持株会で資産を築いたあなたへ 〜見過ごされている3つのリスクと対策〜

上場企業に長年勤め、持株会で1,000万円以上の資産を築いた方は多くいらっしゃるでしょう。

株価上昇とともに着実に増えてきた資産を「老後の柱にしよう」とお考えではありませんか?

しかし、持株会はただ一社の株式に全力投資するハイリスクな株式投資です。

今回は、見過ごされがちな持株会の3つのリスクと、あなたの資産を守るための具体的な対策をご紹介します。

目次

持株会の基礎知識

まずは持株会についておさらいしておきましょう。

持株会(従業員持株会)とは、会社の従業員が自社株式を購入・保有するための制度です。

給与から自分で指定した額が天引きされ、企業が提供する奨励金(会社からの補助金)が上乗せされて株式を購入できます。

つまり勤め先の株式を少しお得に買うことができる制度が持株会です。

株価変動で資産額が変動する

持株会は勤め先の株式に投資する個別株投資です。

上場企業の株価は変動しますから、銀行預金のように天引きされた額が保証されるわけではありません。

奨励金率は5%~10%が一般的

例えば10%なら持株会で1万円を買い付けると1万1,000円分の株式を手にできます。

なお仮に1,000万円の持株を保有していたとしても、得られる奨励金は買付額1万円の10%(1,000円)だけです。

まれに奨励金率を銀行預金や投資信託のリターンのように年利回りと勘違いしている方がおられますが、持株奨励金は買付時の資金に上乗せされるだけで、すでに保有している資産に影響はありません。

持株会を資産形成の軸にするリスク

では持株会のリスクに話を戻しましょう。

ここ数年の好調な株式相場の影響で持株会の保有残高を増やしている方も多いでしょうが、資産が増えたからといって持株会が最良の投資先というわけではありません。

注意すべき3つのポイントを解説します。

❶集中投資:暴落で大きく資産を減らす

持株会は株式投資であり、株価下落のリスクは避けられません。

業績の急激な悪化や企業の不祥事が明るみに出れば株価が大きく下がります。

しかも、勤め先たった一社への集中投資のため、暴落時には資産のほとんどを失うことになってしまうでしょう。

定年が近い年齢の方では老後の生活プランが破綻してしまいます。

「うちは大企業だから心配ない」という方はぜひ『倒産 上場企業』でネット検索してみてください。

上場企業が経営破綻したケースは一つや二つではありません。

❷究極の集中投資:資産と給料を同時に失う

失うのは資産だけではありません。

仮に勤め先が倒産したとなれば、株価の暴落で資産を大きく減らしたうえに職も失うことになります。

倒産とまではいかずとも業績の悪化でボーナスのカットや給料の減額もあり得るかもしれません。

2020年のコロナショックでは多くの企業が株価下落に加えボーナスが減らされました。

コロナのケースは1年ほどで回復しましたが、最悪リストラも考えられるでしょう。

資産と収入元を同時に失ってしまう可能性があるのが持株会です。

ただ一社の民間企業に自分と家族の人生を預けるのはとても危険なことなのです。

❸売却の制限:すぐに現金化できない

持株会で保有している株式は、すぐに売却することができません。

売却申請から実際の現金化まで1ヶ月以上かかるのが普通です。

あらかじめ個人で開設している証券口座に持株を移管しておくこともできますが、インサイダー取引規制の対象となるため、決算発表前など売却が制限されるケースもあります。

お金が必要なときに、自由に現金化できないというリスクも見過ごせません。

このように持株会での資産形成には重大なリスクが潜んでいます。

資産が大きくなればなるほど、そのリスクは無視できないものとなっていくでしょう。

他の投資先に乗り換えで問題解決

持株会の問題点は一社への集中投資と換金性の悪さです。

しかし、少しの手間と時間がかかりますが持株会の現金化は容易ですので、持株を売却し他の投資先に乗り換えるだけで問題は解決するでしょう。

元本保証資産:個人向け国債変動10年

年金や退職金と合わせて老後生活を安心して送れる資産額をすでに保有している方なら、大きなリスクを取って無理に増やす必要は有りません。

元本保証である個人向け国債が最有力候補になるでしょう。

買付後1年は現金化できませんが、それ以降は好きなタイミングで現金化できますし、10年は変動金利ですのでインフレにもある程度対応できます。

リスク資産:投資信託で分散投資

まだ投資で資産を増やす必要がある方の場合は、広く分散投資されている投資信託に乗り換えるべきでしょう。

投資信託は投資会社が多くの投資家から資金を集め、株式や債券などで運用する金融商品です。

例えば米国のS&P500などの株価指数に投資する投資信託(インデックス投資信託)なら数百社を超える企業に分散投資できますし、株式だけでなく債券も組み合わせたバランス型の投資信託なら、さらにリスクを抑えた運用ができるでしょう。

新NISAの利用で税金も気にならない

投資信託のメリットは、新NISAが使える点も見逃せません。

持株会では株価上昇で利益が出ると20.315%の税金がかかります。

一方、新NISAで購入した投資信託は、利益が出たとしても税金はかかりません。

持株を売却し新NISAで投資信託を買い直した後は税金を気にせず資産運用ができます。

持株会を新入社員に勧めるのは避けるべき

金銭的なリスク以外にも少し触れておきましょう。

持株会で大きな資産を築いた方は強烈な成功体験があるため若手社員に勧めがちですが、たとえ会社の方針だとしても安易な勧誘は避けるべきです。

中途半端な知識でのアドバイスは勘違いの元ですし、そもそも持株会そのものが優れた資産運用の手段ではありません。

貯金と勘違いしやすい

持株会は株式投資ですので株価が下がれば資産が減ります。

近年は投資をしている学生も増えていますが、まだまだ少数でしょう。

持株会は給料からの天引きです。「会社にお金を預けているだけだから減ることはない」と勘違いされるかもしれません。

奨励金は高利回りではない

前述の通り奨励金率10%と年利回り10%は別物です。

奨励金率と年利回りを比較してみました。

グラフ:売却益と持株奨励金への課税は考慮せず

買付額に一度だけ10%の奨励金が支払われるのと、資産全体が毎年10%増えるのとでは雲泥の差です。

30年の試算ですと奨励金率10%は年利回り3%と比べても大きく負けています。

もし新入社員が奨励金率10%に魅力を感じていたのなら、その勘違いに気づかせてあげてください。

新NISAやiDeCoを利用した方が合理的

持株会で得た利益には税金がかかりますし、持株奨励金も給与の一部とみなされ課税されます。

現在は新NISAという非課税制度が利用できますので、上のグラフの差はさらに開くでしょう。

また企業型確定拠出年金やiDeCoは60歳以降まで引き出せないため、老後資金という目的に限定されますが節税効果を得ながら投資ができます。

わずかな奨励金のために持株会を選択するのは非合理的なのです。

安易な投資アドバイス

持株会は資産を大きく減らす危険があるため、中途半端な知識での推奨はトラブルの元です。

株価が大幅に下落した場合、「あなたに勧められて始めた」と後悔や恨みを買うことになりかねません。

特に上司と部下の関係では、パワーバランスによって断りにくい場合もあります。

持株会は会社の制度として紹介するにとどめ、理解していない点については分からないと答えることも大切でしょう。

まとめ

持株会は一社集中の高リスク投資

資産と給与を同時に失う危険がある

個人向け国債・投資信託への乗り換えが賢明

奨励金を含めても新NISAには及ばない

長年築いた資産だからこそリスク管理が重要です。持株会の奨励金に惑わされず、より合理的な資産管理を行って下さい。

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この記事を書いた人

投資ブロガー兼ウェブライター

投資歴は20年ほど

投資初心者さん向けに全世界株式を主軸にした投資を勧めるブログを執筆。

趣味の投資枠で中日ドラゴンズのHR1本につきFANG+を1000円買付けるホームラン投資を実施中(日本一になったら売ります!)

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