【FP相談実例】贈与者の両親が亡くなったことで、教育資金贈与に後付けで相続税の対象になった話

昨今、ひとりの子どもを育てるのには1000万円が必要といわれます。教育費の捻出に難儀している両親も多いことでしょう。なかには高齢になった両親から教育用途にお金を融通してもらうケースも多いです。今回の相談者Aさんは、そんななかの1人です。親から1500万円を生前贈与して貰い、活用していました。ところが親が亡くなったとき、ある計算違いの事態になります。受け取っていた教育資金への相続税課税です。

顧客属性

〇40代女性Aさん

〇教育資金の必要となる東京都港区在住

〇5年前、親から教育資金贈与で1500万円を生前贈与してもらう

目次

Aさんへの教育資金贈与

まず5年前の生前贈与を振り返ります。結婚を期にAさんは、東京都港区に移り住みました。結婚した配偶者は年収900万円前後ですが、持ち出しも多いのが港区ライフです。ライフプランを組むなかで、子どもが私立を希望した場合、あまり教育費に投入できるお金に余裕がないことが判明します。小学校から私立に通うプランを選択した場合、先の1000万円は約2倍に跳ね上がります。

そこで、50代(当時)の両親に相談すると、孫であるAさんの子どものために1500万円を工面してくれるとの話に。

あまりの金額に腰を抜かしましたが、先代から受け継いだ農地の売却益とのことでした。

また、Aさんが一人娘という点も判断のきっかけになりました。ほかに兄弟がいれば、そのうちの一人に1500万円という大金を渡すことは争族のきっかけとなります。話は思いのほかトントン拍子に進んだうえ、日頃から相談していた税理士に相談すると「教育資金贈与を使えますよ」と助言をもらったため、贈与税を使って手続きを進めることになりました。

教育資金贈与は教育用途の贈与が非課税に

教育資金贈与とは、直系尊属(配偶者ではなく、直接自分と血の繋がった両親や祖父母)からの1500万円を上限とした教育用途の贈与は、通常の贈与税がかからないというものです。有限立法であり、これまで何度か期限を迎えるものの、その都度延長されてきた制度です。同様に住宅資金贈与や結婚・子育て贈与制度があり、高齢世代から現役世代へのスムーズな資金継承に活用されています。

子どもの成長を見せられなかった親との突然の別れ

教育資金贈与は受け取ったときに子どもがまだ6歳と幼かったこともあり、教育資金贈与対象の口座に入れて長期間で活用することにしました。贈与時に税理士に「この1500万円に税金がかかることはないのですか?」と聞くと、いったん贈与された金額なので考えづらいとのこと。

日常に戻ったAさん。子どもが中学校入学を控えた頃、実家から電話がかかってきます。なんと、母親が突然亡くなってしまったとの知らせでした。相続の手続きを始めることになり、衝撃の事実を知らされます。なんと受け取った1500万円に、相続税が課税されてしまうとの知らせです。

令和3年に変更された教育資金贈与の「残金」

教育資金贈与制度が発足した当初は、残金に対して追って相続税が課税される仕組みはありませんでした。受け取った側は一括贈与後10年20年をかけて教育資金に投入します。ただ、本来の贈与税の仕組みを考えると、このような長期間における非課税措置は対象ではありません。

そこで国税庁は令和3年(2021年)、令和3年税制改正の一環として「教育資金贈与の契約期間中に贈与者が死亡した場合」を定めます。この税制改正により贈与者死亡時の残金については相続税の残金とされ、支払義務が生じるのです。

当該税制改正は、平成31年4月1日からの贈与が対象となりました。Aさんが母親から贈与を受けたのは平成31年6月のため、対象に含まれた形です。なお父親は息災なのですが、贈与契約書が母親が受け取ったものになっているため、今回は相続税課税の対象となりました。

相続関連法は変わることもある!を前提にプランを

結果、Aさんは子どもたちの大学費用として残しておいた残金の900万円に対する相続税を支払います。該当部分の相続税は約10%の85万円でした。相続税の金額自体は支払えないものではありませんが、子どもに投入しようとライフプランを組んでいた80万円が無くなってしまうことは痛いものでした。

もちろん、当時相談した税理士に過失のあるものではありません。その時から相続税制度に変更があるかもしれない、といった噂話はありましたが、決まってもいない情報を伝えるのは逆にプロとして懸念事項です。問題はその時々の仕組みを前提にプランを立てるものの、相続関連法は変わるかもしれないという懸念です。税理士やファイナンシャルプランナーなどを中心に都度対応体制を整備できればいいのですが、一般の家庭にとって専門家はあくまでスポット的に役割であり、恒常的に相談できる仕組みにはなっていません。

可能であれば専門家相談はスポットではなく恒常的に

いま、分離された相続税と贈与税の仕組みを一体化させようとする議論が進んでいるといわれます。表に出ていないものも含めて考えると、今回の教育資金贈与が比べものにならないほど大規模な改正となる可能性もあります。もちろん今回のように、事前に対応した資金策を組むことは不可能です。

そのため、専門家への相談はスポットではなく、恒常的にすることをお勧めします。専門家はスポット相談のほかに継続した顧問契約なども受けているため、活用するようにしましょう。そうすることで税制大綱やパブリックコメント(税制改正の前に広く意見を求める国の動き)の前に税制改正のポイントを認識し、自分たちのライフプランに反映させることができます。顧問料はかかるかもしれませんが、一時的な支出を回避することで背負うリスクに比べれば、何倍も少ないリスクだと言い切ることができます。

今回のAさんの話は、継続する相談の大切さを強く実感するものでした。

なお国税庁の通達には、受遺者(教育資金を受け取った子や孫)が贈与者の死亡時に未成年または学校に通っている場合、一定の条件のもとで相続資産組み入れの対象外とする注釈が出されています。教育資金贈与を既に受け取っており、贈与者の死亡により相続が発生した場合は、必ず税理士にご相談ください。

【2023年5月30日 1次改稿】

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この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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