【FP相談実例】税理士を使わずクラウド確定申告!・・・でも、相続税が発生する家庭はデメリットが多い?

今年も春の定例イベントといえる確定申告の提出時期が終了しました。10年ほど前からクラウド会計サービスの登場により、確定申告にかかる時間は著しく短縮化されています。レシートを束にして税理士に渡していた「完全依頼派」の方々も、自ら勘定科目を入力して確定申告書を作成し、出力した書類を税務署に送る形に変わってきています。

目次

相談までの流れ

相談者は50代の女性Aさんです。ちょっと急いでいるのだが、相続の税理士はどうやって選べばいいかという問い合わせでした。税理士事務所に聞くとストレート過ぎるのか、FP会社を選択したようです。

なんとなく距離感が微妙だった被相続人の実親が亡くなった直後であり、兄とのあいだに相続問題が発生しつつあるとのこと。兄はまあ穏便にという姿勢なのですが、以前より何となくソリの合わなかった兄嫁が自分たちの主張する居住用住宅(実家)を売却しての現金資産分割に同意できないとのこと。

何か代替案を言ってきているのですか?という質問に対してAさんは苦笑しながら、返答された内容に私たちも苦笑するしかありませんでした。代替案がないどころか、AさんおよびAさんのご主人が提案したことに基本的に反対、ほかの選択肢を求めるという状況とのことです。つくづく、相続問題は感情に依る部分が大きいことを実感します。

そもそもAさんが当社に相談したのは、何度か兄嫁とやり取りをして、感情的なしこりが大きくなってからです。当社としてはこれまでAさんと他の相続人候補者とどのようなやり取りをしてきたのか、既に決まっている事実はあるか、生前贈与まわりなどを提携している税理士とともに確認し、大枠を掴むところからスタートしました。ただ、やり取りをしているなかでAさんも時間的〆切があるという焦りが見て取れるようになります。もう少し落ち着いて取り組める時間と事前情報があれば、また展開も変わってくると強く思わされた案件相談です。

顧客属性

〇50代女性Aさん

〇実家の親が亡くなった直後、3歳上の兄と、兄嫁がいる。兄嫁との関係性はそれほど良くない

〇実家の売却のうえで現金化し、相続分に応じた資産分配を主張

解説・提案

個人の所得税において税理士を使わず、クラウドサービスなどを活用し自分だけで作業完了する方もとても増えました。それだけ昨今のクラウドサービスは優秀であり、ITリテラシーに垣根なく使いこなせてしまえる魅力があります。

ただ、特に相続において切羽詰まった状況になってから税理士に相談しても、専門家サイドも迅速な対応が取れないことは多いです。相続の相談は資産ポートフォリオの状況からこれまでの対策を踏まえ、最適解を導いていきます。本件のように訴訟性のあるものは税理士単独で対応するのは難しく、弁護士や司法書士(簡易裁判に限定)の関与が必要となります。

いざ相続トラブルになったときに首尾よく動くためには、何かあったときにツーカーである専門家を確保しておくこと。そのための具体的方法のひとつが所得税という比較的ライトな方法であり、確定申告関連の相談といえます。

「相続がリスクと自覚した時点」で専門家に相談する

初期相談が遅く対応が限定的になった専門家が総じて思うことは、なぜもう少し早い段階での相談を受けることはできなかったのかという点です。顧客へのネガティブな感情というよりも、専門家の存在を知らせる術は無かったのかという業界の特徴への問題提起?といえるでしょうか。それは相続の本筋ではなくとも、司法書士が受ける登記の相談や、不動産鑑定士や土地家屋調査士が受ける土地などの不動産方面からの相談、我々ファイナンシャルプランナーが受ける家計管理や資金繰りの相談が該当します。

以前まではその代表格が税理士へのワンストップな相談である確定申告といえます。営業的な言葉を使うならばタッチポイントといえるでしょうか。そのタッチポイントが属人性のない方法に変わった今日、このままだと相続がリスクになりそうかなと感じた時点で概要を専門家に共有しておくことがベストです。税理士でもいいですが、上段でお伝えした相続に関連する専門家でもベターといえるでしょう。

専門家に相談する形態によってはランニングの費用がかかるという面もあります。ただ、僅かな費用を惜しんで専門家を味方にするのが遅れ、相続トラブルが自分の希望とかけ離れた結論に至ってしまっては、損害額はランニングの費用どころではありません。

最初から大きな相談体制ではなく、各事務所が開催している無料相談会や自治体で開催されている相談会でいいと思います。最初の担当者に継続して相談できる可能性もあれば、専門家に相談することで「自分の相続の案件はどれくらいのスピードで対応しなければいけないか」ということが可視化されるメリットもあります。まずは自分の相談を相談し、取扱い遅れのないことを意識することで、先の損失リスクを予防するように動き出すことが優先です。

なお本件はAさんとの相談の結果、相続処理の成立を弁護士に依頼し、第三者感を強くすることで兄夫婦の譲れないポイントを引き出し、完了することができました。感情論の部分を分析し、第三者として客観的な落しどころを見つけることも、専門家の大きな仕事です。

【2023年4月24日 1次改稿】

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この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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