日本株の株式指数と言えば、日経平均株価を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、資産運用の世界ではTOPIXの方がポピュラーです。日本株運用のベンチマークにされていることが多いです。
そのTOPIXは2022年4月に実施された東証の市場再編に伴い、現在もマイナーチェンジ中で2025年1月まで続く見込みです。
そして、2024年6月にさらなるTOPIXの「変貌」予定が東証からアナウンスされました。
現在「第一段階の見直し」中
前述したように、TOPIXは2022年4月に実施された東京証券取引所の市場再編に伴い、少しずつ姿を変えています。2022年4月からは段階的に各銘柄の流動性に着目した見直しが実行されています。
「流通株式時価総額100億円未満の銘柄」は、日本株市場全体を眺めると小型株に分類される銘柄群です。トヨタ自動車(東プ:7203)や日立(東プ:6501)などに比べると、日々取引されるボリュームが小さい銘柄です。取引量が少ない銘柄は、大きな金額を動かす機関投資家にとって取引しやすい銘柄とはいいがたいです。TOPIXは日経平均株価と同様、流動性にも配慮した銘柄で構成された株式指数になろうとしているのだと筆者は理解しています。
「第二段階の見直し」の見通し
東京証券取引所が2024年6月に公表した「第二段階の見直し」のスケジュールがこちらです。
2024年6月から実施されている「指数コンサルテーション」は、東証が算出する指数を管轄するJPX総研が指数に係る施策の原案を公表し、これに対して当該指数の利用者の多様な意見を募集するものです。このプロセスで施策を決定することにより、公平性、透明性の向上を図ることが目的です。東証が算出している指数はTOPIX以外にもたくさんあり、必要に応じてそれぞれの指数について指数コンサルテーションが実施されています。TOPIX第二段階の指数コンサルテーションについては8月中旬に意見の受付を終了しています。
想定されるルールの変更
この記事が公開される頃、すでに指数コンサルテーション後のルールの公表が終わっているかもしれませんが、執筆時点で公表されている資料から想定されるルール変更は主に2つです。
- 対象銘柄
現行のTOPIXに新たに追加される銘柄は「プライム市場」上場銘柄のみですが、第二段階の見直し以降は、「プライム市場」、「スタンダード市場」及び「グロース市場」上場銘柄であることを条件にします。「プライム市場」以外に上場する銘柄も、新たにTOPIXに追加の対象になるということです。
- 流動性の考慮
「年間売買代金回転率」と「浮動株時価総額の累積比率」という流動性基準が導入されます。「売買代金回転率」は月次で(日次の東証の売買⽴会での売買代⾦の中央値×営業日数)÷ 月末最終営業日の浮動株時価総額で算出したものを年間合計します。「浮動株時価総額の累積比率」はTOPIXの構成銘柄の範囲を決めるものです。
この2点の変更を加味すると、TOPIXの姿はこのように変化すると東証は試算しています。
浮動株時価総額は4兆円しか違いませんし、マーケット全体のカバー率も大きく変わりませんが、各銘柄の浮動株時価総額と1日あたり売買代金は現行TOPIXの2倍以上になることが見込まれます。
一番大きな変化が見込まれるのは銘柄数で、約500銘柄減少する見込みです。小型株が減ることで浮動株時価総額と1日あたりの売買代金が上昇するのです。
一方で、「プライム市場」上場銘柄に限定しないことで、「スタンダード市場」、「グロース市場」から50銘柄程度がTOPIXに採用される見込みです。
「プライム市場」に上場区分を変えるのでは?という予想はしばしばなされ、「スタンダード市場」に上場している日本マクドナルドHD(東ス:2702)やワークマン(東ス:7564)などはその候補としてちょくちょく名前が挙がっていたものでしたが、現行のルールでは発行体自身が「プライム市場」上場を選ばない限り、TOPIXには採用されません。
第二段階の見直し後はどの市場に上場しているかは問われなくなりますので、日本マクドナルドHD(東ス:2702)やワークマン(東ス:7564)などが2026年10月に公表される第二段階の見直し後でTOPIXに採用される可能性があります。採用されれば、TOPIX連動資金が買う対象になります。とはいえこれらについては2年以上先のことですので、今後2年程度のプライム市場以外の銘柄の取引ボリュームや株主構成などにより事情が変わる可能性は大いにありますので、先回り買いの判断は慎重になさってください。
個人的には銘柄の絞り込みは歓迎です。
現行のTOPIXは採用銘柄数が多すぎるように常々感じていました。
もっと言えば、利益水準なども加味して銘柄を絞り込み、「儲かる指数」になってほしいように思います。
いきなり構成銘柄数が減るわけではない
第二段階の見直しでは、TOPIXを構成する銘柄数が減少すると見込まれますが、いきなり全部が除外されるわけではありません。
除外される銘柄は2026年10月から3か月おきに以下の表にもとづいて、TOPIXにおけるウエイトが減少していきます。これは、現在実施されている「第一段階の見直し」における段階的ウエイト低減と似たようなルールです。
このようなウエイトの減少対象銘柄は2026年10月の第5営業日に公表される見込みです。
見直しに伴ってTOPIXの連動資金が動く
東京証券取引所は、TOPIXの第二段階見直しを試算するにあたり、TOPIXに連動する運用資金を83兆円と見積もっています。第二段階の見直しに伴い、ウエイトが低減する銘柄はこの83兆円から売られる対象になりますし、新たに採用される銘柄は83兆円の資金が採用される銘柄のウエイトにもとづいて買う銘柄になります。
その結果、TOPIX連動資金がどのように動くかを銘柄の規模別に推定しています。
小型株の多くはウエイト低減対象になりますので、小型株のマイナス幅が一番大きい一方で、小型株が減少した結果ウエイトが上昇すると想定される大型株はウエイトが上昇する見込みです。
この試算は2023年8月最終営業日時点のデータを用いて算出されています。その後2023年10月には毎年恒例の超大型、大型、中型、小型の区分入れ替えが実施されていますし、新たにTOPIXに追加された銘柄もありますから、ウエイトの変化の推定結果はあくまでも参考でしかありませんが、東証が公表した資料にもとづけば、個別株への寄与を推定すると大型株にはプラス、小型株にはマイナスとなるでしょう。
「プライム市場」を目指す企業が減るかもしれない
現行のTOPIXに新たに追加される銘柄は「プライム市場」上場銘柄というルールがあります。ですから、「プライム市場」上場銘柄は他市場上場銘柄より、やや上位市場ととらえられているように思います。
第二段階見直し後は、「スタンダード市場」や「グロース市場」に上場していても、流動性と時価総額の規模がルールの範囲に入れば、TOPIXに採用される銘柄になります。で、あれば、第二段階見直し後は「頑張ってプライム市場上場銘柄になることを選ばなくなる」企業が増えると筆者は考えています。
あまり知られていないかもしれませんが、東証は上場する市場と時価総額の規模に応じて、上場料金を上場企業から受け取っています。新規上場時だけではなく、上場していれば毎年発生します。
また、市場区分を変更する際にも、変更審査料や市場区分変更料が発生します。
TOPIXに投資する立場では意識しなくて済むことですが、株式を発行して上場いる企業にとっては必ず発生する費用ですから、決して無視できないでしょう。例えば「スタンダード市場」に上場していても、TOPIXに採用される可能性が大いにあるのなら、TOPIXの第二段階見直し後、あるいはその前ぐらいから「プライム市場」上場であることを積極的に選択しなければいけない理由が減ってしまうように感じます。
以前は、東証一部上場→TOPIX連動資金買いを期待して、市場変更をする銘柄を予想し、先回り買いをするというストラテジーが可能でしたが、第二段階の見直し後には有効なストラテジーにならないでしょう。
まとめ
2024年6月に東京証券取引所がTOPIXのルール変更見込みを発表した
第二段階の見直し後は、TOPIXを構成する銘柄数が減る見込みだが、段階的にウエイトが減ることになっている
構成銘柄が上場する市場を問わないので、「スタンダード市場」「グロース市場」銘柄もTOPIX採用銘柄になる可能性がある。
TOPIX連動資金の動きを想定
第二段階の見直し後は、プライム市場を目指す企業が減るかもしれない