野球選手の年俸から考える税制度

とある野球のコミックで「マウンドにはゼニが落ちている」というという名文句がありました。野球に限らず、入団時に年収200万円だった選手が光を掴み、数億円の選手に成長するという成功譚が報じられます。ところで5億円の年俸になった選手は実際のところ、いくら銀行口座に入ってくるのでしょうか。そして大きな問題となるのが、税金の金額と支払時期といわれます。

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スポーツ選手の多くは個人事業主

いわゆるプロといわれるスポーツ選手は個人事業主です。個人事業主である以上、受け取った年俸は収入として計上され、1年間で使用した諸費用は経費になります。金銭管理の名目から、年棒は12で割られ毎月決まった日に振り込まれることが多いようです。まるで会社員のようです。なお入団時に付与される契約金は一括支給であるため、そのまま金銭管理の出来る者(両親や配偶者など)に渡す傾向が強いようです。

〈スポーツ選手の経費となるもの〉
試合や練習のための交通費、宿泊費、用具代(30万円以上は減価償却資産)、マネージャーやトレーナの給与など

契約金も年俸も所得税の対象

年棒は一般の個人事業主と同様、所得税と住民税を計算します。金額から経費を引いて、計算した所得税額を翌年の確定申告で納付します。会社員ではないので給与所得控除の対象でもなければ、加入する年金も構成年金ではなく国民年金となります。配偶者についても3号被保険者は適用外です。配偶者自身も年金保険料を支払う必要が生じます。所得税と住民税は確定申告で支払う流れです。

一方で契約金に課税されるのも所得税ですが、こちらは支給時に源泉徴収されるのが一般的です。つまり選手の手元に来るときには既に税引後の手取り額であるため、確定申告時の申告は必要ありません。

平均課税制度について

年俸に関しては平均課税制度を活用することができます。課税対象額が高ければ高いほど累進で税金がかかる所得税において、臨時所得と見做して5分の1の税率で計算し、その5倍を税額とする五分五条方式による計算です。累進課税で税金を計算するより安くはなりますが、先ほどお伝えしたように源泉徴収が多い場合、選手が受け取るのは既に税引き後のため、適用できるケースには限りがありそうです。

年棒は消費税の対象

また興味深いのは、個人事業主として年俸を受け取る選手は売上として計上するため、消費税を支払う義務があります。一方で選手契約をする球団は消費税を支払う側のため、仕入額控除が適用できます。このあたりは一般の個人事業主にはなかなか縁のない仕組みです。

年俸5000万円から5億円になったら手取りはいくら貰えるのか

さて、スポーツ選手の醍醐味は年俸の急激なアップ。例えば年棒5000万円から5億円になった場合、手取りはいくら増えるのでしょうか。便宜上経費をゼロとします。

(前年) 5,000万円 × 45% ー 4,796,000円 = 1770万4000円

(当年)   5億円 × 45% ー 4,796,000円 = 2億2020万4000円

圧倒的な負担感の違いです。所得税の最高控除額は479万円のため、このレベルになると負担ばかり増えていくのがよくわかります。そして、世間を超越した高額所得者が経費となる飛行機やマンションを購入するのもよくわかります。ただ注目は、前年の1770万円を所得税・住民税として支払うのは問題ないのですが、成績不振によりこの翌年、再び5000万円に戻ってしまった場合です。到底前年の税金は支払えません。

繰り返しになりますが、この5億円を契約金で受け取る場合は源泉徴収では無いので選手当人による金銭管理は必要ありません。問題は年俸で受け取る場合です。受け取る年俸額は推定とはいえ公開されるため(それも身内や交友関係だけではなく世の中に)、たくさんのお誘いがあります。投資などの話も増えるでしょう。

スポーツ選手に金銭教育が必要だと言われているのはこのあたりで、手取りで受け取った翌年に税金で支払うかもしれないお金も、使ってしまう人が多いということです。

高年俸選手をスポーツ少年団が育てる意味

ちなみに野球などの選手や受け取った契約金や年俸のなかから、それまでお世話になった監督やアマチュアチームなどに「包む」といわれています。今日まで続いている慣習なのか真偽のほどはわかりませんが、まったく無い話ではないようです。対してサッカーは欧州などにステップアップする移籍において、移籍金のなかからユースや高校サッカーチームに一部が支払われる文化があるようです。

余談ですが本稿のテーマ、包んだ場合は当然経費になります。それで所得税を抑えられることにも繋がるため、賢く上手く活用しないものです。筆者のスポーツ好きとしての私見ですが、このあたりに気がつく選手は状況判断にも秀で、優秀な成績を残す可能性が高いのではないでしょうか。ビジネスマンでいう目配り力というものです。オリンピックもワールドカップもおわりスポット間の強い2023年は、次の主役が評価されてきたことによる税金の上げ下げに腰を抜かす期間ともいえるでしょう。

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この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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