資産運用を始める際に、運用シミュレーションサイトで資産の増え具合を検証している方がほとんどでしょう。
利息のほとんどつかない銀行預金1,000万円をインデックスファンドに投資して年利7%運用すれば10年で2,000万円。
こんな皮算用をしているかもしれません。
しかし、その期待利回り7%はどこから持ってきた数字ですか。
インターネット検索でS&P500の過去利回りを参考にしたのでしょうか。
しかし、残念ながらその期待利回り通りの結果になることはありません。
これは『未来の株価は予測できないから』などという理由ではなく、過去の平均利回りでシミュレーションした結果は、必ず現実の運用結果より良い結果が表示されてしまうからです。
そこで今回は平均利回りに対するよくある勘違いと、シミュレーションサイトを利用する際の注意点を解説します。
『過去の平均利回り』が参考にならない
シミュレーションサイトを利用する場合、期待する利回りを入力する必要があります。
投資対象の情報をインターネットで調べて参考にするのが一般的でしょうか。
しかし、そのネット情報が正しいとは限りません。
特に個人で情報を出しているインフルエンサーやブロガーは故意か無意識かにかかわらず、現実的でない利回りを公開している場合がほとんどです。
なぜなら金融商品の正しい利回りは簡単には求められないからです。
では、一般的に使われている平均利回りを求める3つの方法を見ていきましょう。
3つの平均利回りと参考にならない理由
近年は株式や株価指数の値動きデータを簡単に入手できるようになりました。
新NISAで人気の投資先であるS&P500指数などは50年以上前にさかのぼってデータを得ることができます。
それらのデータを利用して過去利回りを計算する方法は、この3つでしょう。
- 年間利回りを平均
- トータルリターン(上昇率)を年数で割る
- トータルリターンを複利を考慮して逆算
ただ残念ながら、どの方法で導き出した期待利回りでも、そのまま資産運用シミュレーションに使える平均利回りではありません。
❶ 年間利回りを平均:プラス利回りでも資産減少の可能性
まずは過去データをもとに一年ごとの利回りを平均してみましょう。
仮に100万円を3年連続年+10%で複利運用すれば、年平均+10%で133万1千円になります。
では以下のケースではどうでしょう。
- 1年目:+90%
- 2年目:-40%
- 3年目:-20%
平均利回りは同じ+10%です。
(90% ‐ 40% ‐ 20%) ÷ 3年 = +10%
このケースで3年後の資産額を計算すると
100万円 × (1 + 0.9) × (1 – 0.4) × (1 – 0.2) = 91万2千円
平均利回りは同じ+10%ですが資産額を計算すると減少しています。
期間内の極端な数値(+90%)が平均を押し上げてしまい、現実の増減とかけ離れた平均利回りになってしまうのです。
ただでさえ値動きの大きい株式投資ですから、単純に各年の利回りを平均したところで、あてにはなりません。
金融商品の勧誘に使われる
この計算方法で出した平均利回りは、悪意のある金融商品の勧誘で使われることがあります。
たまたま高利回りが出た短い期間を含めるだけで、平均利回りを跳ね上げることができますから魅力的な投資先と錯覚しやすいのです。
もしあなたが今現在、投資の勧誘を受けているのなら、この計算方法が使われていないか注意してみてください。
❷ トータルリターンを年数で割る:複利効果が反映されない
次は一定の期間で増えた資産額(トータルリターン)を元に平均利回りを計算してみましょう。
たとえば100万円が5年で150万円になったケースだと『5年で+50%だから年平均+10%』という計算ですね。
しかし、実際に100万円を毎年+10%で5年間複利運用すれば約161万円になります。
これは1年で得たリターンが翌年さらに+10%されて、雪だるま式に増えるからです。
なお、元本100万円が5年で150万円になる利回り(複利)は8.5%程度にすぎません。
単純にトータルリターンを年数で割った利回りは単利のケースですので、実際の利回りより高くなります。
さらに計算期間が長くなればなるほど複利と単利の差は開いていきますから、とてもシミュレーションに使えるものではありません。
個人が発信する情報に注意
この計算方法は単純なため、個人のブロガーやユーチューバーがよく利用しています。
金融商品を紹介する際に平均利回りが高い方が注目を集められますから、あえてこの計算方法を使っているのかもしれません。
「正しくないが嘘でもない」ところが質の悪いところですね。
❸ トータルリターンから逆算:計算に手間がかかる
❷のケースで元本100万円が5年で150万円になる平均利回りは約8.5%でした。
この8.5%はトータルリターンから複利を考慮して計算していますから、平均利回りと考えて問題ないでしょう。
証券会社などで公表されている投資信託の利回りも、複利効果が考慮されています。
ただ、自力で計算するには手間がかかるという欠点があります。
計算式:r = (y/x)^(1/n) – 1
x:初期の基準価額
y:最終の基準価額
n:経過年数
r:平均年利回り
仮にS&P500など有名な株価指数なら投資系のホームページから過去データを調べ、生成AIやExcelなどの表計算ソフトで求められますが、誰でも簡単にとはいきません。
かといって証券会社で公開されている投資信託の平均利回りをそのまま使うこともできません。
なぜなら運用期間が短いからです。
投資信託のトータルリターンは参考にならない
もっとも人気のある投資信託の一つである『eMAXIS Slim 米国株式(S&P 500)』で見てみましょう。
2024年12月末時点でトータルリターン(過去5年)は年23.19%です。
ここ数年はGAFAMなどの巨大IT企業や半導体銘柄が大きく上昇し、円安も基準価額の上昇に拍車をかけました。
投資経験が短い方でも、これが現実からかけ離れた異常に高い利回りであり、シミュレーションで使える利回りでないことは分かるでしょう。
ではもっと長い期間ではどうかというと、データが存在しません。
この投資信託の運用開始が7年ほど前の2018年7月3日だからです。
その他、他の優良な投資信託でも10年を超えるものはほとんどありません。
ごく短い期間のデータしか持たない投資信託の平均利回りを、シミュレーションで使うことはできないのです。
過去200年の米国株式をあてにするしかない
とはいえ、資産運用で将来のライフプランを組むならば、利回りの目安を考えないといけません。
そこで私が参考にしているのが下のグラフです。
「もし1802年に米国で1ドルを投資していたら」の有名なグラフで、株式(Stocks)の利回り(インフレ調整後)が6.7%となっています。
円高円安は無視すべき
なお、画像のグラフはドル円の為替レートを考慮していませんが、期待する利回りにおいて為替変動は無視すべきです。
歴史上、右肩上がりが期待できる株式と違い、為替は二国間の差で変動するだけですから、プラスにもマイナスにもなります。
そしてどちらに動くかの予想はできないので、シミュレーションで使う期待利回りの計算には邪魔になるだけでしょう。
シミュレーション結果は平均利回りの最大値
❶で解説したように平均利回りが同じならば、株価の変動が大きいほどリターンが少なくなります。
そのためシミュレーションで米国株式の過去利回り6.7%を参考にするとしても、そのまま使うわけにはいきません。
現実の株価は大きく変動するので、一定の%で増えるシミュレーションでは『入力した利回りで考えられる最大値』が結果として表示されてしまうのです。
実際の運用結果がシミュレーションより必ず少なくなるのでは、ライフプランの参考にしづらいでしょう。
あくまで個人的な意見ですが、少し抑えた4%~5%程度のシミュレーションがベターだと思います。
まとめ
年間利回りを単純に平均しても意味がない
同じ平均利回りなら値動きが大きいほどリターンが減る
平均利回りを求める際は、複利効果を考慮した計算が必要
運用期間が短い投資信託のトータルリターンは参考にならない
シミュレーションで使う期待利回りは少し控えめに
シミュレーションサイトで結果は現実の結果より、多く表示されてしまうことを覚えておきましょう。
