円相場は昨年来、多くの通貨に対して下落しています。特に円に対して堅調に推移している通貨として、メキシコの通貨ペソが挙げられます。今回は、メキシコペソ円相場が堅調に推移している理由をまとめた上で、これまでの動きを振り返り、今後を予想しました。
「円キャリー取引」が拡大し、資源国通貨や高金利通貨が買われやすい
ドル円相場は、2023年11月につけた1ドル=151円90銭台の安値には達していません(2月29日時点)が、ドル以外の主要通貨に対する円相場を見ますと、昨年つけた安値を続々と更新しています。対円で高値をつけているのは、資源国通貨や高金利通貨が多くなっています。
背景には、円キャリー取引の拡大が挙げられます。円キャリー取引は、市場から低金利の通貨・円を借り(調達し)、高金利通貨を買って運用する手法です。日本銀行が緩和的な金融政策を続けるとの見方から、円は調達通貨に選ばれやすくなっています。
一方、世界的な株高が起こる(リスク資産への投資が活発化する)なかで、資源国通貨や高金利通貨が運用する通貨に選ばれやすくなっています。その両方に当てはまる通貨として注目されるのがメキシコの通貨ペソです。
メキシコ経済・通貨の特徴
メキシコの大きな特徴の一つは、アメリカの隣国であることです。対米依存度が高く、メキシコの輸出全体の約8割が米国向け、輸入の約半分が米国からです(いずれも金額ベース)。
銀などの鉱物資源が豊富で、石油や天然ガスも産出され、メキシコの通貨ペソは資源国通貨と位置づけられ、資源価格の動向に影響を受けやすいという特徴があります。
メキシコの経済見通し
以下は、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)2月2日の記事より抜粋しました。
- メキシコの国立統計地理情報院(INEGI)は1月30日、2023年のGDP成長率の速報値を3.1%と発表しました。
- 民間シンクタンクの2024年の成長率見通し平均は2.37%
メキシコ中央銀行が2024年1月に内外民間シンクタンク37機関に対して実施したアンケート調査(2月1日発表)によりますと、2024年の実質GDP成長率見通しの平均値は2.37%となり、2023年よりも減速することが見込まれています。
しかし、インフレ率の見通しの平均値は4.13%となり、中央銀行の目標(3±1%)をわずかに上回る水準が見込まれています。インフレ率の高止まりを考慮し、中央銀行による政策金利の引き下げは緩やかな範囲にとどまることが予想されます。
メキシコが米国の最大の貿易相手国に
以下は、日本経済新聞朝刊2024年2月7日1面の記事から抜粋しました。
- 日米韓や欧州で中国への貿易依存度が下がっています。米商務省が2月7日に発表した昨年の貿易統計によりますと、米国の輸入相手国は中国が17年ぶりに首位から外れ、メキシコが首位となりました。
以下は、日本経済新聞朝刊2024年1月30日13面の記事から抜粋しました。
- 中国企業からの進出や設備増設も多いようです。米中対立の激化により米国生産のリスクを避けてメキシコを選ぶケースが多いと見られます。海外からメキシコへの直接投資額は2023年1〜9月に329億ドル(約4兆9000億円)に達しました。
今後は、こうした動きが経済指標に出てくる可能性がありそうです。
6月に行われる大統領選挙
メキシコペソの動きを予想する上で、メキシコ(6月)、アメリカ(11月)に行われる大統領選挙は注目されます。
メキシコでは、現職のロペスオブラドール氏に近いシェインバウム・前メキシコシティ市長が勝利する見通しが有力のようです。政局が安定しているという点もメキシコペソを下支えしそうです。
ただし、財政悪化懸念は高まっています。メキシコの現大統領のロペスオブラドール氏が2月5日、年金改革など20項目の憲法改正案を発表したことが背景になっています(日本経済新聞2月7日朝刊11面より)。
米大統領選挙の行方は不透明要因になっているでしょう。
メキシコの通貨ペソ(対円)相場の推移
ここでは、メキシコの通貨ペソ(対円)相場のこれまでの動きを表しました。
2016年にトランプ氏が大統領選に当選する前に下落し、その後も横ばいで推移しましたが、2020年にバイデン氏が当選した後は上昇しました。
足元では、2014年高値を上抜いていることは株価の動きとして強気材料と言えます。約15年ぶりの水準をつけました。
36カ月移動平均かい離率は、30%前後が上値メドになってきましたが、当かい離率が高水準をつけてから、やや遅れてメキシコペソ円相場は高値をつけてきました。今後は、36カ月移動平均かい離率が高水準を保てるかに注目したいと思います。
今後の高値メドとしましては、2004年11月につけた安値・9.01円、心理的な水準である10円、2015年12月につけました高値・11.66円などが挙げられそうです。
メキシコペソ円相場を対象にした25日移動平均かい離率の推移
下図は、メキシコペソ円相場とその25日移動平均乖離率の推移を示したものです。
メキシコペソは、コロナショックのあった2020年前半から上昇基調が続いています。
- 2016年後半に安値をつける前に、25日移動平均かい離率は、水準を切り上げていました(紫の矢印)。
- 2016年後半に高値をつける前に、25日移動平均かい離率は、水準を切り下げていました(青の矢印)。
- 足元は、上昇しているのですが、25日移動平均かい離率は、水準を切り下げています(緑の矢印)。
過去の推移を見ますと、プラス5%を超えるようだと、その後も堅調に推移することが多いと言えそうです
今後の戦略は
今回取り挙げましたように、メキシコの経済は構造的な変化が見られている(米国の最大の貿易相手国になった)こと、(原油相場が高止まりしているなかで)メキシコは資源国であること、(メキシコで利下げが行われる可能性がありますが)メキシコペソは依然として高金利通貨であることなどから、今後も堅調に推移する可能性がありそうです。
米国の大統領選の行方は不透明ですが、プラス材料が多いと考えられます。再び上昇ピッチが速まるかを見極めたいところです。