東証が設置している「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」
2022年4月に東証が市場再編を行ってから、間もなく1年が経過しようとしています。
東証プライム市場、というような呼び名にもようやく慣れてきたでしょうか。
実は市場再編はまだ終わったわけではありません。
東証は「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」を2022年7月から何度も開催し、今後の方針を策定中です。
その目的は、健全な新陳代謝を機能させる観点から、
- 上場維持基準に関する経過措置の終了時の明確化
- 上場維持基準への抵触の懸念のない上場会社に対しても、まずはプライム市場とスタンダード市場を中心に、資本コストを意識した経営の推進をして、中長期的な企業価値向上に向けた自律的な取組の動機付けとなる枠組みを作ることです。
この記事では「上場維持基準に関する経過措置の終了時の明確化」について言及したうえで、保有の是非を検討すべき銘柄の性格について触れます。
変化した「上場維持基準」
2022年4月の東証市場再編で、整備されたことの一つが「新規上場基準」と「上場維持基準」の原則共通化でした。
実はそれまでの市場ではこの2つに一致していない点がたくさんあったのです。
例えば東証一部に新規上場するときの時価総額と、他市場から東証一部に鞍替えするときの時価総額の基準は異なっていました。
市場再編で共通化されて分かりやすくなった一方、「上場維持基準」に関しては厳しくなった点もあります。
出典: JPX website
上場維持基準を満たせていない企業は、「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を提出・開示することで、経過措置を適用されています。
経過措置適用中の上場維持基準は、現行の基準よりかなり緩くなっています。
出典:JPX website
さて、「経過措置の内容」には「当分の間」という表現があります。
この期間は市場再編時には決まっていませんでした。
「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」では、この期間についても議論がなされ、具体的なスケジュールが見えつつあります。
出典:JPX website
2025年3月以後に到来する基準日から、本来の上場維持基準を適用する方針が会議で提案され、参加者もおおむね賛成しているようです。
上場維持基準に抵触し、1年以内の改善期間に改善しなかった場合は、監理銘柄・整理銘柄(原則として6か月間)に指定されます。
ただし、「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」で2026年3月以後最初に到来する基準日を超える期限の計画を開示している会社については、計画期限における適合状況を確認するまで監理銘柄指定を継続される見込みです。今まで明確な期限が区切られていなかったことを考慮してのことです。
あと2年程度で経過措置の適用がなくなる上場企業があるということです。
市場再編移行日の前日において市場第一部に所属していたプライム市場上場会社には、改めて審査なしでのスタンダード市場を選択する機会が6か月間設けられる見込みです。
プライム市場に条件付きで所属している企業が、上場維持基準を満たせない場合、プライム市場銘柄ではなくなることにリアリティが出てきたとでもいえばいいでしょうか。
これを踏まえて、筆者が保有の是非を検討したほうがいいと考える銘柄群があります。
「発行済株式数ベースの時価総額」が100億円未満の銘柄です。
上場維持基準が要求する時価総額は「流通株式時価総額」です。
「流通株式」とは「上場有価証券のうち、大株主及び役員等の所有する有価証券や上場会社が所有する自己株式など、その所有が固定的でほとんど流通可能性が認められない株式を除いた有価証券」です。
発行された株式が上場されても、すべてが市場で取引されることは稀です。
大株主や役員等の保有分はほとんど流通しません。
「流通株式」とはいわば反対の意味を持つ言葉が「発行済株式」です。
流通株式時価総額が発行済株式数ベースの時価総額を上回ることはありません。
上場維持基準が要求するのは「流通株式時価総額≧100億円」です。
ですから、発行済株式数ベースの時価総額が≦100億円の銘柄は「流通株式時価総額≧100億円」という基準を絶対満たせません。
東証プライム市場において発行済株式数ベースの時価総額が≦100億円の銘柄をスクリーニングしてみたところ88銘柄ありました(2023年2月22日現在)。
このような銘柄は今後2年程度の間に大規模な対策を打ち、株価が上昇しない限り、「流通株式時価総額≧100億円」の基準を満たせない可能性があります。
スタンダード市場銘柄になる可能性があると考えたほうがいいでしょう。
発行済株式数ベースの時価総額が≦100億円の銘柄は既に、TOPIXにおけるウエイト低減対象になっており、プライム市場銘柄ではなくなったとしても、株式市場における影響はそうないかもしれません。
だからこそ、すでに保有しているならば継続するのかしないのか、新たに保有の意思があるなら買うべきなのか買わないべきなのか、2年程度先のことを見据えて自分なりの方針を決めたほういいと考えます。
該当の銘柄の適時開示には目を通しておくべきでしょう。
「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」やその計画の進捗度合いについては時折、企業側から開示されるからです。