前回のおさらい
さて、前回の記事から、より具体的にコイン投資のイメージを持っていただくための企画として、性格・タイプ別にどのような投資スタイルが考えられるのかというテーマで書かせていただいております。
筆者が挙げたのは、下記3タイプ。
◎しっかり安定タイプ(中期〜長期目線/資産保全性重視)
◎高回転せどらータイプ(短期~中期目線/回転率重視)
◎トレジャー発掘家タイプ(短期~長期目線/投機性重視)
前回は、コイン投資の王道スタイルとも言うべき《しっかり安定タイプ》の説明をさせていただきましたので、今回は残りの2タイプについて、掘り下げていこうと思います。
ちなみに、こういったスタイルに特に決まった言い方はありません。
あくまで、今回の説明でイメージしてもらいやすくするために、筆者が勝手に付けたネーミングです。間違っても店舗で「私、せどらータイプ」「オイラ、発掘家タイプ」などと恥ずかしい発言はしないようにお願いいたします。多分、スゴイ顔で見られますので。言っちゃダメ、ゼッタイ。
また、前回でも最初に述べましたが、特に今回のテーマでは、業者やインフルエンサーの方々がこうすべきと説明している内容と大きく見解が異なることを述べる可能性がございます。あくまで筆者の一意見ということをご理解の上、お読みいただけますと幸いです。
それでは、前置きが長くなりましたが、説明に入ります。
自分はどんなやり方が合うだろうかと、想像しながら読み進めていただけると、嬉しく思います。
高回転せどらータイプ(短期~中期目線/回転率重視)
こちらは、《しっかり安定タイプ》 に比べて短い期間(短期~中期目線)で売買を繰り返して、利益を積み上げていきたい人を想定しています。
この場合のコインの選定ポイントについてですが、前回説明した『希少性』『ストーリー性』『伸び代』を踏まえつつも、もっと重視すべきポイントがあります。
それは『現在の相場との価格差』です。
ここで少し余談に移ります。
近年の副業への関心度が高まる中で、注目を集めてきた言葉に「せどり」という言葉があります。
「せどり」とは、購入した商品を仕入れ額より高く売ることで利益を上げるビジネスを指します。「転売」と言った方が、イメージが湧く方が多いかもしれません。
「転売」というと、一部の行儀の悪い方々のおかげで、嫌なイメージを浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、商売としては至極シンプルな発想で、至極当たり前のことをやっています。
例えば、多くの顧客が集まるマーケットAでは、1万円で売られている商品があるとします。
しかし、実は近所の店舗Bでは、全く同じ商品が8千円で売られていたとします。
この時、店舗Bでその商品を仕入れてマーケットAで販売すれば、単純計算で粗利の2千円が手に入ります。
せどりを行なっているプレイヤー達は、これをひたすら繰り返して利益を積み上げるのです。
つまり、コイン投資における 《高回転せどらータイプ》 とは、このせどりプレイヤー達のやり方に倣い、『現在の相場との価格差』があるコインを見つけて購入・売却を繰り返していく、という考え方になります。
もう少し、突っ込んで説明していきます。
「せどらー」が成功するための、成否を大きく分ける条件とは何でしょうか?
答えは「情報」です。
もっと具体的に言うならば『相場価格』『仕入先』『販売先』『タイミング』などの情報です。
例えば、せどらーはインターネットでの仕入れはもちろん、ホームセンター、ドラックストア、家電量販店など様々なところから商品を仕入れます。また、販売先もAmazon・楽天・Yahooショッピング・メルカリ・ヤフオク等々、様々なチャンネルを、顧客層の違いや時期(キャンペーン)などを考慮しながら使い分けていきます。
自分の得意ジャンルの商品を見つけ、常日頃から相場をチェック、
自分の足を使って見つけたルートから商品を仕入れ、
そして、よく売れるキャンペーンにぶつけて販売していく。
やり手の「せどらー」は、この流れをどんどん洗練させていくのです。
コインはそこまで緻密な戦略は必要ないと思っていますが、
それでも参考にできる部分は多いように感じます。
特に、個人的な経験からも、
相場の状況を日頃から追いかけることや、
足を使う(実店舗や展示会に行く)ことは、
勝率を高めるのに大いに役立つと考えています。
こういった経験(検証)の積み重ねが、
自分なりの定石(勝ちパターン)をつくっていくのです。
高回転せどらータイプ・注意点1
注意すべきポイントも確認していきましょう。
一つ目は、「安い」というだけで飛びつかない、ということです。
当たり前の話ですが、「安い」には理由がある場合がほとんどです。
例えば、メルカリやヤフオクなどを見ていると、相場から極端にかけ離れた安い価格で販売しているものを時々見かけます。この場合、経験上、ほとんどは偽物です。判断に迷った場合はそもそも買わない方が無難でしょう。
また、どうしても気になる場合は、先日の<デメリットと注意点>の記事で述べたように、偽物でないかの情報の突き合わせを必ずすること、また、その出品者がどのような人なのかを見極めるために、口コミ評価や、他の出品物に不審な点がないかも一通り確認してみてください。
個人的なオススメは、やはり日本貨幣商共同組合(https://www.jnda.or.jp/)の加盟業者による展示会などに直接足を運んでみるのが良いのではないかと思います。
まず、偽物掴み・高値掴みのリスクが減らせます。また、実際に店頭で購入すれば、オークションのような手数料も不要で購入できます。この点は、特に差益を狙う「せどらータイプ」の方にとっては、非常に分かりやすいメリットです。
高回転せどらータイプ・注意点2
二つ目の注意点は、「相場価格」の調べ方についてです。
細かなやり方については、別の機会を設けようと思いますが、ここでしっかり覚えていただきたいのは「適当にググって出てきた価格をむやみに相場価格と信じてはいけない」ということです。
特にメルカリのようなフリマサイトでは、「あわよくば」精神で、極端に高い価格で出品している人が多く存在します。その価格を「相場価格」と信じてしまうと、結局、高値掴みに繋がってしまいます。
また、同様の理由で、新興業者が手数料?をがっつり上乗せして、ネットショップで販売しているケースも時折見かけますので、注意してください。
また、ヤフオクやeBayならオークション価格なので信じられるのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、オークションでの落札価格であれば、それなりに参考値としては使えます。
しかし、ヤフオクやeBayも、通常のオークション形式とは別に、出品者が独自に価格を決められる方式があります。相場価格の参考に見る場合は、その価格がどういった出品形式で出されたものなのか、そして現在進行形なのか落札結果なのか、しっかりと確認するようにしましょう。
ちなみに、筆者が最も参考にするのは、やはり有名どころのオークションの落札結果です。ヘリテージオークション、そして日本コインオークションとオークションワールドの結果をメインの指標としています。
トレジャー発掘家タイプ(短期~長期目線/投機性重視)
さて、最後のスタイル 《トレジャー発掘家タイプ》 です。
こちらは、これまで述べてきた 《しっかり安定タイプ》 《高回転せどらータイプ》 よりももっと大きな利益を出していきたい、という人を想定しています。
実は、選定ポイントや注意点などは、これまで述べてきた内容と、基本的には同じです。
ですので、 《しっかり安定タイプ》の考え方を踏襲すれば中期~長期目線、 《高回転せどらータイプ》 の考え方を踏襲すれば短期~中期目線での勝負となります。
また、あくまで筆者の感覚値ですが、狙い通り上手くいった際は、比較的短い期間で売却したとしても、仕入れ価格から1.5倍程度、場合によっては2倍近くの期待値がある手法です。さらに、時々思いがけず、仕入れ価格の5倍や10倍といった利益を叩き出してしまう可能性もあります。まさに「お宝探し」です。
「おぉー!!それならこのタイプが一番良いじゃないか!!」
という声が聞こえてきそうです。(笑)
しかし、少々お待ちください。
当然、これには大きなリスクがあります。
その理由は、この 《トレジャー発掘家タイプ》 とこれまで紹介してきたタイプとの違いを説明すれば、ピンと来るはずです。
何が違うのか。
それは『裸コイン』を中心に購入する、ということです。
そして、そのコインを鑑定に出し、スラブ入りの状態にして売却するのです。
トレジャー発掘家タイプ・注意点1
購入する際の注意点としては、これまで述べてきた内容とすべて共通しているわけですが、
それに加えて、やはり「審美眼」が問われてきます。
裸コインの場合は、偽物かどうかの違いはもちろんのこと、表面の細かな傷や、ミガキの有無などによって、価値が大きくブレてしまいます。いざ鑑定に出した際に“Detail”評価が付いてしまうかどうかの判別は、それなりの経験を積んだディーラーでもなかなか難しいと言われています。
「これは1.5倍になって返ってくるぞ」とニヤニヤしながら鑑定に出したら、
Detail評価で価値が半減して泣きべそ、といったことも普通にあり得ます。
手っ取り早く「審美眼」を鍛える方法は…残念ながらありません。
こればかりは、実際に現物を多く見ながら、時には痛い目に遭いながら、少しずつ経験を積んでいくしかないでしょう。
トレジャー発掘家タイプ・注意点2
あと、これは参入のしやすさに繋がるので実はメリットでもあるのですが、
金額の低いもの(数千円~数十万円)が主戦場になる、
ということは特徴として覚えておくべきでしょう。
※本当に希少性の高いものだと、裸コインでも数百万~数千万円の価格が付いているコインも多く存在します。しかし、諸々のリスクを考えるなら、やはり初心者がいきなりそういったコインに手を出すのは、危険だと筆者は考えます。
トレジャー発掘家タイプ・注意点3
鑑定に必要な期間についても、話題として触れておくべきでしょう。
鑑定に出すとなると、NGC社かPCGS社(いずれも米国)に一度コインを預ける必要が出てきます。最近はコイン人気の高まりもあって、鑑定依頼が殺到していると予想されます。
筆者が数年前にNGC社に鑑定に出した際は、2か月ほどで手元に返ってきたのですが、2022年の4月に出したものは、結局、手元に返ってくるまでに半年以上かかりました。
鑑定会社のスタッフが増えれば今後解決していくのかもしれませんが、鑑定士のスキルは簡単に替えが利くものではないことを考えると、おそらく当面は、この状態が続くものと想定しておいた方が良いでしょう。
トレジャー発掘・成功事例
さて、いかがでしょうか。
やはり難しそうだと、げんなりしてしまった方もいらっしゃるかもしれませんね。
ここで、少しワクワクを取り戻していただくために、《トレジャー発掘家タイプ》として成功(というか幸運)だったな、という事例をひとつご紹介しようと思います。
銘柄は、 ドイツ・ミュンスター 1661年 ターラー銀貨。
神聖ローマ帝国時代の都市景観コインで、この時代のターラー銀貨の中では大型で迫力があるためか、人気が高まってきているコインになります。(通常のスラブケースでは入らないサイズのため、大型スラブに入っています。)
さて、このコインは、約1年半ほど前(2021年の初旬)に展示会でひと目ぼれをし、裸コインを12万円で購入しました。
この時、筆者の素人見立てでは「グレードはAU55あたり?希望的観測であわよくばMS61あたりまで行ってほしいけどどうかな~」という感覚でした。(グレードについては、また別に解説の機会をつくるとして、とりあえず数字が大きいほどグレードが高いと捉えていただければOKです。)
AU55のグレードだと、当時の相場価格が18万円前後の感覚を持っていましたので、もし、ちゃんと鑑定で想定通りのグレードが付いてくれれば、鑑定料と手数料を差し引いても、とりあえず4~5万の利益は確保できるかな…というのが、筆者のざっくりとした算段でした。
※その後、実際に、2022年7月の国内オークションで、AU55グレードが187,000円(手数料込み)で落札されていましたので、相場感覚としては間違っていなかったのかなと思います。
そして、いざ鑑定に出して結果はどうだったのか。
返ってきたコインを見ると、なんと予想を上回り、MS62という好結果でした。
筆者の見立ての「精度の低さ」という点では恥ずかしい限りですが、
この時代のターラー銀貨でMSとAUのグレード差はその意味合いが大きく異なります。
NGC社のサイトを確認すると、この銘柄のコインでMS62は、In Higher Grades 3(つまりNGCで鑑定された同一銘柄の中で上から4番目)で、ざっくりの現在の相場価格は50~60万円。(2022年12月現在)
ですので、このコインに関して言えば、2022年12月の段階で、仕入れ価格からの比較では4~5倍、40万円程度の利益まではすでに見込めている状態、となります。
ここまで上手くいくケースはそこまで多くはないですが、《トレジャー発掘家タイプ》の成功事例としては、なかなかインパクトのある結果ではないでしょうか。
組み合わせて考える
さて、ここまでで3つのタイプについて説明させていただきました。
今回のような説明の仕方をすると、「必ずどれか一つを選ばないといけない」と考えてしまう方が時々いらっしゃいますが、決してそういうわけではありません。
あくまで、自分はどのような意図を持っているのか、
そして、その保有コインがそれにフィットしているのか、
それを考えることが重要です。
筆者自身、ここまで述べた3つのタイプの考え方を、その時々で組み合わせています。
実は、筆者は裸コインの保有割合が多い方だと思います。
理由は、コレクターという側面を持っていて純粋に好きなため、そしてやはり、《トレジャー発掘家タイプ》としての利益を狙っているからです。
※余談ですが、実は古くからのコレクターは、コインの質感を感じやすい、という理由で裸コインを好む人が多いです。また、痛い目にもたくさん遭いますが、審美眼を鍛えるためには、やはり多くの裸コインを見るのが一番の近道となります。
一方で、以前「コインのメリット」の記事でご紹介したコインは、あと数年は保有しようという《しっかり安定タイプ》の方に位置づけていますし、 《高回転せどらータイプ》 的な考えでコインを購入したこともあります。
上記でご紹介した、ミュンスターの都市景観についても、今の時点から売却までの流れは、《しっかり安定タイプ》的な考え方か 《高回転せどらータイプ》的な考え方かで、採用するやり方が変わってきます。
投資の世界では、絶対的な正解というものはありません。
あくまで、ご自身が何を重視したいのか、
それを中心に組み立てていきましょう。
まとめ
高回転せどらータイプは、『現在の相場との価格差』があるコインを見つけて購入・売却を繰り返していく、という考え方。
「相場の状況を日頃から追いかけること」や、「足を使う(実店舗や展示会に行く)」といった経験・検証の積み重ねが、自分なりの勝ちパターンをつくっていく。
「安い」というだけで飛びつかない。「安い」には理由がある場合がほとんど。
適当にググって出てきた価格をむやみに相場価格と信じてはいけない。
トレジャー発掘家タイプは、『裸コイン』を中心に購入し、それを『スラブ入り』の状態にして売却する、という考え方。
トレジャー発掘家タイプは、利益の期待値は大きいが「審美眼」が問われる。ある程度、痛い目にあう前提の覚悟が必要。
トレジャー発掘家タイプは、金額の低いもの(数千円~数十万円)が主戦場。
鑑定に出して返ってくるまで、半年以上の期間が必要。(2022年12月現在)
3つのタイプの考え方は組み合わせてもOK。
保有コインが自分の意図にフィットしているのかを考えることが重要。