先行していたアメリカに次いで、日本でも2015年頃からFintech(フィンテック)という言葉を聞くようになりました。当時、新聞や経済系のテレビ番組などで、この言葉を何度も耳にしたことのある人も多いでしょう。Fintechとは「金融×IT」の略語で、直訳すると金融のアップデートを意味します。家計簿アプリや暗号資産のサービスが代表格で、キャッシュレスや送金を領域のなかに含める人もいます。
そもそも日本の金融領域はSlerなどによる外注からのアプローチが強い領域です。金融機関における開発部門やシステム部門は自分たちで設計を組んでサービスを作るというよりも、どの外注先に仕事を依頼するかといういったPMの仕事が主でした(PMの前段階の予算管理という方が正しいかもしれません)。Fintechの波を受け、金融機関にエンジニア出身者が集まったスタートアップが提案する流れが生まれます。様々なサービスが生活に定着したものの、いつしかFintechという言葉自体は聞かなくなっていきます。
Fintechという言葉は何に変わったのか
Fintechは一時的な流行り言葉だったのでしょうか。当時、喧騒のなかにいた方々に話を聞くと、短期的に注目もお金も集まるバズワード(Buzz word)という認識は確かにあったようです。この言葉はどちらかというとあまりポジティブな意味では無く、皮肉の利いた言葉の意味合いを持ちます。短期間でどかんと耳目が集まった分、時間が経てば沈静化していくでしょ、という視点です。とはいえ当時の勢いは絶大なもので、投資家からのリスクマネーも集まり、数億円調達した!というニュースも頻繁に流れました。
Fintechの主役となった金融機関においてもデットファイナンスを主業務としており、最新のサービス開発に巨額の融資を実行するも、実際に現場の職員はメールアドレスさえも持っていないといった、笑い話にもならない二律背反の状況さえありました。残念なのは当時のFintechの流行から5年以上が経過し、あまりビジネスへのアプローチ方法が変わっていない金融機関も少なくないということです。
その影響か、Fintechが結局、金融の何を変えるんだという曖昧さが強くなり、日本では「金融機関まわり」の産業にITが可能性を見出すように変わります。2018年頃からその傾向はより顕著になっていきました。不動産まわりではあればproptech、行政関係ならGovtech、既存の仕組みをITの技術で変えていく動きであればRegtechです。そのなかで、日本人の90%近くが加入する生命保険にも、ITを使った新産業が生み出されていきます。それが保険×IT、Insurtech(インシュアテック)です。
FintechとInsurtechの関係性
保険×ITは当初、Fintechのなかのひとつとして定義されました。時間が経つにつれて、金融という大枠の言葉よりも、より実情にあったInsurtechが一般化するように変わります。生命保険は金融機関の窓口でも窓販という形態で販売しているため、FintechからInsurtechに推移している段階です。2022年現在、まだInsurtechが耳目を集めている印象が強いため、もう数年は続くのではないでしょうか。
ロボットを使った最適な保険提供や、煩雑な保険申込プロセスに効率化をもたらすサービス、保険営業の業務効率化など、様々なサービスが生まれています。
2022年における〇〇techの投資適性とは?
2022年現在、FintechやInsurtechのなかには株式市場に上場し、自由に株の売買ができる銘柄も増えています。また株式型クラウドファンディングなど、上場前の株を購入する仕組みも整備され、投資家は期待感とともにベットすることは可能です。そのうえで、これらのtechは投資対象として適性なものでしょうか。
FintechやInsurtechの銘柄はスタートアップとして多額の投資を集めていることもあり、世の中を変えるという頼もしいメッセージを発信しています。ただ、長い時間をかけて醸成されてきた世の中の仕組みはなかなか変わりません。華々しくメディアに登場していた企業(銘柄)も、気がつけばサービスを停止していたという話も珍しくはありません。スタートアップの資金源はVCなどからのエクイティファイナンスのため、10社に1社が生き残る、ダメでも形を変え打席に立つべきといった、一般の投資家が聞いたら首を傾げたくなるような話も聞こえてきます(何が正解なのか、不正解なのかといった議論ではなく)。
投資対象を決めるのは各投資家ですが、あらためて保守的な領域と認識されてきただけに、業界が組み立ててきた既存の進め方と距離の近いサービスを評価すべきタイミングなのかもしれません。
Web3.0、メタバースといった最新ワードとFintechが「組んでいる」場合は?
さて、2020年代に入ると更に注目すべき言葉が生まれてきました。Web3.0やメタバースといった、これまでのインターネットサービスを更に根底から覆す領域です。とても勢いがあり、投資家からのリスクマネーも集まっています。注目すべきはこれらの領域において、Fintechと同じように現実のニーズと比較して何倍も膨れ上がった世界観が投資家に届けられていること。かつ、Fintechでアプローチされた金融×ITの延長線上に、またも大々的に宣伝される新しいサービスが生まれていることです。
落ち着いて考えると気づくのは、日本人はこのようにわーっと集まって声の大きい人間に集まり(今だとインフルエンサーというのでしょうか)、飽きっぽく短期間で次のテーマに移るのは国民性なのかもしれません。
これらの領域は玉石混合であることは否めません。ただ、2017年までにFintechの言葉にリスクマネーが集まった結果生まれた上場企業のように、今後の事業拡大のなかで人々の生活に定着するサービスが生まれる可能性はもちろん高いものです。投資家としては現実の価値以上に期待値が膨らんでいる部分はリスクヘッジの危機意識を持ちつつも、できれば前向きに、新しい領域のエネルギーを変えようとする熱量に、ポジティブな評価を続けていきたいものですね。