AIサービスに相続税申告書作成を頼んだ話(ネガティブ編)

紙と手書きが大好き、従来のやり方を踏襲することが大好きな相続領域も、ついにAIのアドバイスをもとに進めることが「当たり前」になっていくのでしょうか。

前回の記事ではAIサービスに相続税申告書を依頼することのポジティブ面をお伝えしました。AIは間違いなくレガシーな相続領域を変えていきます。問題はこれまで紙媒体で進めていたことに突然AIを入れる急ぎすぎ感と、既存方法は所々にヒトの手を介することです。どれだけ生活にAIが密着してきても、雑誌では「AIが社会に登場したら無くなる仕事」という特集が組まれ、いつもその筆頭に税理士や公認会計士が上がります。実際にはこのようなニーズが当たった試しは思いつかないのですが、黒船が来航した江戸時代から日本は外圧に大慌てする国民性のようです。問題は時間軸です。ポジティブ編と同じ登場人物に再び登場してもらいましょう。

目次

顧客属性

  • 昨年相続申告書の作成機会があったAさん
  • AIの相続サービスに興味があった。不安の残るなかで、もしタイミングが合えば活用したいと考えていた。
  • 今回の主役はAさんの申告を横目に?見ていた5歳下のBさん

え、結局そこから手動なの?

Aさんの相続申告書の作成はものの1時間で終わりました。ただ、相続申告書の作成にはさまざまな補助作業があります。代表的なものは書類集めです。

AさんがAIによる相続申告書で申告を終えたらしい。同世代のBさんと家族は、自分たちも後に続こうと、サービスの内容などを調べてみました。ただ、比較的単純な相続申告のAさんと異なり、Bさんは自分が亡くなったあとの不動産所有配分が決まっていなかったり、Bさんの実父の相続に遺留分(法定相続人以外に資産を承継すること)が使われていて相続人の一部に感情的なしこりが残っていたりと、AIでさっと、という形ではありません。どのような手続きが必要なんだろうと相続×AIのサービスを見てみると、可能なのは申告書まわりで、書類は申請者でお願いしますという説明がありました。「え、結局そこから手動なの?」と狐につままれたBさんは、従来の主導方法での相続申告に帰結することになります。

相続×AIでも書類関連は手動

被相続人の戸籍や登記、資産証明は、いまだに行政に赴いて取得しなければなりません。住民票レベルであればマイナンバーカードで取得できるようになりましたが、これも革命的な出来事でした(マイナンバーの今後もまた心配ですが)。相続が発生した後、相続人が自分で集めるにしろ、司法書士や税理士に交通費を支払いすべて委託するにしろ、相応の時間と費用がかかります。

これらの書類の大きな問題は原本主義である点です。いまや法人間の契約書でさえ電子契約が当たり前になった世の中でも、片方が行政であれば電子はもとより、コピーの送付さえもハードルが生じます。数年前からGovTechのサービスが立ち上がって資金調達のニュースが流れてきますが、相続まわりの行政×書類が恩恵を受けるにはまだ先のようです。

人の手×相続AIになる可能性

ならばAIに可能な部分をAIにして、人の手が介するところは人の手で。ハイブリッドな形は望めないのでしょうか。たとえばAIで相続の相談に乗り、士業などの専門家に相談するサービスはその形をとるものですが、具体的なサービス名は思い浮かびません。

筆者も相続のサービスに関わっているものとしていえるのは、AIとして相続の相談を受けると、結局AIとして一般的な回答を出し、なかなか士業に相談する「案件」にならないという特徴があります。対する士業側としても、AIによるプロセスを挟むくらいであれば、最初から自分たちが話を聞きます。単価の高い士業が動く弊害があるならアソシエイトによる丁寧な対応を心がけますというスタンスが優先されるためです。

これは、相続の手続きすべてがAIになり、人の手は監修をするだけ、AIの生産物のチェックをする段階まで技術レベルと受け入れが進まないことには、解決しない齟齬であるように思えます。

立ち返って考える超高齢化社会

AIを扱っていたスタートアップのなかにも事業を売却するところが見え、沈静化の兆しを見せる相続×AIの領域です。ただ基本に立ち返って考えると、日本は1年に約70万人が生まれ、約130万人が亡くなる国です。もっと相続テックが盛り上がらなければいけないのに停滞している感が強いのは何故でしょうか。時勢であれば、時間軸を調整して相続×AIが今後も隆盛していくことは間違いないでしょう。今後は相続申告のみならず、ワンストップで相続全体をグランドデザインするサービスが生まれてくるでしょうか。

今回AIによる相続税申告書の恩恵を受けたAさん。資産を受け取ったのは、配偶者の奥様と子どもたちでした。数十年後に子どもたちが無くなるときには、相続申告書に人の手が関わるなど信じられないという温度感で、手続きが進んでいくのかもしれません。相続に限らず、そうやって時代は前に進んでいくもの、といえるでしょう。

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この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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