投資家と相続。相続時に対応の分かれる上場株と非上場株について

まず唐突な質問ですが、投資家として成功したお金はどこに消えると思いますか?消えるというのは死後の話です。投資で百発百中成功していても、亡くなった日に所有しているお金を黄泉の国に持っていくことはできません。いわゆる投資会社であれば会社を後継するものが資産を引き継ぎますが、個人の場合はどうでしょうか

目次

相続時に残る資産は評価額

まず所有している株には2つの価格があります。1つは評価額といい、現時点での価格です。値動きは常に変動しており、実際に売却するまでに上昇することもあれば、大きく値が下がることも考えられます。

実際に売却の指示を出すと売却値が固まり、手続きを経て現金に換えることができますが、当然ながら死後に売却指示を出すことはできません。そのため、相続に残る資産は必ず評価額です(売却指示を出して急に亡くなった例外事項は除きます)。

所有株が上場株か非上場株かによって対応は変わる

まず、株は資産のため、法律で定められた配分にもとづいて法定相続人が承継します。亡くなった人が公的遺言などで意思表明をしていれば、優先して配分される場合もあります。なお相続の世界では資産を残し亡くなった人を被相続人、配偶者や子世代で資産を承継する人を相続人といいます。本記事において頻繁に使用しますが、相続領域に不慣れな方は混乱しますので注意しましょう。

所有株が上場株の場合

所有株が上場株の場合は、亡くなった人も株を承継した人も、更に言えば第三者も当該株式の価値を認識しています。証券取引所で公開されている株価です。とても多くの年かの購入注文と売却注文のなかで株価は決まりますが、当然ながら人が亡くなって相続が発生するまでのあいだも株価は変動しています。「どの段階の株価を相続の株価とするか」が大切なポイントです。この株価を相続税評価額と呼びます。

上場株における相続税評価額は以下の4つの値のうち、最も低い金額を適用します。

相続開始日の終値
相続開始月の終値の平均
相続開始前日の終値の平均
相続開始前々月の終値の平均

相続開始日とは被相続人が亡くなった日です。相続開始日が土日や祝日の場合は、亡くなった日に近い日の最終価格を適用します。土曜日であれば前日の金曜日、三連休の中日であれば連休に入る前と連休明けの日の平均値を適用します。

これらは証券会社のホームページなどで確認できるため、特に税理士などの専門家に確認する必要はありません。もちろん税理士や証券会社は例外なくこのルールを理解しています。

所有株が非上場株の場合

スタートアップ投資の隆盛により、最近は個人投資家でも非上場会社の株を持つ人が増えています。非上場の株式は以下の3つの方式から選んで算出します。

純資産価額方式その会社が解散すると仮定して株主に配分される金額
類似業種比準方式事業内容が似ている上場会社と類似して算出する金額
配当還元方式今後10年で受け取ることのできる配当金の総額

より細かい算出方法は本稿の目的ではないので以降は割愛しますが、非上場株は上場株に比べて算出方法も煩雑なので、ほかに取り掛かることの多い相続の前に可能な対応は済ませておくことをお勧めします。

非上場株は換価性が低い

実際に相続が発生して算出しようとしても、こちらは上場株のようにホームページで簡単に確認できるものではありません。法定相続人は所有している非上場株の発行会社の社長・経営陣や以前その会社の株価算定を担った専門家を探す前に、まず亡くなった被相続人の人脈を洗い出すところから始めなくてはなりません。

相続人が承継する資産に一定の評価を持ちたいのに対し、発行会社としては可能な限り安値で引き取りたいという目論見があります。亡くなった被相続人のように発行会社とのあいだに信頼関係が出来ていれば上手に妥協点の価格を見出すことも可能なのですが、相続をきっかけにあった相続人と発行会社はそう上手くはいきません。

非上場株の相続対策は早めに取り組むことが鍵

相続時における上場株と非上場株の対応をお伝えしてきました。率直に言って上場株の相続はあまり問題がありません。仮に個別株ではなく投資信託やコモディティ(金や原油、小麦などの商品への投資のこと)であっても価格算出に公開性があり、相続人が資産運用の言葉を知らなかったとしても不安になることはないでしょう。

相続の手続きには期限があるので、その期限に気をつけながら手続きを進めることが大切です。極端な言い方をすると、被相続人が準備をせずに亡くなっても、それほど面倒なものではありません。ただ、相続人が上場株投資をしていた窓口の証券会社を知らない、といった情報共有がまったくない状況での相続はそれなりに煩雑なものなので、対策は必要です。

非上場株の場合は一転して状況が変わります。高齢者の投資家で体調が崩れる兆候などは、やはりある程度もしものことを考え、可能な限り相続人の負担を増やさないように整理をしておくことを推奨します。ここ数年流行ったことばに終活がありますが、相続に向けた資産の整理もそのなかに含まれます。ほかの資産である不動産などと比べても、非上場株はとても閉鎖性の高い資産運用です。だからこそ念を押した準備、かつ可能な範囲での対策を進めておきましょう。

非上場株のセカンダリマーケットに期待したい

状況は変わらず、被相続人の持つ生前の「残る家族には迷惑かけたくないなあ」という気持ちに賭けるしかないのでしょうか。日本はとかく生前に相続含め死亡の話をしづらい国民性といわれています。ある地方においてはいまだに、俺が死んで相続の話は四十九日の後にしてくれといわれるようです。

最近になって1つ、大きな動きが見えてきています。それは非上場株のセカンダリマーケットです。非上場株は証券会社で表立って売買することはできませんが、許可された証券会社が一定の状況下のもと、オフラインで売買する機会は存在しています。一般の投資家が少額で非上場株を買う「投資型クラウドファンディング」を運営しているA社がオンラインでのセカンダリマーケットサービスを発表しています。

何かしらの理由で非上場株を手放したい人もいれば、発行会社と縁が無くて株の購入を出来なかった人もいます。また運悪くタイミングを逃してしまった人まで、非上場株周りにはたくさんの事情があります。そのなかで相続が関わることで売却に舵を切った家族、特に残された相続人が迷わないように、セカンダリマーケットのような売却機会が広がり、知名度を増やしていくことに期待します。

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この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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