居住用不動産の早期終活について

負動産という当て字を知っているでしょうか。損失が生じた投資用ではありません。ライフプランの組み立てが微妙に狂ったことにより、家族のあいだで手に余った自宅や土地などを指します。放っておけば固定資産税や都市計画税の負担義務だけが残るだけの資産になる可能性すらあり、早期の終活が望まれます。

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早めに持ち家を売る終活が増えている?

これまでも不動産の処遇は相続時における最大のネックでした。現預金は法定相続人の数に応じて配分できますが、他の資産はそうはいきません。証券やたとえ所有銘柄の種類が1社でも複数人(の相続人)で分け合うことができるためさほど問題にはなりませんが、不動産はそうはいきません。複数人で不動産の所有権を持ち合うと、多くの場合承継者同士での問題が生じ、相続ならぬ争族(あらそうぞく)が発生します。

なぜ不動産は争族が発生するのか

不動産で争族が発生する最大の理由は、出口が見えないことです。居住用不動産を考えてみましょう。子どもたちが小さい頃から居住していて思い出になっている自宅も、当然ながら築年数を重ねます。子どもたちは家族を持ち、古くなった家に住む必要性が無くなります。親が元気なうちは住まいとしての機能は継続しますが、年齢を重ね親が旅立つと、子どもたちは分担をしながら、その不動産をどうするか考えます。

この兄弟間の話し合いで意見が割れることが多いです。建物(上物)を解体して早期に売却するのか、特定の兄弟が所有権を承継するのか。築年数を重ねた不動産とはいえ資産価値があるものには代わりないので、実家の所有権を継がなかったほかの兄弟は相応の代替資産を受け取ることができます。

自分で希望した場合はともかく、兄弟間での争いを避けるために実家を承継した兄弟は納得がいきません。すべてを飲み込んで本人は損な役回りを受け入れようとしても、配偶者が子どもたちを巻き込み、泥沼化していきます。もちろん配偶者や子どもたちに悪気があるわけではなく、誰か我慢をしなければならない人がなぜ自分たちの夫(妻)なのかに納得ができないだけです。とはいえ、これが不動産をめぐる争族の代表的なケースです。

不動産の共有名義は争いのもと

そこで対策のために不動産の共有名義を選択する家族がいます。一見見事な解決策のように思えますが、長い視点で考えるときわめてリスクが高いのが共有名義です。親が亡くなる前であれば当該不動産の行く末について家族間に意見が分かれようと、その時点の持ち主の鶴の一声が優先されるでしょう。

一方、共有名義は登記に記載されている家族すべてが所有者であり、同等な権利の持ち主です(所有持分も同等と仮定します)。

肌感覚ですが、子どもの頃仲が良かった兄弟に限り、共有名義で不動産を持つとどこかしらの時点でトラブルになる家族が多いように思えます。専門家としては、相続における不動産の共有名義は基本的に反対です。どうしてもその方法しか取れないというのであれば、意見が相反した時の対応を定めておくことや、優先的に首長できる兄弟を決めておくことをお勧めします。

そうでなければ、親と話し合い、早めに居住用不動産を処分することをお勧めします。いわば、不動産の早期終活です。

争族回避には不動産の早期終活を

不動産の早期終活とは、親世代が元気なうちに不動産を売却し、現金化したうえで将来の相続人に配分してしまうことです。現金の贈与は贈与税がかかりますが、ちょうど子世代に多い30代から50代の現役世代は住宅購入や教育資金、結婚・子育てなど特定の用途につき贈与税が非課税になる措置が導入されています。

実家を売却することに心理的抵抗はあるでしょう。ただ、これから築年数を重ねていくことで負動産の可能性が高い物件より、その売却値を資金の一部に充当し、新たな不動産を購入した方が資産価値の高い物件居住が可能ですし、資産運用の観点からも低リスクです。兄弟たちにとって生まれ育った街ながら、見方を変えると家族まわりの資金を円滑に活用できる術ともいえるでしょう。

リバースモーゲージを最近聞かなくなったがどうなったのか

老後生活に入る段階の不動産活用として、一昔前に各所で持て囃されていたのがリバースモーゲージです。ただ最近不動産にまつわる個人相談を受けていて、リバースモーゲージを活用しようとしている家計がめっきり減っていることを実感します。Googleでリバースモーゲージと検索しても、関連語にはデメリット、トラブル、やばい(この言葉が上位なのもどうかと思いますが)と否定的な言葉が並びます。

筆者の知っている範囲では、値が付きにくくなったという話を聞きます。リバースモーゲージは居住中住宅を担保にして老後資金を貸し出し、その生活で生活をする親世代が亡くなったら融資返済の代わりに不動産を回収する仕組みです。本稿のテーマである早期終活の視点からみると、きわめて理想的なサービスのようにも思います。ただ、融資の金額が限定的だと老後資金の必要分に至らず、また心理的にもこの金額で将来的な不動産の所有権を渡すのか、とハードルが高くなります。

また、所有権移転の契約後に何らかの理由で不動産価値が下がると、下落分を一括で返済しなければならない点も、浸透に歯止めをかけているようです(商品構成によります)。リバースモーゲージの代わりに某大手金融機関は所有権を渡し、実家を借りている形にして家賃を支払ったうえで住み続けるリースバックを大々的に提供しています。

不動産の終活周りはあらたなビジネスを生みながらも、最終的には家族の合意にもとづく最期のデザインです。生まれ育った物件だからこそ、少しでも家族が納得できる道を選んでいきましょう。

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この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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