14年ぶりの高値を更新した鉄鋼株の動きを振り返り、今後を予想

株式市場を見る上で、どのような銘柄が物色されているのかを知るには、様々な株価指数を見る必要があります。JPX日本取引所グループは、多くの株価指数を日々公表しています(JPX日本取引所グループのHP「リアルタイム株価指数値一覧」で見ることができます)。

各株価指数を見ることによって、同じような分類の銘柄が上昇しているのか、循環的に様々な業種が上昇しているかが分かり、物色の変化などをつかみやすくなります。

株式投資をする上では、各株価指数の動きをよく見ておきたいところです。今回は、アベノミクスが始まって以降の高値(14年ぶりの高値)を更新した東証業種別株価指数・鉄鋼について考えて見ました。今後も堅調さが期待できると考えます。

目次

上場企業の稼ぐ力が上向いている

日本の上場企業の稼ぐ力が上向いています。日本経済新聞(8月6日1面)によると、「8月4日時点で、2023年4-6月期の純利益は前年同期から20%増えました。供給網や人流の回復で需要が膨らみ、高単価でも売れる構図が鮮明」であり、「円安もあり収益性を示す売上高純利益率は最高水準にある」となっています。ただ、「中国景気の減速などは懸念資料」とのことです。

コロナ禍から回復したこと、円安が進んだことから、アベノミクス以降の政策の効果が業績に表れていると言ええそうです。

また、日本経済新聞(8月26日19面)では、大和証券の調べ・集計による、4-6月期の営業利益と事前の市場予想の乖離比率を業種別に集計したものが掲載されています。これによると、乖離が大きい業種として、水産・農林業、鉄鋼、陸運業、パルプ・紙、輸送用機器、建設業の6業種が挙げられています。

アベノミクス以降の高値を更新した鉄鋼株

前述の、業績が予想以上であった6業種の中で、株価の動きとして注目したいのは、鉄鋼株です。ここでは、東証業種別株価指数・鉄鋼の動きとその36カ月移動平均について示してみました。

アベノミクス以降は多くの業種が上昇しましたが、業種別株価指数・鉄鋼は2015年6月に757をつけ、その後は軟調に推移してきました。2023年8月にようやくアベノミクス以降の高値を更新しました。

数年に一度の高値を上抜けるかどうかは、株価をみる上で重要なポイントとなります。株式市場では、株価が上がったところで売りを行う(逆張り戦略を行う)投資家が存在していますので、数年に一度の高値を上抜けるということは利益確定売りを吸収できたことの証明になります。

主だった高値を上抜けた後はその後も上昇しやすいといえるでしょう。アベノミクス以降の高値を上抜けた業種別株価指数としては、輸送用機器、卸売業などが挙げられます(図は省略)が、やはりある程度大きな値幅の上昇がみられました。

日経平均株価やTOPIXもアベノミクス以降の高値を上抜けましたが、上抜けた業種はそれほど多くありません。

また、業種別株価指数・鉄鋼の36カ月移動平均との関係をみますと、36カ月移動平均の前後で上げ止まることがよくみられてきました。2015年も上抜けましたが、今回はより明確に上回ったと言えます。

鉄鋼の業績が回復した背景

鉄鋼株は、2007年高値からみると、まだ低い水準にあります。業種別指数のなかでは、この10年余り低迷した業種に入ります。

以下は日本経済新聞(8月26日19面)より抽出。

「かつて、鉄鋼は、構造的な設備過剰と需要の減退に悩まされました。業績低迷の中で、大胆なリストラで筋肉質の収益体質をつくりました。ここに脱デフレと値上げが重なり、投資妙味が大きくなりました」。

以下は日本経済新聞(8月31日19面)より抽出。

「過去、鉄鋼株買いが起きるのは決まってインフレの時代だ。70年代の石油危機、80年代の日本のバブル、2000年代半ばの中国バブル」。

株価の動きも、これまでと異なるように感じられます。インフレの時代に入ったとも言えそうです。

各移動平均との乖離率について

株式市場では、上昇または下落のスピードが過熱しているかどうか(速過ぎるか)を捉えようとする指標がいくつかあります。よく見かけるものに、株価と各移動平均との乖離(かいり)率があります。各営業日での株価と各移動平均がどの程度乖離しているかを計算するものです。

各移動平均乖離率の水準を見ていくことは重要でしょう。材料の割に買われすぎていないか、上昇ピッチは過去と比べてどの位速いのかなどが読み取れます。

「東証業種別株価指数・鉄鋼」を対象にした75日移動平均乖離率の推移

下図は、最近の東証業種別株価指数・鉄鋼とその75日移動平均乖離率の推移を示したものです。

東証業種別株価指数・鉄鋼は、中長期的な方向に対して、小規模に反発・反落を見せる傾向がありますので、少し長めの75日間の移動平均を使ってみました。小規模な動きに左右されないためです。

日経平均の25日移動平均との乖離率は、一般的に、プラス5%を超えると上昇ピッチが速いとされ、マイナス5%を下回ると下落ピッチが速いと言われますが、 最近の東証業種別株価指数・鉄鋼の75日移動平均乖離率を見ますと、プラス20%前後で上昇が止まりやすく、下落しても大きなマイナスの値はつけなくなっています。

過去の推移を見ますと、プラス20%を超えるようだと、上昇は止まりやすいのですが、1~2年後に再び高値を更新するケースが見られています。一方、プラス20%以下での推移が続くようですと、中長期的な下落相場に入る可能性があるようです。

昨年終盤からの上昇場面では、(年序盤に)プラス20%を超えましたので、現在は長期的な上昇場面に入った可能性がありそうです。

今後の戦略は

今回は、東証業種別株価指数・鉄鋼で2つの移動平均との関係をとりあげましたが、ここに来て動きが(これまでと)異なるものになってきたと思われる指数であると考えます。しばらくは、75日移動平均の前後で買いを行い、上昇場面では75日移動平均との乖離率が20%前後になったところで売りを行う戦略が有効であると考えます。


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