2023年12月時点、日本国債の低金利が続くなか、米国の短期国債は利回り5%を超え注目を集めています。
しかし、多くの投資初心者の方が円高で資産を減らす危険があると知り、投資をあきらめてしまいました。
そんな中で為替レートの動きが影響しない、為替ヘッジ付きの債券投資信託に注目が集まっています。
円高リスクを負わずに米国の債券に投資できる、夢の様な投資信託に感じるのでしょうか。
しかし、為替ヘッジ付き投資信託には、目論見書にも書かれていない隠れたコストが存在することは余り知られていません。
この記事では、為替ヘッジの仕組みと隠れたコストを解き明かしていきます。
為替ヘッジ付きの投資信託なら、円高の影響を受けない。
為替ヘッジとは円高・円安の影響を受けることなく、米国など外国の資産に投資できるようにする投資手法です。
例えば、1ドル150円の時に30万円分の米国国債を購入し、半年後に為替レートが1ドル100円になったとします。
この場合、この米国国債を売却すると、元本の30万円が20万円にしかならず、10万円の損失が生じます。
これが為替リスクです。通常は世界で最も安全な資産とされる米国国債であっても、日本から投資する以上、この為替リスクを避けることはできません。
しかし、為替ヘッジ付きの投資信託を購入することで、投資家は為替リスクを負わずに外国の債券へ投資することができるのです。
ただ、この為替ヘッジにはコストが伴うため、その影響も考えて投資しなくてはいけません。
為替ヘッジコストは2国間の金利差で決まる。
日本人が為替ヘッジ付きの米国債券投資信託を保有する場合、為替ヘッジコストは主に日米の金利差によって決まります。
仮に日本の金利が1%、米国が5%の場合は、両国の金利差4%が為替ヘッジコストとして私たち投資家が負担しなければなりません。
受け取る利息に匹敵する為替ヘッジコスト
それでは実際にはどのくらいのコストになっているかを見てみましょう。
下のグラフは2016年9月から2023年11月までの『米ドル円のヘッジコスト』を表しています。
米国が利上げを開始した2022年初頭から為替ヘッジコストが急上昇しています。
これは日本が米国の利上げに追従せず低金利を維持したためです。
その後も両国の金利差が広がり続け、2023年11月では6%近い為替ヘッジコストになっています。
このため残念ながら為替ヘッジ付きの投資信託で米国の債券に投資したとしても、高い利回りの恩恵を受けるどころか、逆に受け取る利息以上のコストを支払う可能性すらあるのです。
為替ヘッジは両替の先送り
なぜ両国の金利差が為替ヘッジコストになるのかについても解説しましょう。
例えば1万ドルの米国国債を1ドル150円の時に買えば150万円です。
このまま米国債券だけを持っていると、円高になった時に損をしてしまいますので「1年後に1万ドルと150万円を交換する」という契約を結びます。
この契約のおかげで、円高になったとしても元本の150万円が保証されるようになりました。
しかし、ここで忘れてはいけないのが、今の1万ドルと1年後に受け取る1万ドルは同じ価値ではないということです。
この契約は実質、ドルから円への両替を1年間だけ待ってもらうことですから、お互い両替を遅らせている1年間の間に利息を受け取る事ができます。
米国の金利が日本より高い場合、ドルから得られる利息が円よりも多くなるため、この差額を契約相手に支払わなくてはいけません。
これが為替ヘッジコストです。
目論見書では確認できない為替ヘッジコスト
この為替ヘッジコストが余り知られていないのには理由があります。
通常、投資信託にかかる費用は目論見書に記載されるのですが、為替ヘッジコストは運用方針やリスク説明に1文が記載されるのみです。
これは為替ヘッジコストは投資信託を運用する過程で発生する損失であって、信託報酬等のように証券会社や運用会社が受け取る費用とは異なるからです。
為替ヘッジは魔法の道具ではない。
為替ヘッジ付きの投資信託を利用すると円高による資産の減少を防ぐ事ができます。
しかし、為替ヘッジには目論見書にも記載されていないコストが掛かる事はあまり知られていません。
もしも為替ヘッジ付き投資信託を、為替リスクを負わずに米国の高金利を受け取れる魔法の道具だと勘違いされておられるのなら、その認識をあらためるべきでしょう。
投資においてリスクを取らずに、リターンのみを得る方法など存在しないのですから。