2024年末に個人型確定拠出年金(iDeCo)の通称5年ルールが10年ルールに改悪されると話題になりました。
現行制度ではiDeCoを一時金で受け取った後、5年以上の期間を開けて会社からの退職金を受け取ると、退職金にかかる税負担を抑えることができます。
この5年が10年に延ばされる制度改正ですね。
このニュースに対し「iDeCoは止めて新NISAに乗り変える」との声もありましたが、私の意見は「老後資金においてはiDeCoの優位性は変わらない」です。
今回は5年ルール改悪に対して私たちにどのような影響があるかを解説します。
新NISAとiDeCoの比較
まず先にiDeCoと新NISAの主な違いを簡単に触れておきましょう。
iDeCo拠出時(投資時)に所得控除の対象
iDeCoは投資した金額分だけ所得控除(収入を少なく計算する)の対象になるので所得税・住民税の節税になります。
例えば給料が30万円の会社員がiDeCoに1万円拠出(投資)した場合は1万円を引いた29万円に対してのみ税金がかかるため、支払う税金が少なくて済みます。
新NISAで投資しても所得控除の対象にはなりません。
iDeCoの拠出限度額は人により変わる
iDeCoの拠出限度額は加入している公的年金(国民年金・厚生年金)や勤務先の企業年金制度によって拠出限度額が以下のように変わります。
(2025年1月現在・月額)
● 国民年金に加入:68,000円
● 専業主婦(夫):23,000円
● 公務員:20,000円
● 会社員(企業年金なし):23,000円
● 会社員(企業年金あり):20,000円(企業年金の加入状況により異なる)
iDeCoは60歳まで引き出せない
iDeCoは原則60歳になるまで引き出すことができませんので、老後資金としてのみ利用できます。
原則60歳とありますが例外は障害給付金などですので「お金が必要だから」という理由だけで引き出すことは絶対にできません。
iDeCoは受取時に税金がかかる
新NISAには完全に非課税ですが、iDeCoは受け取る時の全額が所得税・住民税の対象です。
投資で増えた利益分に対してではなく元本分も含めた受け取り額が課税対象ですので注意してください。
最終的に税金が掛かるため完全に非課税の新NISAを選択する人も多いのですが、公的年金控除や退職所得控除で税金を大幅に減らすことができます。
改悪と言われている5年ルールはこの退職所得控除に対する制度改正です。
退職所得控除で税金が減る
60歳以降にiDeCoを一時金で受け取ると退職金として扱われます。
退職金にも税金は掛かりますが、受け取った額から退職所得控除を引いた額のみが課税の対象となるので、この退職所得控除をどれだけ多く使えるかが節税のポイントになります。
退職所得控除の計算方法
ではその退職所得控除の額がどのように決められるか見てみましょう。
退職所得控除の計算方法は以下の通りです。
● 勤続20年以下 :40万円 × 勤続年数(最低でも80万円)
● 勤続20年超 :800万円 + 70万円 × (勤続年数-20年)
注:iDeCoの場合は勤続年数をiDeCo加入年数で計算
以下のケースで計算してみます。
● iDeCo加入年数:22年
● iDeCoの受け取り一時金:1,000万円
勤続年数が20年を超えていますので退職所得控除の計算式は以下の通りです。
800万円 + 70万円 × (22年-20年) = 940万円
退職所得控除が940万円ですから課税対象となるのは60万円ですね。
1,000万円 – 940万円 = 60万円
しかし、この退職所得控除の制度もiDeCoの一時金受け取りから5年経たずに勤務先から退職金を受け取ってしまうと、税金を計算する際に不利になってしまいます。
この点に関連するのが改悪と話題になっている「5年ルール」です。
5年で退職所得控除がリセット
勤務先からの退職金を受け取る時期により、退職所得控除の額がどれくらい変わるか見てみましょう。
iDeCoの一時金受け取りから3年後(画像上段)と5年後(画像下段)で比較しました。
3年後では退職金に使える退職所得控除は、iDeCoの一時金を受け取る際に使った20年分を差し引いた23年分のみです。
しかし、5年経って退職金を受け取るとiDeCoの加入期間を差し引く必要がなくなりますから、勤続年数45年分の退職所得控除が使えます。
現状の5年ルールが10年ルールに改悪
2024年12月に公開された『令和7年度税制改正の大綱』には5年ルールから10年ルールへの変更が明記されました。
変更となればiDeCoの一時金を最速の60歳で受け取ったとしても、退職金の受け取りを70歳以降にしなければなりません。
この制度を利用できる人はごくわずかになるでしょう。
10年ルールへの改悪も影響は限定的
ただ改悪を理由にiDeCoを止めるのは賢明な判断とはいえません。
そもそも影響を受ける人が少ないのです。
拠出時の節税メリットは変わらない
すでにiDeCoを始めている方の多くは拠出時の節税に魅力を感じて利用しているのでしょう。
仮にiDeCoに月2万円(年24万円)で20年加入すれば合計で480万円ですから、税率を30%としても144万円の節税効果があります。
この節税効果は変わりません。
退職金の無い(少ない)人の影響は少ない
退職金のない人への影響はほとんどありません。
小規模企業共済とiDeCoを併用している方くらいでしょうか。
退職金が少ない方もiDeCoの加入期間を差し引いてなお、退職所得控除の中で収まれば税金に影響はありません。
公的年金控除も利用できる
退職所得控除を退職金だけで使い切ってしまう方でもiDeCoの利用価値はあります。
iDeCoの受取時に使える所得控除は退職所得控除だけではありません。
一時金ではなく分割で受け取ると公的年金控除の対象になるからです。
iDeCoで月2万円を20年(年利5%計算)で積み立てると800万円ほどが期待できます。
仮に65歳で定年退職の人が60歳から10年間(年80万円)の分割で受け取るとしましょう。
65歳未満:控除額が少ないが税金はわずか
初めの5年間は65歳未満の公的年金控除60万円から少しはみ出すため税金が発生します。
在職中ですと給料と合わせた所得の税率が適用されますが、拠出時の節税効果を考えると損にはならないでしょう。
65歳以上:公的年金の繰り下げで税金を抑える
65歳からの控除額は公的年金控除の最低110万円に各基礎控除(所得税48万円・住民税43万円)を加え150万円超えます。
ただ、公的年金を受給してしまうとiDeCoの受け取り額と合算されてしまい、控除額をはみ出す可能性が高いですね。
そこで年金を繰下げ受給します(受給開始年齢を遅らせることで年金額を増やす方法)
70歳までは分割で受け取るiDeCoと退職金で生活し、以降は繰り下げで増えた年金を終身で受け取れば、より安定した老後を迎えることができるでしょう。
退職金だけで退職所得控除を超えるなら、公的年金の受給開始を70歳以降まで遅らせても問題なく生活できるはずです。
新NISAにないiDeCoのメリット
ここまで5年ルールが改悪されても影響は少ない旨の解説をしてきましたが、iDeCoから新NISAへの乗り換えを検討している方に、あまり知られていないiDeCoの優位性も紹介しておきます。
投資信託を乗り換えができる
iDeCoは投資先の乗り換え(スイッチング)ができますが、新NISAは一旦売却しないと乗り換えることができません。
老後生活を送るのに十分な資産額に到達したのなら、大きなリスクを取って無理に増やす必要がなくなります。
元本保証資産や値動きの少ないバランス型ファンドに乗り換え、大きく減らさない守りの資産運用が重要になります。
投資先を柔軟に変更できるのはiDeCoの大きなメリットといえるでしょう。
定期預金で確実に利益を上げられる
iDeCoは投資というイメージがあるため、老後が近づいた50代の方が新たに始めるのは抵抗があるかもしれません。
しかし、iDeCoの銘柄には必ず含まれている元本保証資産でも、拠出時の節税効果は変わりません。
一時金で受け取る時に所得控除の額を超えてしまったとしても、税額を求める計算式で受け取った額が二分の一にされますので税金を少なく抑えられます。
iDeCoの加入年数が10年未満ですと61歳以降の受け取りになりますが、使う予定のない多額の現金を保有しているなら、iDeCoの満額利用は有効な節税手段となるでしょう。
iDeCo改悪よりも改善に注目を
2024年12月にiDeCoの拠出額上限が現在の額まで引き上げられました。
さらに『令和7年度税制改正の大綱』には更なる上限引き上げが明記されています。
またiDeCo加入に必要であった事業主の証明書もすでに廃止され、よりiDeCoを始めやすい環境が整ってきました。
マスコミ報道やSNSでは改悪のニュースが大きく取り上げられますが、iDeCoはむしろ改善に向かっています。
改悪のイメージに惑わされず冷静に新NISAと比較したうえ、老後に備えた資産形成に役立ててください。
まとめ
5年ルールが改悪されるが影響は少ない
iDeCoを分割で受け取れば公的年金控除が使える
新NISAにないiDeCoのメリットを活かすべき
iDeCo改悪の情報に惑わされず、自分への影響を見極めて利用するかを判断してください。
