2024年開始のNISA新制度では、これまで設定されていた運用期間(一般NISA5年、つみたてNISA20年)が撤廃されます。使い勝手を広げる新制度自体は歓迎すべきものであり、あらたに投資をはじめる人にとっても良い動機付けとなるでしょう。ただ、つみたてNISAの制度変更を受けて老後資金の準備もできます、といったアナウンスを見ると、そこには既にiDeCoがあったのではという違和感も抱きます。
あらためてiDeCoを「NISAとの違い」から考える
NISAは新制度が注目されることで新制度の内容も広く周知されてきていますが、iDeCoとの違いが特集されているものはあまり見かけません。あらためて両者の違いを考えてみましょう。
中途解約ができるのがNISA、原則できないのがiDeCo
iDeCoは個人型確定拠出年金の略称です。公的年金に上乗せした老後資産をつくる制度として、2002年にスタートしました。NISAともども老後資金に向けた資産形成とはいえ、ライフプランはその過程で何があるか分かりません。たとえば30歳の方が60歳までの30年間運用するとして、状況変化に応じて中途解約ができるのがNISA、できないのがiDeCoです。
後述するファンドの違いを毎月拠出しているお金が老後資金として「確定」しているのであればiDeCoですが、現役世代は教育費にする可能性も、住宅購入資金にする可能性もある流動的な状態も考えられます。その資金として始めるのであれば、NISAがお勧めです。
金融庁がファンド選びをするのがNISA、金融機関が選ぶのがiDeCo
ファンド構成にも違いがあります。数あるファンドのうち、金融庁が選択するのがNISAです。一方のiDeCoは金融機関が選びます。当然ながら投資家保護を重視するNISAは保守的なファンド選択となり、一方のiDeCoはアクティブファンドも含めた構成になります。これはiDeCoがほかに資産を築いていて、比較的リスクを取れる人への老後資金醸成を含めた立ち位置のためといえるでしょう。
所得控除ができるiDeCo
最後の点はよく知られていますが、iDeCoは所得控除が可能です。NISAのように引き出しに対する非課税措置がない代わりに、拠出金を活用して所得税と住民税を下げることができます。iDeCoの所得控除は小規模企業共済掛金控除といいます。
特定のライフイベントに対し「特定貯蓄」をする危険性
以前、筆者は本メディアにおいて、教育資金がいくら必要になるかを今決めるのはあまり意味がなく、子どもが小学生などに成長してから広範的な貯蓄のなかから教育費を決めるべきという見解を「教育費用の変動性を無くすにはどうするか」と題したテーマで執筆しました。
iDeCoも性格的には同様で、現役世代のうちから老後資金に限った特定貯蓄をすることは、ライフプラン上あまりお勧めしません。現役世代に使う費用が十分にあり、毎年iDeCoに拠出してもびくともしないということであれば、所得控除を活用できるのではないでしょうか。少なくとも現役世代の家計において、月次の収入と支出がトントンのなかで少し背伸びをして出すのは、国のiDeCo推しに惑わされていないかと思わずにいられません。
投資家にとっては両者をどのように活用すべきか
ある人から聞いた話ですが、iDeCoの積立金は自己破産しても回収されない資産になるということはあまり知られていません。事業投資や不動産投資をするボラティリティの高い方々にとって、絶対に回収されない最低限度の資産という扱いができるのではないでしょうか(その規模で事業をまわす方がiDeCoの数万円拠出で生活が維持できるのかは疑問ですが)。
それは極論としても、投資家には財産評価額の急落のリスクは常につきまといます。その時の老後資金を少々安定させるためというよりは、一種の精神安定剤として、変遷する制度を上手に活用していきたいものです。
これからNISAとiDeCoの関係性はどう変わるか
これら前提のうえで考えられるのは、これまで色合いが異なったNISAとiDeCoが今後、方向性の似たものとなるのではという点です。老後資金において100万円の元手があり運用を検討する際に、半分の50万円はNISA、もう半分の50万円はiDeCoという考え方ができるのではないでしょうか。双方で異なるファンドを所有すれば分散投資になるほか、同じようなインデックスの値動きを2本持つのも投資傾向として考えられます。
また投資家のなかには運用資金とは別に、投資家としての自分が見れば驚くほど抑制された個人としての財布を持っている方も多いです。少なからず運用のセンスがある投資家にとって、そのセンスを存分に活用できるNISAやiDeCoといった制度は、税制優遇制度も手伝いとてもポジティブといえるでしょう。
印象としては現役世代にターゲット定めつつも、結局富裕層や投資慣れした人がまずNISAを評価しました。国はその傾向を受けてペルソナを修正し、つみたてNISAの支持が浸透してきているのを見て、新制度に舵を切ったといえるでしょう。これを受けてiDeCoも軌道修正をする可能性は残っていますが、現時点の制度設計を見て自身の投資計画に当てはめていきましょう。