「株式の売出し」が相次ぐマーケット環境とその先への展望

目次

「売出し」が増えてきた

2023年11月は大型株の売出しが目立っています。

主なものを挙げてみます(日付は適時開示日)。

2023/11/13 味の素(2802)

2023/11/16 アサヒグループHD(2502)

2023/11/29 デンソー(6902)

これらの売出しはいわゆる「政策保有株式」の売却です。

政策保有株式については、BFP投資研究所へかつて寄稿している記事をご覧ください。

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売出しが相次ぐ理由に思い当たることがあります。

約30年ぶりぐらいの株高

「政策保有株式」は筆者が知る限り、保有している方も出来れば手放したいとずいぶん前から考えていた株主が多かったです。

とはいえ、彼らも「株主」です。

少しでも高い水準で売りたいと思うのは至極当然です。

長いこと低迷していた日本株市場が、30年以上ぶりの好調で、絶好の売りのチャンスがやってきたと株主が考えるのは無理もありません。

売却で得た資金を事業投資に使い、自社の業績成長を図るチャンスがやってきたと考えている株主が多いのだと思います。

以前寄稿した記事(https://bfp-investmentlabo.com/2023/08/30/kiso0068/)にも書いていますが、筆者はアナリスト時代、持ち合い株式の変化の推定をしていました。その過程で、さっさと持ち合いを解消すればいいじゃないかと思っていましたが、その仕事をしていた2009年から2012年頃の日本株市場はどん底でした。

約10年経過して、「待てば海路の日和」がやってきたのでしょう。

持ち合い株式の扱いを担当されていた方のご苦労を察すると、本当にお疲れ様でしたとしみじみ思います。

コーポレートガバナンスを無視できない

近年重視されるようになったコーポレートガバナンスが政策保有株式を減らすインセンティブになっています。

政策保有株式は「株式の持ち合い」と表現されることもあります。

お互い株式を持ち合うことで、安定的な株主の確保や敵対的買収を防止することには寄与してきました。

企業買収は1/2以上の議決権など、ある程度大規模な株式の取得が必要ですが、持ち合い株は市場にほとんど出回りませんから、買収をもくろむ者が手に入れづらい株式です。結果として、買収に必要な議決権を確保しづらくなります。

とはいえ、持ち合い株式があることは株主からの経営への監視が甘くなるという弊害もあります。

安定株主がその保有分の議決権行使をすると、かなりの割合の議決が持ち合い株式で決まってしまうことになり、いわゆる、コーポレートガバナンスが政策保有株式の存在によってゆるくなりがちになるのです。

最近の「売出し」に見られる傾向

端的に言えば「売出し」は、市場に流通する株式数が増えるコーポレートアクションです。

それは当該株式の需給を緩めるアクションですから、株価にはネガティブに寄与することが少なくありません。

しかし、時間軸を切り取る限り、理論値ほど株価が下がらないなという印象を持っています。

2023年に関しては、日本株を仕込みたいと考える投資家が多いのかもしれません。

短期的には喜んでいい傾向だとは思います。

誰が買い手になっているかはわかりません。

筆者個人としては、「新たな株主」はそれまでの政策保有と比較すると、シビアな株主だと考えています。業績が悪化するとか、株価が思うように成長しないとか、不祥事が発生するようなことがあれば、いったんは容赦なく手放すような株主の可能性もあるなと思っています。

そのような株主が増えると推定しているのかどうかはわかりませんが、今年は売出しのある程度の部分を自社株買いで対応するケースがよく見られます。

これは、マーケットに流通させる株式数を想定よりも少なくするだけでなく、手元の現金の有効活用にもなり、概して言えばマーケットが好感する手段だと考えます。

「その先」にも思いを馳せたい

「政策保有株式」が売出されることになったら、頭に置いておきたいことが少なくとも3つあります。

売却で得た資金の行方

事業の拡大に繋がるのか、株主還元に使われるのか。

行方を見守りたいです。

売られた方の「政策保有株式」の行方

たとえば、2023/11/29にデンソー(6902)はトヨタ自動車などがデンソー株を売却することになったことを公表すると同時に、自社が保有する政策保有株式について売却の見通しを発表しています。

出典:デンソー IR情報

どんな銘柄を縮減の対象にするのかは、適時開示に載ることもあれば、そうではない場合もあります。

一定の水準を保有している銘柄については有価証券報告書に記載されていますので、気になる方は確認するといいでしょう。

浮動株比率の変化

「売出し」はマーケットに流通する株式数が増えるコーポレートアクションです。

すべてを自社株買いで対応できないのであれば、「浮動株比率」が上昇します。この変化がもたらすものは何なのかは、今後別途書きたいと思います。

さしあたりは、そういう変化が起きるのかと知っておいていただければ幸いです。

まとめ

2023年は大型株の売出しが多い

33年ぶりと言われる株高が「政策保有株式」の売却を促していると想像される。

本来であれば売出しは株価にはネガティブ寄与するコーポレートアクションだが、2023年は必ずしもそうではない傾向がある。

「売出しのその先」に思いを馳せておきたい。

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この記事を書いた人

大学講師兼投資ライター
システムエンジニア->証券アナリスト->地方公務員->セミリタイアな中小企業の嘱託研究員->大学講師

CFP、FP1級、日本証券アナリスト協会認定証券アナリスト保有。
TOEIC950。MBA取得済。投資歴31年余り。

システムエンジニア時代に投信売買システム、生命保険契約管理システムに携わり、それらのしくみにも精通。
趣味はサッカー観戦(川崎Fサポ)、旅、読書、野菜栽培、フラワーアレンジメント。
がんサバイバーでもある。

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