世界の株式市場は、米国での経済指標や金融政策を見極めようと、上値の重さが感じられています(2024年6月6日執筆時点)。今年は、金や銀などの貴金属相場が堅調に推移しています。今回は、NYダウに連動しない傾向がある貴金属として、白金(プラチナ)相場の行方に注目したいと思います。価格の推移(チャート)を見ますと、注目したい点があります。
また、白金生産の約7割を占める南アフリカの通貨ランドの行方についても取り上げてみました。
白金とは
(参考:日本取引所グループのホームページ「白金とは」)
白金(プラチナ)の元素としての発見は18世紀、本格的な鉱業生産開始は19世紀末であり、人類にとって比較的新しい貴金属と言えます。また、年間の鉱山生産量は金のおよそ18分の1であり、地上在庫(有史以来の総採掘量)は金の30分の1にも満たないことから、金よりもはるかに高い希少性を持ちます。
年間総需要の約7割を工業用需要が占めるため、金に近い「安全資産」というよりも、むしろ原油に近い「リスク資産」としての側面を持っています。工業用需要のうち、約6割を自動車の排ガス浄化触媒用途が占めますが、主にディーゼルエンジンに用いられる理由は同じ白金族金属のパラジウムを凌ぐ触媒性能によるものです。
独VW社による排ガス不正発覚後、この分野での需要に陰りがみられますが、白金は車載用燃料電池の基幹部材であることから、次世代自動車の普及状況が今後の需要を占う鍵とされています。供給面では、資源の偏在が著しく、全世界の年間鉱山生産量の7割強を南アフリカ共和国が占め、同国の労使交渉、電力供給、国債格付け等の政治経済情勢が大きな価格変動要因となっています。
白金の需給が改善傾向に
以下は、日本経済新聞朝刊5月14日9面から抜粋しました。
供給不足に
国際調査機関の英ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(WPIC)が公表したリポートで、2024年の白金需給は14.8トンの供給不足と予想されました。現実になれば2年連続となります。
自動車向けの需要が回復
白金は工業・自動車需要が7割強を占めています。特に排ガスを浄化する触媒向けの需要が大きく、2024年の自動車向け需要は101.7トンと前年比で2%増える見通しです。これまで独フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車の排ガス不正問題をきっかけに白金は需要の低迷が続いてきましたが、問題が発覚した2015年の自動車向け需要(100.9トン)を上回る見通しとなりました。
パラジウムから切り替える動きも
自動車のモデル変更で排ガス浄化触媒に使う貴金属をパラジウムから相対的に割安な白金に切り替える動きがあるもようです。
白金先物(NY)の推移
ここでは、2009年11月以降、白金価格(NY白金先物)がどのように動いてきたかを表しました。白金価格が高値をつけたのは、リーマンショックの後の2011年、新型コロナウイルスによる悪影響が懸念された2021年などとなっています。つまり、NYダウが強くないときに高値をつけてきました。
白金価格の過去の高値を見ますと、2011年の高値、2021年の高値と上値を切り下げてきました。また、下値も2015年の安値、2020年の安値と下値を切り下げてきました。一方、2020年に安値をつけてからは底堅さも感じられています。36カ月移動平均線の前後で下げ止まる場面が見られています。
今後は、2021年の高値が意識されます。相場が一定範囲内で長く推移した後に上昇すると、しばらくの間上昇しやすいと言われることがあります。
南アフリカ通貨ランドの推移
ここでは、白金生産の7割強を生産している南アフリカの通貨ランド(南ア・ランド)の推移を表しました。
この数カ月は、貴金属や非鉄金属などが堅調に推移するとともに、資源国通貨が堅調に推移する場面が見られています。オーストラリア(豪)ドルなどです。
南ア・ランドは、2020年の安値から2023年の安値にかけて、下値を切り上げました。今後は2022年の高値である88円台を上抜けられるかが注目されます。この水準を上抜けられれば、「(チャート上で)底打ちが形成された」との声が聞かれそうです。
白金相場と比べますと、高値や安値をつけるタイミングが遅れている現象が見受けられます。
南アフリカの政治経済の動き
以下は、日本経済新聞6月2日5面、6月3日5面より抽出しました。
南アフリカは5月29日に総選挙(下院、定数400)の投票が行われました。黒人解放の英雄ネルソン・マンデラ氏の政党である与党アフリカ民族会議(ANC)は、過半数割れとなりました。ANCが単独過半数の議席を失うのは1994年の第1回全人種参加選挙以降で初めてです。ANCの得票率は40%と前回2019年の選挙をおよそ19ポイント下回りました。
経済の不振や治安の悪化への有権者の不満が背景にあります。ここ30年の経済成長率は、ほぼ一貫してBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)の平均を下回ってきました。経済格差は世界最悪といわれるまでに広がりました。
大統領を議会が選出する南アフリカでは、ラマポーザ氏の再選のためにANCが連立を組む必要がありますが、交渉では厳しい選択を迫られそうです。
「白人政党」のイメージを持つ政党と組むには、ANC幹部や支持層に拒否反応があります。一方、反欧米を主張する政党、大衆迎合主義(ポピュリズム)政党と組めば、投資家や企業経営者の支持を失うことが懸念されます。
白金の需要が増えることは、南ア・ランドの動きを予想する上でプラスに考えられますが、南アフリカ政府の政治運営には、乗り越えるべき高いハードルがあるようです。
まとめ
この数カ月は貴金属や非鉄金属の相場が堅調に推移し、いくつかの資源国通貨も堅調に推移しました。今回は、貴金属の一つである白金の動きとその主な生産国である南アフリカの通貨ランドについて取り上げました。
白金については、強気に考えられる点が多いのですが、南ア・ランドについては懸念材料もあります。今後の南ア・ランドの動きを占う上で、連立協議を巡る動きや経済・外交政策の行方が注目されそうです。