プライム市場上場銘柄が特別注意銘柄指定を受けたら起きること

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特別注意銘柄指定を受けたニデックのいきさつ

東京証券取引所(以下:東証)は2025年10月28日にニデック(東プ:6594)を「特別注意銘柄」に指定しました。

出典:JPX website

東証はルールに掲げた場合(https://www.jpx.co.jp/equities/listing/measure/index.html)に合致し、当該上場会社の内部管理体制等に改善の必要性が高いと認めるときは、当該上場会社が発行者である上場株券等を特別注意銘柄に指定することができます。

ニデックについて経緯を簡単に振り返ります。

ニデック株式会社は、2025年6月27日に、イタリア子会社における貿易取引上の問題等についての調査のため2025年3月期有価証券報告書の提出期限を2025年9月26日まで延長した旨の開示を、さらに9月3日に、新たに見つかった中国子会社における購買一時金に関する不適切な会計処理の疑義及び同社やグループ会社において各々の経営陣の関与又は認識の下で資産の評価減の時期を恣意的に検討していた疑義の調査のため第三者委員会を設置した旨の開示を行いました。

その後9月26日に、「有価証券報告書等に関する重要なお知らせ」として第三者委員会による調査等は継続中であり、その影響を連結財務諸表等に反映していない状況で同有価証券報告書を提出したこと、並びに内部統制に重要な不備があった旨の開示を、加えて、「意見の表明をしない」旨が記載された監査報告書を添付した同有価証券報告書の提出を行いました。

つまり有価証券報告書の提出期限を約3か月延長したにもかかわらず「意見の表明をしない」旨が記載された監査報告書を添付して提出しており、過年度決算訂正のおそれも含め、適正な決算内容を開示できていない状態が継続していること、調査の追加を繰り返す事態により、投資家に対して決算スケジュールがいつノーマルに回復するかの見通しを示せていないことなどから、財務報告に潜在的影響を及ぼす可能性が高いと考えられているため、ニデックの内部管理体制等について改善の必要性が高いとされて、東証有価証券上場規程第503条第1項第2号bに該当したとみなされました。

出典:東証 有価証券上場規程

特別注意銘柄指定された銘柄はその後どうなる?

特別注意銘柄指定をされた上場企業は、人間でいえば病気とみなされ、医師の観察下に置かれることと似ています。この場合の医師が東証です。

原則として、特別注意銘柄指定から1年経過後の審査までに内部管理体制等を適切に整備・運用することが求められます。下の図が、工程です。

出典: JPX website

今後の経過次第では、将来の上場廃止もあり得ます。

この程度は、調べればすぐわかることですから、指定日以降ニデック株は売られ、株価は大きく下げています。

出典:日経スマートチャートプラス

特別注意銘柄が株式指数に採用されていた場合

ニデックは、特別注意銘柄指定される前日の時価総額が3兆円を超えていた大型株です。TOPIXニューインデックスシリーズではCore30の次に規模が大きい銘柄が採用されるLarge70にカテゴライズされています。TOPIXに占めるウエイトも約1680銘柄中上位70位にランキングされます。

日経平均株価採用銘柄でもあります。

TOPIXや日経平均株価はその連動資金が多い株式指数です。

これらの株式指数のルールブックには、特別注意指定を受けた銘柄の扱いが掲載されています。

日経平均株価は指定日から5営業日後に採用銘柄から除外されます。

出典:日経平均株価算出要領

日経平均株価においては「臨時入れ替え」の対象事由とされ、日経が定めている同一セクター銘柄から補充されます。ニデックは「技術」セクターです。イビデン(4062)が採用されることが指定日に発表されました。

TOPIXは指定日から4営業日後に除外されます。

出典:東証指数算出要領(TOPIX編)

つまり、TOPIXは11/4から、日経平均株価は11/5から除外されます。

それぞれの株価指数の連動資金はそれぞれの除外日の前営業日の引けで除外に伴う取引をします。除外日の市場が開くタイミングで除外された状態からスタートするためです。

TOPIXと日経平均株価の両指数に採用されていたニデックは、それぞれの連動資金が売却する対象になりました。時価総額加重平均で機関投資家の連動資金が多いTOPIXは売却される株式数が1億株以上とも推定され、11/4の前営業日の引けだけで5,000万株以上売買されました。

株価指数連動運用の豆知識

株価指数に連動する運用をするときにいくつか方法があります。完全法、サンプリング法といった名前で呼ばれます。

完全法とは株価指数構成銘柄を同一比率・同一数量で保有することです。サンプリング法は完全法の対義語で、株価指数構成銘柄の一部を保有することで株価指数の動きに近似させる方法です。

一般的には、完全法は銘柄数が構成銘柄少ない場合に使われ、サンプリング法は構成銘柄が多い場合に使われます。TOPIXはおよそ1680銘柄で構成されますが、すべての銘柄をTOPIXのウエイト通りに保有するためには、多額の資金が必要ですし、それに伴い取引コストが高くなります。コストは株式指数そのものの動きと乖離を生じさせますので、可能な限り少なくしたいと運用者は考えます。そこで用いられるのがサンプリング法です。サンプリング法にもいくつか種類がありますが、どの方法が最適かは株価指数の性格にもよります。TOPIXの場合、構成銘柄を東証33業種と時価総額に区分し、各業種の時価総額上位を株価指数そのものの業種ウエイトに合わせて数銘柄ずつ保有することで、TOPIXそのものの動きに近似させる「層化抽出」という方法をとると聞いたことがあります。

それに対して完全法はその名の通り、株式指数の銘柄数、構成比通りに保有して運用する方法です。日経平均株価連動資金は完全法で運用していることが多いようです。

ニデックに関して言えば、その時価総額規模からいえばTOPIX連動資金でも日経平均株価連動資金でも保有されているでしょう。だからこそ、日経平均株価からの除外だけでなく、TOPIXからの除外日に出来高が多くなったわけです。

過去の特別注意銘柄指定の経緯

現在の「特別注意銘柄」はかつて「特設注意銘柄」と言われていました。2024年にルールを少し変えて「特別注意銘柄」という区分になりました。

かつて、特設注意指定された銘柄の中から、大型株について事例を紹介します。

1.オリンパス

オリンパスは1990年代のバブル崩壊後、金融資産運用の失敗で多額の損失を抱え、この損失を外部ファンドに移す「飛ばし」で隠蔽したのです。2000年代に入り、英国企業買収で損失を処理しようとしましたが、不正が蓄積されました。2011年7月、月刊誌『FACTA』の報道で買収の不透明な支出が指摘され、同年10月、就任直後の英国人社長マイケル・ウッドフォード氏がこれを調査・告発。社内調査で不正が明らかになり、株価は一時半値以下に急落。ウッドフォード氏は解任され、国際的スキャンダルとなりました。

その後、2011年11月に有価証券報告書の虚偽記載が判明し、上半期中間決算の提出が法定期限を過ぎる見通しになったことから、東証はオリンパス株を「監理銘柄(確認中)」に指定。提出が12月14日まで遅れれば上場廃止の危機に陥りました。

オリンパスは第三者委員会を設置し、調査報告書で損失隠しを正式に認め、12月14日に中間決算を提出。監査法人が適正意見を付与したため、即時廃止は免れましたが、内部統制の不備が深刻視されました。

東証は2012年1月22日、上場維持を決定しつつ、企業統治・内部管理体制の問題を理由に「特設注意市場銘柄」に指定しました。指定の根拠は、長期にわたる損失隠しが「上場適格性を損なう重大な不備」と判断されたためです。投資家への周知を目的とし、指定中は通常取引可能ですが、機関投資家の一部が投資を控える影響が出ました。 

約1年半後の2013年6月11日、東証は特設注意市場銘柄の指定を解除しました。オリンパスが同年1月に提出した「内部管理体制確認書」を審査し、「問題なし」と判断。グループ全社での内部統制システムの構築、信頼回復策が評価されました。 

筆者はこの経緯をよく覚えています。

当時、日本株のアナリストとして仕事をしており、特設注意銘柄指定後に日経平均株価から除外されるのでは?と思い、臨時入替対象を同僚と検討しました。レポートを出す準備までしていましたが、なぜかボスの意向で出さないことに。結局、除外されなかったので出さなくてよかったんだろうなぁと思います。 

2.東芝

2015年4月、証券取引等監視委員会の立ち入り検査で粉飾決算が発覚しました。東芝は第三者委員会を設置し、7月に報告書で粉飾を公式に認めています。

粉飾は2008年のリーマンショックを契機に始まりました。「チャレンジ」文化とよばれる上司が部下に利益目標を絶対的に強制され、達成できない事業部は粉飾に手を染めざるを得なくなったのです。

主な手口は三つです。原子力やインフラ事業で「工事進行基準」を悪用し、売上と利益を前倒し計上したこと。次に、子会社間で架空の部品取引を繰り返す循環取引がおこなわれていたこと。そして、PCや半導体の在庫を過大評価する操作です。これらにより、2008年から2014年にかけて約1,518億円の利益が水増しされました。 

2015年12月には東京証券取引所から「特設注意市場銘柄」に指定されました。

2016年3月、7年分の過年度決算を訂正しています。しかし、東芝を担当していた新日本有限責任監査法人は意見不表明を付しました。

同年12月には米子会社ウェスティングハウスの巨額減損(7,125億円)が発覚したことで、2017年2月には債務超過(5,400億円)に陥り、株価が急落しました。

2017年3月に内部統制の改善が認められ特設注意銘柄を解除されました。12月には第三者割当増資で6,000億円を調達し債務超過を解消しています。東芝メモリ(現キオクシア)の売却で2兆円を確保し、2018年6月の東証2部降格を経て、2019年11月に1部復帰を果たしました。東証2部に降格したことで、TOPIXや日経平均株価から除外されています。

司法的には、2019年に田中元社長ら3名が禁錮2年・執行猶予4年の有罪判決を受けています。2023年10月、経営陣によるTOBが成立し、12月20日に上場廃止されました。

ニデックの今後

株価指数連動資金はルールに基づいて売却を終えたことでしょう。

しかし、ニデックはアクティブ運用資金でも買われています。

そのような保有は、それぞれの運用方針に基づいてニデックの扱いを決めるでしょうが、積極的に保有しようという動機には欠ける状況だと思います。

ニデックを買収する企業があるか?と尋ねられると、何とも言えません。

時価総額2兆円の企業を買収するのは資金がかなり必要です。

今後についてはかつてオリンパスや東芝が歩んだように、まずは内部管理体制が確立されることを望みたいです。

個人的な視点

ニデックは現代表取締役会長の永守重信氏が1973年に創立した企業です。

永守氏は優秀な技術を持つが経営不振に陥った企業を次々買収し、子会社化して再建させることで知られており、「買収王」との異名を持ちました。2010年前後には買収案件をしばしば耳にしたものです。

2020年に1度CEOを別の人物に委ねましたが、2022年に復帰しています。2024年2月にCEOを退任して現在の地位に就任しました。

永守氏は現在81歳です。

筆者の著書のコラム「こういう銘柄には投資しない!」で「後継者リスクがある」という要件を上げています。残念ですが筆者は前述した経緯も踏まえてニデックがその一つだと考えていて、日本株に携わって長いものの、一度も取引したことがない銘柄です。

仮に保有していたとしても、少なくとも2025年6月に有価証券報告書の提出遅れが発生した時点で手放したと思います。火事の火種になりそうだと考えるからです。

個別銘柄投資をしていれば、同様の状況に遭遇する可能性が常にあります。傷を小さくするために、保有銘柄の適時開示はこまめに確認したいものです。

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この記事を書いた人

大学講師兼投資ライター
システムエンジニア->証券アナリスト->地方公務員->セミリタイアな中小企業の嘱託研究員->大学講師

CFP、FP1級、日本証券アナリスト協会認定証券アナリスト保有。
TOEIC950。MBA取得済。投資歴31年余り。

システムエンジニア時代に投信売買システム、生命保険契約管理システムに携わり、それらのしくみにも精通。
趣味はサッカー観戦(川崎Fサポ)、旅、読書、野菜栽培、フラワーアレンジメント。
がんサバイバーでもある。

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