今回は、高い経済成長期待が持たれている国・インドの通貨ルピーの動きと主要株価指数であるSENSEXの動きを取り上げたいと思います。昨年、総選挙を終えてモディ政権は3期目に入りましたが、政権発足後はいずれも上値の重い展開となっています。インド特有の問題点が浮上するなかで、米国でトランプ大統領が誕生し、米国での関税政策の影響などにより、2025年は軟調に推移する可能性がありそうです。
インド経済が減速
以下は、日本経済新聞のHP(2025年2月7日掲載)から抜粋しました。
○2024年度の実質GDP見通しは6.4%に減速
インド政府は2024年度(2024年4月〜2025年3月)の実質成長率が6.4%と、前の年度(8.2%)から大きく減速するとの見通しを示しました。特に直近の国内総生産(GDP)が伸び悩んでいます。2月1日発表の2025年度予算案では個人所得税の免除枠拡大を中心とする家計支援策が目立ち、景気対策を重視する姿勢を見せました。
景況感も振るわないようです。2月6日発表の1月のHSBCインド・サービス業購買担当者景気指数(PMI)は56.5で、2024年12月の59.3より低下しました。これは、2022年11月以来の低水準となりました。
長期的に高成長が見込めるが、構造的な問題を抱える
インドは人口増加などを背景に高い成長基調が見込まれていますが、インドでは政府が捕捉しきれていない「インフォーマル(非公式)部門」が労働力人口に占める割合も高いとされます。一部にはGDPなどの経済統計の正確性を問題視する向きもあるようです。
2014年に発足したモディ政権は製造業振興策「メーク・イン・インディア」を掲げるなど、経済重視の姿勢を示してきました。一方でGDPに占める製造業比率は2割を下回ります。政権が目標としてきた25%を下回る状態が続いています。
インドへの投資には新たな障壁も
以下は、日本経済新聞のHP(2024年12月30日掲載)から抽出しました。
日本企業でインドに進出する企業は多いのですが、日本企業を悩ましているのは、インド標準規格局(BIS)が定めるインド標準規格です。近年、インドの各省庁がこの標準規格の認証を得ていない製品の輸入を認めないという規制の対象を拡大しているようです。日本企業からの部品輸出が認められず、代替製品の調達を余儀なくされることが多いようです。
3期目に入ったモディ首相
以下は、日本経済新聞2024年の6月5日3面、6月6日2面の記事から抜粋しました。
インドでは2024年4月中旬から6月上旬にかけて下院の総選挙が行われました。モディ首相が率いるインド人民党(BJP)は大幅に議席を減らし、単独過半数に届きませんでした。国内での経済格差や若者の失業問題への批判が根強かったことなどが影響しました。
インドでは若年層の失業率の高さが問題となっています。インドの産業構成はサービス分野の比率が高く、雇用を多く生み出す製造業の育成が急務と言えます。
近年は米中対立に伴うサプライチェーン(供給網)の見直しを追い風に、海外からの投資も目立ってきました。外資企業による半導体や電気自動車(EV)の工場建設計画が相次ぎますが、電力や物流などインフラが不十分と指摘されています。
以下は、日本経済新聞2025年2月20日の記事から抜粋しました。
世界貿易機関(WTO)などの2024年報告書によると、インドの全品目ベースの関税の実行税率は平均17%で主要国に比べて突出して高くなっています。新興国の中でもブラジルの11.2%やインドネシアの8%を大きく上回っています。
モディ氏は米国からの石油やガス、武器の調達を増やすことで対米貿易黒字を削減すると約束しましたが、貿易赤字国のインドにとって米国との今後の駆け引きは難しいものになりそうです。
インドの中央銀行が5年ぶりに利下げを実施
インドの中央銀行、インド準備銀行は2月7日の金融政策委員会(NPC)で、政策金利を6.50%から0.25%引き下げて6.25%にすると決めました。利下げは2020年5月以来約5年ぶりとなります。インドでの金融政策は大きな転換点を迎えたと言えます。
昨年12月にダス前総裁からバトンを受け取ったばかりのマルホトラ総裁は、初めての政策決定を緩和と決めましたが、その際に「世界経済は課題が多く、成長は下回っている」と発言しました。金融緩和の動きは通貨ルピーの弱さにつながります。
インドの通貨ルピー(対円)相場の推移
ここでは、インドルピー(対円)相場がどのように動いてきたかを表しました。2020年にコロナ禍による悪影響により安値を付けましたが、その後はインド経済の中長期的な経済成長期待を背景に上昇しました。
昨年から上値が重くなっている背景としては、構造的な問題、景気減速が見られたことや米国でトランプ大統領が誕生したことなどが挙げられそうです。
36カ月移動平均かい離率の水準を見ますと、高水準をつけなくなっており、長期的な上昇ピッチは弱くなる可能性がありそうです。中長期的な経済成長期待は高いものの、2025年は軟調に推移する可能性もありそうです。
インドの主要株価指数(SENSEX)が下落
ここでは、インドの主要株価指数であるSENSEX指数(ボンベイ証券取引所の上場30社で構成する)と36カ月移動平均かい離率の推移を表しました。2020年の新型コロナウイルスの拡大が懸念された場面では一時下落しましたが、その後は上昇傾向が続きました。昨年高値をつけてから上値が重くなっているのは、景気減速や企業業績で弱さが示されたことが背景にあります。
36カ月移動平均かい離率の水準を見ますと、高水準をつけなくなっており、長期的な上昇ピッチは弱くなる可能性がありそうです。
まとめ
今回取り上げましたように、インドでは構造的な問題があること、米国のトランプ大統領による関税政策の影響などにより、2025年のインドの通貨や株式相場は、景気や企業業績の一服とともに上値が重くなる可能性があります。しかし、インドでは人口増加を背景に経済成長が期待できるため、モディ政権の動きなどにより、通貨や株式相場が反転に向かう可能性は秘めていると思われます。
