銀行の稟議書の項目と銀行員が助かる情報について徹底解説!

融資に臨む際、銀行員がどのような稟議書を書いているか気になる方は多いのではないでしょうか?

しかし、銀行の稟議書に関する情報は世の中にあまり出回っていません。

そこでこの記事では、元メガバンク行員の私が銀行の稟議書の項目について徹底的に解説をします。

稟議書のポイントを押さえ、融資に臨みましょう。

目次

そもそも稟議書とは

まずはそもそも稟議書とは何かについて解説をします。

  • 稟議書の基本的な定義と目的
  • 銀行内部での稟議の流れ
  • 融資担当者が作成する稟議書の位置づけ

稟議書の役割についてぜひ理解してください。

稟議書の基本的な定義と目的

銀行の融資稟議書は、金融機関が融資の可否を決定するための重要な文書です。

稟議書には、融資申込者の信用状況、事業内容、財務状態、担保価値、返済能力などを記載して、融資の妥当性を評価します。

融資稟議書の主な目的は、貸付の適切な評価と管理、融資判断の根拠の明確化、そして銀行の審査基準に合っているかを確認することです。

また、金融庁への説明責任を果たすための書類としても機能します。

融資担当者が作成した稟議書は、通常、課長や支店長、本部などの複数の承認を通過し、最終的な融資決定に至ります。

銀行内部での稟議の流れ

銀行内部での融資稟議の一般的な流れは以下の通りです。

  1. まずは営業担当者による案件獲得から始まります。顧客の融資ニーズを把握し、決算書や確定申告書などの必要書類を入手します。
  2. 融資担当者が稟議書を作成します。顧客の財務状況、事業計画、担保評価、返済能力などを分析し、融資条件を出します。
  3. 支店内での一次審査が行われます。支店長や審査担当者が内容を確認し、必要に応じて追加情報を顧客に求めます。
  4. 規模や重要度に応じて、地域本部や本部での審査に進みます。融資金額に応じた決裁権限レベルに沿って審査されます。
  5. 審査部での詳細な与信判断が行われ、リスク評価やコンプライアンス面からも検証されます。
  6. 決裁後、営業担当者や支店長は顧客に結果を伝え、承認の場合は契約手続きへと進みます。

このプロセスは銀行によって異なりますが、複数の目で審査することでリスク管理の徹底を図るのはどの銀行でも同じでしょう。

融資担当者が作成する稟議書の位置づけ

融資担当者が作成する稟議書は、銀行の融資判断において極めて重要です。

なぜなら、融資案件の事実関係が正確に記載されている与信判断の根拠を示すものだからです。

融資担当者の見解が組織の意思決定に反映される重要な接点となり、実際の融資に結びつける役割を果たします。

稟議書の基本構成

稟議書の基本構成について解説をします。

  • 取引先基本情報(企業概要・沿革)
  • 業績分析(財務諸表の要点・トレンド)
  • 資金使途と返済計画
  • 担保・保証の状況
  • 融資実行の判断理由と条件

銀行員が作成する稟議書のポイントについて理解をして融資に臨むようにしましょう。

取引先基本情報(企業概要・沿革)

融資稟議書における取引先基本情報(企業概要・沿革)は、対象企業の全体像を把握するための重要な情報です。

企業名、所在地、設立年月日、資本金、代表者、従業員数などの基本データに加え、主要株主構成や役員情報を記載します。

業績分析(財務諸表の要点・トレンド)

融資稟議書における業績分析(財務諸表の要点・トレンド)は、借入企業の財務健全性と返済能力を評価する重要な部分です。

通常、過去3〜5年間の損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の主要数値を抽出し、時系列で比較分析します。

売上高の成長性、利益率の推移、総資産利益率などの収益性指標、自己資本比率や負債比率などの安全性指標、そして流動比率や当座比率といった流動性指標の動向を重点的に分析するのが一般的です。

資金使途と返済計画

融資稟議書における「資金使途と返済計画」は、融資判断の重要な部分です。

資金使途では、融資金の具体的な利用目的を明確に記載し、例えば設備投資であれば導入設備の必要性、運転資金であれば資金繰りの改善点や季節資金の必要性など、具体的かつ合理的な説明が求められます。

返済計画では、返済原資の具体的な内容と確実性を分析し、月次または年次の返済スケジュール、返済財源(営業キャッシュフロー、資産売却予定など)、そして返済負担率(年間返済額÷年間キャッシュフロー)の妥当性を評価します。

担保・保証の状況

融資稟議書における「担保・保証の状況」は、融資リスクを抑えるものです。

担保に関しては、提供される担保資産の種類(不動産、有価証券、売掛金、棚卸資産など)、評価額、担保掛目(担保評価額に対する融資可能額の比率)を明記し、不動産担保の場合は、所在地、面積、用途、市場価値、担保順位、担保権の種類(抵当権等)も記載します。

また、担保評価の根拠(不動産鑑定評価書など)や担保価値の将来変動リスクについての分析も行うのが一般的です。

保証については、保証人の属性(法人か個人か、経営者本人か第三者か)、保証形態(連帯保証か普通保証か)、保証割合を記載します。

個人保証の場合は保証人の資産状況や返済能力、法人保証の場合は保証会社の財務状況と信用力を分析して、信用保証協会などの公的保証制度の利用についても記載し、融資の安全性を徹底的に検証するのです。

融資実行の判断理由と条件

融資稟議書における「融資実行の判断理由と条件」は、審査結果を総括し、融資の可否を説明する結論部分です。

判断理由では、融資を推進または慎重に検討すべき主な要素を明確に列挙します。

プラス要因としては、取引先の安定した業績推移、堅実な経営姿勢、優れた技術力や市場シェア、十分な担保・保証などが挙げられるでしょう。

一方、ネガティブ要因としては、業績不振、過大な借入残高、市場環境の悪化などの懸念点などがあげられます。

融資条件では、融資額、金利、返済期間、返済方法といった基本条件に加え、財務制限条項や追加担保提供条件などの特記事項を明記し、リスクに見合った適切な条件設定であることを確認します。

稟議書の審査のポイント

稟議書の審査のポイントについてまとめました。

  • 「3行まとめ」の重要性:要点を簡潔に伝える技術
  • 定量分析だけでなく定性情報も重視
  • リスク要因の明示と対応策の記載
  • 将来性・成長性の根拠の具体化
  • 担当者としての明確な推薦理由

わかりやすく解説をしますので参考にしてください。

「3行まとめ」の重要性:要点を簡潔に伝える技術

「3行まとめ」は融資稟議書の審査で極めて重要です。上位決裁者は多忙な中で数多くの稟議書に目を通すため、案件の本質を即座に把握できる簡潔な要約が不可欠となるからです。

この3行には、融資先企業の特性・強み、融資目的の妥当性、そして融資判断の決め手となるポイントを凝縮します。

定量分析だけでなく定性情報も重視

融資稟議書における「定量分析だけでなく定性情報も重視」する姿勢は、融資判断の精度を高める重要なポイントになります。

財務諸表に基づく定量分析は融資判断の基本となりますが、数字だけでは捉えきれない企業の実態や将来性を理解するためには、定性情報の分析が不可欠です。

なぜなら経営者の資質や経営理念、業界内での評判や競争力、従業員のモチベーションや技術力、事業の成長性や持続可能性といった要素は、融資の安全性と将来の返済能力を左右する重要な判断材料だからです。

優秀な融資担当者は、現場訪問や経営者との対話を通じて得た定性情報を、客観的かつ論理的に稟議書に反映させます。

「経営者の熱意がある」といった抽象的な表現ではなく、具体的なエピソードや事実に基づいた記述によって、定性情報の信頼性と説得力を高めることが重要です。

リスク要因の明示と対応策の記載

融資稟議書における「リスク要因の明示と対応策の記載」は、健全な融資判断の重要部分です。

優れた稟議書は、業界リスク、事業リスク、財務リスク、経営リスクなどを具体的かつ客観的に明示しています。

リスク要因の明示は融資拒否の理由ではなく、より適切な融資条件設定のための基本です。

将来性・成長性の根拠の具体化

融資稟議書における「将来性・成長性の根拠の具体化」は、融資判断の質を高める重要な要素です。

企業の将来性を評価する際には、漠然とした期待や希望的観測ではなく、具体的な事実や数値に基づいた分析が求められます。

具体的には、市場動向のデータ、新規受注情報、設備投資効果の試算、技術開発の進捗状況など、客観的に検証可能な材料を示すことが重要です。

担当者としての明確な推薦理由

融資稟議書における「担当者としての明確な推薦理由」は、融資判断における重要な要素です。

融資担当者は現場で企業と接する最前線として、財務諸表だけでは見えない情報を持っています。

推薦理由では、数値分析の結果だけでなく、経営者との面談で感じた誠実さや経営への情熱、工場見学で確認した技術力や品質管理の高さなど、担当者だからこそ把握できる定性的要素を具体的に記述します。

ただし、個人的な感情や曖昧な印象ではなく、具体的な事実や観察に基づいた見解を示すことが重要です。

銀行員が「助かる情報」① 業界動向と市場分析

融資稟議書作成において業界分析は融資判断の不可欠な要素です。

業界全体の現状把握では、市場規模推移や主要プレイヤーのシェア変動を分析することによって、融資を検討している企業の業績を判断しやすくなります。

また、競合他社との比較分析では財務指標(売上高成長率、営業利益率、ROE等)や非財務指標(市場シェア、顧客満足度等)を対比し、融資先の強み・弱みを明確化し、市場シェアの推移と見通しは競争力評価の客観的指標となるため非常に重要な情報です。

銀行員が「助かる情報」② 事業計画の具体性と実現可能性

融資稟議書作成において、事業計画の実現可能性と収益予測は融資判断の大きな助けとなります。

「数値計画の根拠と合理性」では、売上予測や利益計画が単なる希望的観測ではなく、受注見込みや稼働率など実現可能な前提条件に基づいているかを精査します。

現実的な市場分析と具体的な行動計画が伴っていれば説得力は大幅に向上するため、このような情報は銀行、特に担当者にとって非常にありがたいです。

「過去の計画達成率と乖離要因」の分析も極めて重要です。

過去の計画と実績の差異が外部環境の変化によるものか内部要因によるものかを判断し、企業の分析力と現実認識の適切さを評価します。

計画未達時の対応策は経営管理能力を判断しやすい材料です。

新規事業や投資案件では「詳細な収益モデル」が求められます。顧客数・単価・頻度などの積み上げ計算、固定費・変動費の区分、投資回収期間やIRRといった投資効果指標の合理性が重要です。

また「リスクシナリオと対応策」として、売上減少や原価上昇などの悪条件下での資金繰りへの影響と具体的対応策を評価することで、融資の安全性と返済可能性をより的確に判断できます。

銀行員が「助かる情報」③ 他金融機関との取引状況

融資稟議書において他金融機関との取引状況分析は融資判断の重要なポイントです。

「メインバンクの状況と取引シェア」ではメインバンクが積極支援している企業は信頼性が高いと判断できる一方、シェア縮小は警告となります。

「他行からの融資状況と条件」の分析も不可欠です。

なぜなら他行の借入金額、金利水準、担保・保証状況は市場での適正条件を判断する基準となり、最近の融資実行や条件変更動向は融資を検討している企業への信頼度の変化を示すからです。

「借入金の返済状況と履歴」は企業の信頼性を示す客観指標になります。

返済遅延や条件変更履歴、景気後退期の対応などは危機対応能力を表し、返済原資の内訳分析も重要です。

また「金融機関全体からの支援状況」として総借入金推移、金融機関数の変化、プロパー・保証付き融資比率などを分析することで、より適切なリスク判断が可能になります。

​​​​​​​​​​​​​​​​稟議書作成時の銀行員の心理と「やってはいけない行動」

融資稟議書作成において、銀行員は客観性と誠実さを保持することが最も重要です。

「過度な美化」は短期的には案件通過の可能性を高めるかもしれませんが、長期的には不良債権発生や内部規律違反につながり、自身のキャリアを危険にさらします。

正確なデータに基づく判断こそが、持続可能な融資業務の基本です。

同様に「過去の不祥事や失敗の隠蔽」も絶対に避けるべき行動です。

問題を隠すことで一時的な批判は避けられても、発覚した際は深刻なものとなります。

「担当者への過度なプレッシャー」も避けるべき行動です。

担当者に過度なプレッシャーを与えることによって、無理な案件でも通しがちになってしまい、結果的に銀行に大きな損失を与えることになってしまうからです

そして「無理な融資条件の主張」は顧客と銀行双方の利益を損ないます。

無理な返済計画や担保条件は結局、不良債権化のリスクを高めます。実現可能で双方にとって持続可能な条件設定こそが、長期的な取引関係構築の鍵です。

裏話:銀行の融資審査は9月と3月は通りやすい

銀行の融資審査は9月と3月に通りやすいとされる傾向があります。

なぜなら9月や3月は決算期にあたり、銀行は融資実行目標達成のため、審査がやや柔軟になる傾向があるからです。

もちろん、この「通りやすさ」は絶対ではありません。

企業の財務状況や事業計画の健全性、返済能力があくまで重要な審査基準です。

銀行との信頼関係構築に向けて

今回は融資を通すために重要な書類である稟議書について詳しく解説をしました。

銀行の稟議書についての情報はあまり世間では出回っていないので、参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

元都市銀行に11年勤。
現在は金融・美容ライター。
収入は安定しているものの、将来的な資金面に不安を感じ不動産投資を検討中。

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