世界のあらゆる市場の中で、米国の長期金利市場は世界の多くの投資家に注目されています。米国の10年債利回り(長期金利)は、昨年、約17年ぶりの水準に上昇し、債券としての魅力が高まりました。
今回は、米国の10年債利回りのこれまでの推移を振り返り、今後はどのように推移しやすいかを考えました。目先は、上昇も低下もしにくい場面が続くかも知れませんが、どのような戦略が有効かを考えてみました。
世界の投資家に注目される米長期金利
米国の債券は世界で最も安全な金融資産とされ、世界最大の売買を誇ります。
米国の債券に関する内容は、当サイト2023年9月26日に掲載した「世界の投資家が注目する米長期金利の動きを振り返り、今後を予想」ですでに取り上げました。今回は、その後の動きを書き加えて、再度予想してみました。
長期的にみた米国10年債利回りの動き
下図は1996年以降の米10年物国債利回りの推移です。
過去の推移を見ますと、数年に一度は大きな低下を見せてきたことが分かります。2003年はイラク戦争を受けて低下しました。2008年はリーマンショックを受けて低下しました。2016年は英国のEU離脱による悪影響などが懸念され低下しました。2020年は新型コロナウイルス拡大による景気後退懸念で、10年債利回りは0.3%まで低下しました。
その後は、ワクチン開発の報道がなされたことなどから、米株式相場の上昇とともに、米10年債利回りは上昇し始めました。その後の利回りの上昇ピッチは早く、昨年つけた水準は、コロナ前の2014年や2018年につけた水準を大きく上回りました。
米10年債利回りが昨年10月まで大きく上昇した背景
昨年10月まで米10年債利回りが上昇を続けた背景としては、コロナ禍からの回復以降に強い経済指標・物価上昇(インフレ)がみられたことが挙げられます。
さらに、昨年10月辺りでは、米国債券市場で国債需給への不安が高まった面もありました。これまでの金利上昇によって利払い費が増加し。税負担が増加し国債発行が増額されるとの見方が米国の10年債利回りを押し上げました。
米10年債利回りが昨年10月から低下した背景
以下は、日本経済新聞朝刊2月2日11面の記事から抽出しました。
米国債券市場で国債需給への不安が和らいでいます。財政赤字の拡大による国債発行の増額に打ち止めが見えてきました。税収増加や利下げが始まると利払い費が抑制されるとの見方が追い風となり、長期金利は低下傾向となりました。
約4年おきに低い水準を付ける傾向
前述のように、サイクルとしては、4年から5年に1回程度は米国の長期金利は低い水準をつけてきました。米国金融政策の予想として、「2024年に米国で利下げが開始される」との見方は多数派と言えるでしょう。水準はそれほど急に低くならないと考えますが、低下する可能性はあると考えます。
また、生産性が大きく向上した1990年代のような水準[敬小1] まで上昇する可能性は高くないとみています。
米10年債利回りを対象にした25日移動平均乖離率の推移
下図は、米10年債利回りとその25日移動平均乖離率の推移を示したものです。
米国の10年債利回りは2013年頃から中期的な方向性(上昇や低下)がはっきり見えるようになったと思われます。
- 2013年6月に25日移動平均かい離率は17%台をつけて、その後、米国10年債利回りは2014年1月まで上昇を続けました。
- 2016年11月に25日移動平均かい離率は22%台をつけて、その後、米国10年債利回りは2018年10月まで上昇を続けました。
- 2020年6月に25日移動平均かい離率は29%台をつけて、その後、米国10年債利回りは2023年10月まで上昇を続けました。
過去の推移を見ますと、プラス20%を超えるようだと、1〜3年後に米長期金利は高い水準をつけるケースが見られています。一方、プラス20%以下で推移するようですと、その後の金利水準はそれほど高くならないようです。
最近は上下にかい離しにくくなっている
最近の米国の10年債利回りの25日移動平均かい離率は、図に青の矢印で示したように上下にかい離しにくくなっています。今後動いた方向に、大きく動く可能性がありそうです。
図に緑の矢印で示したように、2018年に3.3%をつける前にも、米国の10年債利回りの25日移動平均かい離率は上下にかい離しにくくなった場面がありましたが、その後は勢いよく米国の10年債利回りは低下しました。
最近は、10%上方にかい離しなくなっていることから、米国の長期金利の一段の上昇は今のところ難しいと考えています。
米国の経済指標に敏感に反応する展開が続きそう
2/2発表された1月雇用統計では、非農業部門の就業者数が前年比で35.3万人増えるなど、労働市場は好調さが見られています(日本経済新聞2月3日3面)。
今後も雇用や賃金の強さが見られるかが注目されます。雇用や賃金の回復傾向が崩れるようだと、FRBは利下げを行いやすくなります。
今後も、米国経済指標のなかで雇用や消費などの動きには敏感に反応するでしょう。
FRBは1月のFOMCで4会合連続の据え置きへ
以下は、日本経済新聞朝刊2月2日3面の記事から抜粋しました。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は1月31日の記者会見で金融引き締めの修正を急がない考えを示しました。米経済が利上げ後も強さを維持しているためです。利下げや量的引き締め(QT)の減速によって手綱を緩めるのは、高インフレの鎮圧を確信してからでも遅くないという姿勢に傾いています。
今後の戦略は
今回は、米10年債利回りとその移動平均との関係をとりあげました。足元の米国経済で見られる強さとFRB議長の発言から、米国の10年債利回りはまだ急低下する場面ではなさそうです。移動平均かい離率は一定範囲内での推移が続く可能性が高そうです。
しばらくは、移動平均かい離率などを使って、5%程度上方にかい離した(債券価格が下落した)場面で買いを検討する方針が有効であると考えます。
過去の推移を参考にしますと、一度動き始めたら、長期金利の低下ピッチは速いものになるかも知れません。