【FP相談実例】相続組み入れの贈与資産が3年から7年に

相続と贈与はどちらがいいのでしょうか。この質問をされると、そもそも両者は異なる資産承継方法である、と筆者は説明しています。贈与は特定の相続人に渡せる分、相続に比べ控除制度が充実していません。一方の相続は発生した時点で被相続人はこの世にいないため、自分の希望通りに資産承継が進んでいるか不安だといいます(確認しようがないですが)。この両制度が重なる状況のひとつが、相続資産の組み入れです。ある日相談したAさん、第一声は、「贈与したのだから相続関係ないよね!」という早口から始まりました。

顧客属性

〇東京下町居住の70代男性Aさん

〇最近体調悪く生前贈与を活用し、1000万円を複数の子どもに贈与

目次

終活の3年と7年は大きく違う

Aさんが生前贈与に踏み切った原因は体調の悪さです。70代を超えているとはいえ企業で重要なポジションを担っているAさんにとって、現役の時間を調整してまで贈与の準備に時間をかけるのは、その懸念が放置できるものではないという優先順位を示しています。

限られた時間のなかで会社の財務を監修して貰っていた税理士に依頼し、相続税・贈与税に造詣の深い先生を紹介して貰いました。

7年後に自分がどうなっているか予測できるか

所有資産の相続組み入れを回避すべく施策を巡らす方々は、これまで「3年後に自分は元気でいられるか」をまず考えることです。そこで多くの方が、3年後であればどうにか元気かもしれないと結論付け、生前贈与の検討を進めました。現時点での生前贈与の施策において、3年以内に相続が発生した場合は、相続資産に含められる制度、いわゆる相続資産の組み入れです。

さて、数カ月後のAさんの状況に戻ります。一式生前贈与の準備が終わり、日常に戻ったAさん。そこにあるニュースが届きました。令和5年の税制改正として、生前贈与資産の相続組み入れが3年から7年に延長されるというものでした。2024年1月1日以降の贈与から新ルールが適用されます。Aさん、そのニュースを見て早口で「もう贈与したのだから相続関係ないよね!」と言ってきました。一度安心した自分の相続対策が、また不安定になる気持ち。体調に慮るなかでの焦りは、とてもよくわかります。

さて、2024年からの税制改正にAさんは関係あるのでしょうか。もちろん、今回の7年組み入れが既に終了したAさんの生前贈与を対象とすることはありません。ポイントは、今回Aさんは生前贈与を検討していた資産をすべて贈与実行してはいなかった点です。

贈与先となる孫も年少だったため、子どもたちと話し合って何度かに分けて贈与した方がいいという結論に達したためです。税理士の先生も数あるトラブルを見てきたため、請求に全資産を生前贈与することのリスクをアドバイスしました。

結果、税制改正のニュースを受け、Aさんは2023年中に再度贈与策の検討をしなければならず、再び時間をかけて税理士に相談しています。

いずれ相続と贈与は一体化される?

渦中、Aさんと全体像を手掛けた税理士と会食しました。その時に話題になったのは、今回の相続資産7年組み入れで「終わり」なのかということです。日経なんとかなどの雑誌を読むと、当局による相続と贈与を一体化したいという狙いが垣間見られます。Aさんは相続まわりには特段関心が無かったものの、自分ごととなったことで強い興味が湧いてきたようです。相続メディアも広く目を通しているという話が印象的でした。

話を戻すと、いわゆる相続・贈与一体化の大きな理由のひとつは控除制度の少ない贈与に比べて、相続には様々な控除制度が設けられている点といわれています。相続を選べばいいのか、贈与を選べないいのか、一般の方にはよくわかりません。両者をつなぐ相続時精算課税制度(次回の記事で取り上げる予定です)も、どうすればメリットなのか、いまいちよくわからない仕組みです。

もうひとつは毎年110万円まで非課税という「誤った解釈」が随分と浸透していて、国税当局も止むを得ず看過している点です。後者について詳しくお伝えします。

暦年贈与は非課税を見逃されているだけ?

非連続的に贈与資産が発生した場合、その年の100万円の資産があったとします。暦年贈与の仕組みにより、110万円以下のため非課税となります。ただ、これが仮に1000万円の資産があり、100万円ずつ10年で分割している場合、原理原則では暦年と認められません。誤解を恐れずに書けば、税務当局に見逃されているだけといえます。

このように不十分さのあるルールが今後どのように変わっていくかは、専門家各位も注意しながら見守っています。今回のAさんのように、自身の贈与・相続対策を取り組んでいるなかでの制度改正は、今後も注意して見ていかなくてはならないでしょう。

突発的な法改正への予防線を張る

このように相続・贈与分野においては、突発的な法改正への予防線を張ることが大切です。もちろん「突発」とはいえ適用に数年のスパンがあったり、当然ながら遡及的な適用があったりする可能性は低いですが、相続は何年もかけて準備するものです。一度完了した相続対策を改めて精査しなければならないのは、突発的といえるでしょう。

遺言書を一通り完成させたときや、家族・親族間で現時点での相続対策に目途がついたときは、その対策がいつまで使えそうか、制度変更リスクを考えておくべきだとAさんの話から強く実感したエピソードでした。

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この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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