蓋をされがちな「NISA新制度のリスク」を考察する

NISA新制度のスタートが来年に迫ってきています。証券業界をはじめとした資産運用領域の盛り上がりを見ていると、国が掲げる「貯蓄から投資へ」が更に進行する期待を持つ一方、言葉を選ばずに書くならば誰も彼もNISA、という印象を受けます。実際に筆者は個人相談を多数行っていますが、「ママ友がやっているので(つみたて)NISAを始めています。ところでNISAってどんな仕組みですか?」という耳を疑った話さえもありました。リスクのある投資である以上、NISAにも当然ながらリスクがあり、取り組まない方がいい性格の方や、取り組まない方がいいタイミングは存在します。

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NISAの損失発生リスクが軽んじられ過ぎてはいないか

国内型のインデックス投信が比較的ローリスクだからNISAで始めようという話を聞きますが、ローリスクなのは全体の選択肢がすべて証券投資の中だからの話であり、投資をしないという選択肢に勝るローリスクはありません(回文みたいですが)。

これからNISAを始める方は、投資の大前提である余剰金の投入ではない方も多いのが気がかかりです。生まれたばかりの赤ん坊の教育費を貯めるのにNISAを開始する家計や、住宅購入のために貯蓄した大切な預貯金を投入するリスクがどこにあるのか、落ち着いて考えてから一歩を踏み出すようにしましょう。客観的に見ることにより、資産運用では欠かすことのできない損切りのタイミングも可視化することができます。ただ、この時に壁となるのがつみたてNISA、新制度においてつみたて投資枠となる1階部分の仕組みです。

塩漬けのつみたて投資枠はどこで損切りするのか

銘柄替えも選択肢に入れながら随時評価益・評価損を計測し、資産価値をリアルタイムで把握する方は問題ありません。つみたてNISAは開始時、一般NISAの5年に比べて20年という長さに発表されると「いったいいつ損切りするんだ」と指摘されましたが、今回は無期限に変わります。銘柄変更の仕組みも忘れ長期間所有し、気が付けば何のファンドを所有していたかさえも忘れてしまうような利用者も少なからず発生するでしょう。筆者は1人の専門家としては、新制度の流れに任せてリスクの把握もせずにNISAを始める方にどのような注意喚起ができるのか、懸念している部分があります。証券会社によっては100本以上にもおよぶファンドを、それまで投資の「と」の字も聞いたことのないひとが決めていけるのでしょうか。

NISAの代わりに変額保険という考え方

そこでNISAの代わりに生命保険の変額保険を検討するという考えがあります。NISAと同様に加入者は運用するファンドを選択するのですが、保険料がその元手となる仕組みです。保障が機能するため、塩漬けでもNISAよりリスクが少ないというメリットがあります。

証券会社にもよりますが、NISAは10本以上のファンドから選択する金融機関が多いです。なかには200本近くのファンドを運営する大手もあります。一方で変額保険は10本程度の設定が多く、ファンド選びに自信を持てない方に対して門戸が空けられている印象です。

変額保険のデメリットは?

変額保険のデメリットは、短期間で解約した場合に投入した保険料(払済保険料総額)が戻ってこない可能性が高い点です。保険を運用するにあたって、もっとも気を付けなければならないデメリットといえるでしょう。資産運用は走り出してみて、軌道修正する場合は短期的に決断することが良しとされます。早めの損切りの方が推奨される傾向は確かにあるなからで、資産を保険にしてしまうと臨機応変に対応できなくなるという傾向があります。資産運用のベクトルを保険で考える場合は、短期解約によって確定損を出す可能性が無いか、落ち着いて考えてからでもまったく遅くはありません。

新制度だからと投資に充てる金額をすべてNISAにする必要はない

2024年からNISAは年間上限額を拡充し、買付金額ベースで売却後の購入に非課税枠の再活用ができる生涯投資枠制度も設置されました。2024年から活用をはじめてみようという層のみならず、等身大に現在つみたてNISAを拠出している層にも、追加投資こそ正解といった印象を持たせています。もちろん投資の機会を増やすことは、投資慣れすることも期待でき、それは生活における各所での応用も効くスキルとなるでしょう。

ただ、投資には分散投資の考え方も重要です。資産運用はNISAだけでは無ければ、NISAと変額保険だけ無いものです。自分たちにとって中長期的な投資に回すのはいくらが最適なのか、その拠出にはどれくらいのリスクがあって、どれくらいのリターンが見込めるのか。国と金融機関が主導するNISA狂騒曲に時には乗らず、自分たちなりの答えを見つける視点も合わせ持っていきましょう。

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この記事を書いた人

株式会社FP-MYS 代表取締役。

相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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