディアをはじめとした世の中の「金は高騰している!」という掛け声も、案外的外れではないことがわかります。
貴金属の価格は業者によって異なる
もう一つ、貴金属の特徴は、「業者によって売却価格が異なる」という点です。
株式投資は証券会社によって、購入価格が変わることはありません。一方の貴金属は、受付をする買取業者によって、インゴットで100円から200円の金額差が発生します。これは受取額を各業者によって決定していることによるもので、貴金属の金額が証券取引所のようなところで相対的に決まっているものではないことを示しています。
なお、この価格差はあくまでインゴットなどの現物資産の場合です。金など貴金属をもとに組成した投資信託やETFなどは扱いが証券会社に移りますが、価格(基準価格)は統一されています。インゴット数百円ということは、まとまって現物資産の貴金属を購入すれば大きな差額になります。この価格差を嫌って買取業者を決めておく人もいれば、いざ売却のタイミングで複数の業者に「相見積もり」をする人もいるようです。
資産ポートフォリオにおける金の理想的な配分は?
ではポートフォリオの視点から見て、全資産のなかで貴金属はどのような立ち位置でいるべきでしょうか。
ポートフォリオにおける貴金属 = 資産の10%~20%の範囲で積み立て保有 |
現物買い、投信やETFの合計額として、全資産の10%〜20%を推奨します。これ以上の比率を持っている場合は、価格が高騰したタイミングにおいて、ほかの資産への差し替えを推奨します。
とはいえ、上記チャートを見ると恐いものなしの右肩上がりではありません。実際に2024年4月から横ばいが続いています。インフレリスクなどを加味して一部積み立てはあるものの、逆に大量保有している場合は、資産整理のタイミングで見直すことも選択肢です。
投資は、世の中の大多数が今が買いだ!となったら、既にその資産における天井は訪れており、最高値である可能性すらある、という格言も昔から伝わっています。一言でまとめるならば、「今から本気買いはやめとけ!」というキーワードが、適切で現在の貴金属の位置づけを表わす言葉だと考えます。
とはいえ一方で、今回のような相場の大変動が発生した際に、一部資産を貴金属で盛っておくことは有用です。そのあたりのバランス感覚を、大切にしましょう。
安定資産は前提として、最新のボラティリティは把握を
以上1回目の記事では、上昇の一途を辿っている金の最新情勢をお伝えしました。
2022年からの数年間を見ても大きな下落が無い金は、社会の評価に違わず「安定資産」であることは間違いありません。その結論が出たところで、敢えて「日次」を見てみましょう。
最後にお伝えしたいのが金の「ボラティリティ」です。ボラティリティとは投資商品においての価格変動性を示しています。
「安定資産」「有事の(価格変動性が小さい)金」という評価に反して、日次の僅かな金額ですが一定のボラティリティがあることがわかります。
これは戦争リスクにしろ、利上げ・利下げリスクにしろ、金の価格が揉み合っているためです。「イスラエルのガザ侵攻が避難されているのを受け、アメリカは和平交渉を進める準備がある」という国際ニュースが流れたとします。
これを戦争リスクが低下する端緒になる、と解釈する投資家は一定数いるでしょう。ただ中東アジアにおいて、このような政治的駆け引きは何度も行われているため「これは単なる観測気球で、実際に戦争当事者において和平への距離が縮まったわけではない」という見方があります。
このような揉み合いが続くことで、上記のような日次のチャートが記録されます。このような特性を踏まえ、資産管理における金への付き合い方をあらためて構築し、リスクヘッジをしていきましょう。次回以降の記事では、貴金属の資産運用において欠かせない相続税の問題と、「金以外の資産において」、更に深掘りしてお伝えしていきます。
【運営メモ】
ここまでを加味すると、「非課税で貴金属投資を行う際」は年間利益50万円以下に調整できるように、大きすぎないインゴット・地金を購入する必要があることが分かりますね!
もちろん記事内にも書いていただいているように持ち込み店舗や手数料などの兼ね合いもあるのでサイズを刻みすぎるのはよくないですが、そのあたりも加味して「賢い投資」をしましょう。
株式会社BFPホールディングス 土居 亮規
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2024年9月20日(金) 20:00〜22:00より、本記事を執筆した相続特化FP・株式会社FP-MYSの工藤 崇氏と、本メディアを運営する投資・経営戦略特化FPの株式会社BFPホールディングス 土居 亮規氏で貴金属投資と株式について無料勉強会をオンライン開催します。
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