株式市場を見る上で、どのような銘柄が物色されているのかを知るには、様々な株価指数を見る必要があります。JPX日本取引所グループは、多くの株価指数を日々公表しています。今回は、今後の上昇が期待できる業種として、史上最高値が視野に入っている東証業種別株価指数・海運を取り上げました。これまでの動きを振り返り、今後どのように推移しやすいのかを考えてみました。
2025年3月期の業績で海運企業の上振れ期待が高まる
以下は、日本経済新聞10月3日18面の記事を抜粋しました。
2025年3月期の業績で上振れ期待が高まった企業はどこでしょうか。6月末時点と比べ9月末の市場予想が切り上がった企業を調べると、海運3社が上位に並びました。コンテナ船の運賃高騰が続いています。AI投資が追い風の半導体関連企業、市況回復の恩恵を受けた企業、日本銀行の利上げで収益改善期待が高まったメガバンクなども上位に入りました。
コンテナ船の運賃上昇の影響
海運各社の業績好調の背景としては、中東情勢の緊迫で遠回りの喜望峰ルートの利用が増え、コンテナ船の運賃が上昇した影響が大きくなっています。新造船の竣工で船の不足感が薄れて足元の運賃は天井を打ちましたが、市場では強気な見方が残ります。最近の中東情勢などを見ましても、今後も高い水準で運賃は推移しそうです。
業種別株価指数・海運とは
業種別株価指数について検索してみますと、以下のホームページで詳しく説明されています。
(業種とはなに?東証の33業種について解説します – TBL Online Education Center (tbladvisory.com))
海運は、船舶による海上輸送や関連するサービスを提供する業界です。世界的な貿易の動向に大きな影響を受けやすくなっています。市場環境によっては、船舶の供給過剰や需要不足によって、株価が下落することもあります。
海運の業績を決める「運賃」
以下は、「Quick Money World」の「5つのポイントで整理する『海運株』 業界の仕組みを解説」から抜粋しました。
海運銘柄の株価や業績を決める大きな要素は「運賃」収入です。運賃は船で運ぶものの量や距離である「荷動き」の需給で決まります。需要は景気動向に大きく左右されやすく、自社でのコントロールが難しくなっています。これらから、海運は「景気敏感」の市況産業と言われます。
海上輸送量は物流全体の約7割を占め、世界中のサプライチェーン(供給網)の中心的な役割を担っています。ばら積み貨物船、コンテナ船、自動車運搬船、エネルギー運搬船によって様々なものが運ばれます。今後も、世界景気が好調で供給が足りなければ、コンテナ船の運賃が高めで推移しそうです。
史上最高値の高値が視野に入った海運株の動き
ここでは、東証業種別株価指数・海運の動きとその36カ月移動平均について示してみました。文章は、「Quick Money World」の「5つのポイントで整理する『海運株』 業界の仕組みを解説」を参考にしました。
海運銘柄の株価や業績は、基本的に1990年のバブル崩壊後は低迷しました。バブル経済崩壊後の日本の不景気、リーマンショック後の世界の経済成長の鈍化に合わせて、 荷動きの需要が減った影響を受けました。低迷が続いたため、国内の海運業界は再編を迫られ、1999年に大手3社体制になりました。
各社で業績に占める割合が高く、業績が振るわなかったのがコンテナ船事業です。大手3社はコンテナ船事業を各社の本体事業から切り離し、2017年に3社で出資する合弁会社 「ONE(オーシャン・ネットワーク・エクスプレス)」を設立しました。海外路線の需要増に合わせて、連携して打開を図りました。
過去2回の上昇局面
市況産業として苦しい時期が続いた海運各社ですが、2000年以降に業績と株価が大きく上昇したタイミングが2回あります。2000年代と2020年代の新型コロナ禍以降です。
2000年代の上昇要因は、新興国の経済成長です。特に中国の影響が大きく、投資や消費の大幅な伸びに伴い、資源輸送の需要の増加で、海運企業の業績拡大につながりました。
2回目の海運株上昇は新型コロナ禍以降、現在までです。新型コロナ禍以降に中国の工場が再開し、北米や欧米は巣ごもり需要の増加で輸送の需要が拡大しました。一方、両地域の港湾はコロナ禍での人手不足が解消せず、荷下ろしができずに港で滞留する船であふれ、海上輸送に遅延が生じるようになりました。海運企業は増便などで対応しましたが供給が追い付かず、運賃が大幅に上昇しました。
アベノミクス(2012年終盤)以降は多くの業種が上昇しました。業種別株価指数・海運は2007年10月につけた高値をまだ上抜けていませんが、まもなく史上最高値を更新する期待が持てそうです。
数年に一度の高値を上抜けたかどうかは、株価をみる上で重要です。株式市場では、株価が上がったところで売りを行う投資家が存在しますので、こうした売りを吸収できたことになります。
主だった高値を上抜けた後はその後も上昇しやすいといえます。アベノミクス以降の高値を上抜けた各業種別株価指数を振り返りましても(図は省略)、大きな上昇がみられました。
海運株の季節的傾向
ここでは、過去の業種別株価指数・海運の月別の騰落率を調べてみました。
表の下の平均騰落率は、上昇傾向にあった2001〜2007年、下落傾向にあった2008〜2019年、上昇傾向にあった2021〜2023年で平均騰落率を示しました。
2001〜2007年、2020〜2023年に上昇傾向にあり、2008〜2019年に下落傾向であった月、つまり中長期的な方向性とよく一致した月は、5月、6月、8月、10月などでした。
近年は5、6、8月などに上昇することが多く、過去の経験則から見ると今後も上昇しやすいことを示唆していると考えます。
まとめ
今回は、東証業種別株価指数・海運を取り上げました。今後も、世界景気が拡大傾向で、コンテナ船の供給が足りなければ、コンテナ船の運賃が高めで推移しそうであり、海運株は堅調に推移する期待が持てます。季節的な経験則などから考えますと、近年は5、6、8月に上昇する年が多く、海運株は史上最高値を更新し、堅調に推移する期待が持てます。